第10話:こいつ、AIスレイヤーってことなのか?
<前回のあらすじ>
ソルが貧困層の仲の良いお婆ちゃん宅で医療ポッドを修理していた。
そこにお婆ちゃんを脅しているマフィアが来た。
お婆ちゃんは騙されて借金を作っていたのだった。
見かねてソルがそれを肩代わりしてしまう。その先で何が起こるかも知らずに。
お婆ちゃんの医療ポッドを修理した後、E地区中央区の遊技場でソルは人集りを見つける。
ソルはその人集りの中にある人物を見つけるのだった。
ソルがお婆ちゃんのアパートからE地区中央のメイン通りに出てきた。
メイン通りと言っても、富裕層のような高級嗜好品店がズラリと並んだメイン通りとは違い、貧困層のそれは個人商店のお店が並んでいる小さい商店街のようなものだった。
そのお店の中の一つに遊技場、いわゆるゲームセンターがあった。
そこにちょっとした人集りが出来ていた。
ソルは少し腰をかがめ、その人集りの隙間から中を覗いた。
遊技場は、元々BCDのVR機能のせいでほぼ壊滅状態になっていたが、この6年ほど前から息を吹き返していた。
6年前にリリースされた”The drop of the colony”、そして1年前にリリースされた”OneYearWar”が空前絶後の流行を生み出したためだった。
これらのゲームはよくある宇宙戦争モノでユーザーは宇宙戦闘機やメタリックステラと言われるロボットを作り、 2国に分かれ、戦闘を行うものであった。
その中ではありとあらゆる物理現象、化学的特性をゲーム内で再現、シミュレートしており、さらには世の中にある電子部品がほぼ全て使える仕様となっていた。
その特性から、驚くほどの自由度で宇宙船をカスタムできるものとなっていた。
もちろんメーカーが用意した機体を使うこともできるし、パーツを集め、全て自分専用に宇宙船を作ることもできる。
小型ドローンの大群を操る者が出てきたり、金にものを言わせ、巨大戦艦まで作るプレイヤーも出てきた。
操縦はAIに任せることもできるし、自分で操縦することもできる。
その間を取って半AI操作ということも可能だった。
武器のカスタム、イオン中和フィールドの開発、誘導弾やジャミング技術など、自由度の高さが人々を魅了した。
そして、極めつけは”SummerEye”というスーパーユーザーの登場だった。
この人物が登場するまで、スポーツにおいてもeスポーツにおいても、ありとあらゆる競技で人間はAIに全て打ち負かされるようになっていた。
(今やパラリンピックはオリンピックの記録を遥かに越える記録を打ち立てていた。さらにその上をロボリンピックが行く時代である。)
ところが、このユーザーはAIの思考に情報を書き込んだり、読み出したりするジャミング技術を使い、AIを打ち負かすことができたのだ。
人々はその驚くべき超反応、そして操縦技術の虜になった。
そして、一年前新たなユーザーが登場した。
”LittleForest”というIDのユーザー。
機体が赤く、恐ろしい勢いで敵を撃墜するその姿から、いつしかユーザーたちの間で”RedDevil”と呼ばれるようになっていた。
そのユーザーもまたAIを打ち負かす技術を持っていた。
”RedDevil”の登場と時を同じくして”SummerEye”は姿を消したのだった。
その2人を皮切りにして、生身の人間がAIを打ち負かす現象が少しずつ現れだしたのだった。(ただ、2人は能力は圧倒的ではあるが。)
遊技場では、ゲーム台がリアルの世界に設置されていたため、ユーザーが自分のAIを遊技台に転送してプレイするか、生身の人が操縦するか、一目でどういうスタイルなのかがオーディエンスに分かる。そのため、遊技場が息を吹き返したのだった。
ソルが見た遊技場では、今まさに人が生身で操縦していた。
そのプレイヤーは、ヒューマンプレイヤーであるにも関わらずAIをも打ち落とし、高得点を叩き出すとして、最近認知度が上がってきている者だった。
今やこのゲームにおいて、有名になる=芸能人的な扱いになっており、その回りには人だかりができるほどだった。
特に希望の見えない貧困層において、そういったプレイヤーはスターであった。
「おい、こいつだぜ!昨日、RedDevilと共闘してたやつ。」
「マジかよ?じゃあ、こいつ、AIスレイヤーってことなのか?」
ソルはそのゲームのことをあまり知らなかった。
そのため、遊技場を通り過ぎるソルにとってこの人だかりは不思議な光景だった。
ソルはふとその人だかりの中心でゲームをしている少年を見た。
「なんだ?この人だかりは。。。こいつ、そんなにすげーヤツなのか?」
少しだけ痛むお腹を擦りながら言った。
授業の終わりのベルが鳴った。
「では、今日の授業はここまでとします。」
各自思い思いに席を立ち、すぐに教室を出る者もいれば、なにか片付けをする者もいた。
ルナのアバターは再び宙を仰ぎ見る格好になった。
「ふわぁーーーあ」
ルナは自分の部屋の席に座ったまま、背伸びをした。
その時、ヴァーチャル学校内のルナにいつぞやの高飛車な女子生徒が近づいてきた。
その様子を見て、ルナが慌てて再びアバターに戻った。
「いよいよ明日ですわね、パーティー。
楽しみですわ。聞いたかしら?地球からもアンドロイド最大手”Kinet-dyne”の社長様とその御曹司様が来られるそうよ。
それに、地球連邦総議長のリチャード・マーセナス様や”OneYearWar”の”B-DAI-N.Co”の社長様と御曹司様も来られるそうね。」
ルナがガタッと立ち上がった。
ルナが首を45°に傾け、眉