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タキオンの矢  作者: 友枝 哲
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第12話:あなたの明日はいつ来るのでしょう?

<前回のあらすじ>

ジャンク屋りょーたろの前に大量に置かれた部品。

それらはUnion-Roswellというマフィアがソルの家から奪ってきたものだった。

仕方なく買い取るりょーたろ。

時は同じくして、ソルは壊された家の前で呆然と立ち尽くしていた。

ソルは祖父からもらった万年筆を瓦礫の中から拾い上げた。

その万年筆はヒビ割れていた。

そして、ソルはその万年筆の中に隠されていた煌めくキューブを発見したのだった。


 

「すみません。必ず、必ずお返ししますから。もう少しだけ、、、」


「あなたの言う『もう少し』はいつまでなんですかね?」


 一人の男が赤い絨毯の上で土下座をしていた。


 その前には立派な装飾が施されている机があり、その奥には白いスーツを着た細身の男が足を組んで椅子に座っていた。


 その奥の壁には(UR)と書かれた四角いロゴが大きく描かれていた。


 そして、その回りには黒いスーツの屈強な体躯をしたアンドロイドが腰の前で両手を結び、ズラリと並んで立っていた。


 土下座をしている男が顔を上げた。


「明日には。明日には必ず。」


 白いスーツの男が空中で何かを操作するように右手を振った。


 すると、二人の間にウインドウが一つ開かれた。


「明日には必ずや。」


 そう言いながら土下座する男の動画が表示されていた。


 白いスーツの男が話し出す。


「デジャブなんでしょうかね?一昨日もそんなことを聞いた記憶が。。。

 あなたの明日はいつ来るのでしょう?」


 土下座している男は焦っていた。


「あっ、、、えっと、これは、、ですね。」


 白いスーツの男の両脇にいたアンドロイドが男の方に歩き出した。


「あっ、少し待って、、あっ、、」


「こうしている間も時間は進む。返金額はどんどん膨らんでいるんですよ。

 あなたが我々から借りたお金で何をしていたのかも知っています。

 あのカジノは我々の系列ですから。」


「あっの、、テロメライザーも返して、、」


 アンドロイドが男の両手を掴んで拘束した。


 白い男が立ち上がり、机を迂回しながら男のところに近づいていく。


「残念ながらテロメライザーではもう利子にもならないんですよ。」


 人差し指を横に振りながら言った。そして、続ける。


「ただ、ご存じですかね?人工多能性幹細胞で臓器を作るまでの間、数日も命が持たない方もいらっしゃるということを。

 その間を繋ぐ臓器。これはまだ高く売れるんですよ。」


 白いスーツの男が拘束されている男の前に座った。


「あなたが健康そうで何よりです。」


 男は恐怖で震えている。


 白いスーツの男が笑顔になって言った。


「大丈夫。痛くないですよ。」


 もう一人のアンドロイドが近寄ってきて、足から銃のような形の注射器を出した。


 暴れようとするが、アンドロイドの手から逃れることはできなかった。


 注射器が男の首もとに刺さる。


 白いスーツの男が手を上げ、アンドロイドの動きを制して、取り押えられている男に近づき言った。


「安心してください。あなたは生きていることにはなってますから。

 あなたは今後もテロメライザーで我々に借金を返し続けるんです。

 では、良い夢を。」


 取り押さえられている男は恐怖に涙していた。


 白いスーツの男が笑みを浮かべたまま、手を下ろした。


 アンドロイドによって注射器の中の白い液体が男に注入されるや、男が脱力状態となり、深い眠りについた。


 白いスーツの男が立ち上がると拘束していたアンドロイドがそのまま男を部屋から連れ出した。


 その時、白いスーツの男の視野に(Calling... RM)の文字が浮かんだ。


 すぐに男がそれに応じた。


「はい。。はい。今月の納品分はすでに確保が完了しております。

 必ずや。。。はい。はい。

 ご心配には及びません。はい。はい。

 承知しております。」


 応対が終わり、白いスーツの男の頬に汗が流れていた。


 男がふうと息を吐いた。


「生き長らえる時間ですらも金で買える時代。。。か。」





 ソルがジャンク屋の前に着地し、音を立てて滑りながら急停止した。


 その音でりょーたろが店から出てきた。


「おい、ソル。」


「お疲れ、りょーたろさん。」


 りょーたろが店の前のソルの方にさっと近づき、ソルを店の中に引き入れた。


 そして、りょーたろが困惑した顔でソルに話しかけた。


「おまえ。Unionユニオン-Roswellロズウェルはまずいだろ。何やったんだよ?」


 ソルが頭を掻きながら答えた。


「まあ、ちょっといろいろあってね。

 一人住まいのお婆ちゃんを助けたんだよ。

 どうしようもなくて、そのお婆ちゃんの保証人になった。」


「保証人?じゃあ借金背負ったってことか?

 まずいだろ、そりゃ。

 年間あいつらのせいで、どのくらいこの辺りの人がいなくなってるか。

 知ってるだろ?」


 りょーたろがソルに話しながら、ある部品に手を置いた。


 その部品は以前ソルに売って、今日この店に戻ってきたものだった。


 それを見ながら、ソルに再び話し始めた。


「それに、お前の部品一式、これ全部、おれが買い取ったんだ。

 ありがたく思えよ。っていうか、貸しだぜ、これ。」


 部品を見てたソルがりょーたろの方に向き直り、言葉を返す。


「ああ、ごめん。分かってるよ。

 少しずつだけど必ず返すから。」


 そう言いつつ、何かを思い出した素振りをしてソルが再び話し出した。


「あっ、ごめんついでで、倉庫に部品たち置いといて。

 それと、あと、ちょっとこの型式のメモリチップ、読めるやつ、ないかな?」


 ソルが鞄の横のポケットをゴソゴソ漁り、小さい部品入れのケースを取り出した。

 そのケースから5mm角のチップをつまんで取り出し、りょーたろに見せた。


 ソルがつまんでるチップを肉眼で確認しながら、りょーたろが言った。


「もう、しゃーねーな。倉庫代は。。。」


 そう言いながら、りょーたろがメモリチップに目を凝らした。


 目に入れているコンタクトのズームアップ機能が働く。


 そして、チップに書かれている型番を読んだ。


 りょーたろが少しニヤケながらソルを見て言った。


 りょーたろは元々取るつもりもない倉庫代の話よりも古いチップに興味をそそられていた。


「おい、これ、どこで手に入れたんだ?

 結構古いやつだな。

 うーん。これの読み取り機は、、、いますぐはねーな。

 ちょっと取り寄せる必要がありそうだぜ。」


 りょーたろは型番を画像記憶させ、思い出したようにソルの方を再び見て言った。


「ってお前、そんなメモリより自分のこと心配しろよ。

 知ってるだろ?Roswellロズウェル。。。

 この辺り一帯を牛耳ってるマフィアだぞ!

 お前、本当に殺されるぞ!!

 それに、家も壊されちまって、今日寝るところ、どうするんだよ?」


 ソルはりょーたろがメモリの型式を確認し終わったことを認識して、チップを鞄にしまいながら言った。


「まあ、どっか探して寝るよ。」


 すぐにりょーたろが言う。


「うち、上の部屋なら空いてるぜ。使えよ。」


「いや。おれがここ来た形跡が残ってるだろうし、もしかしたらまた来るかもしれないから、やつら。」


 そういって、ソルはりょーたろの店に置かれた部品から次の日の仕事に使う部品だけを取り上げた。


「おまえ、捕まるなよ。表出歩く時はあれ着けて、行方眩ませろよ。

 あとは、、、えーと。えーと。

 まあ、とにかくだ。困ったらいつでも連絡してこい。」


 心配そうなりょーたろの顔を見ながら、ソルが言った。


「親みたく言わないでくれよ。」


 そして、ソルは続けて照れながら小声で言った。


 「でも、あんがと。」


 照れた顔を隠すようにしてソルが出ていった。


 その様子を心配そうにりょーたろは見ていた。


<次回予告>

暗闇の中、次々と起こる爆発。

とうとう開催される”OneYearWar”の世界大会に向けた予選。

その対戦データを新しいAIに活用し、その進化の様子を見ている二人。

彼らはそこに何を見ているのか?

次回、13話 ”だが、離れると、まだまだだな。。。”

さーて、次回もサービス、サービスぅ!!


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― 新着の感想 ―
ディストピアですね。もう完全にディストピアですね。 技術の進歩で売買履歴が調べられるのに堂々とこういう商売されるとか 医学の力で健康レベル高いはずなのに、借金のカタで売られるとか。しかも借金の理由が…
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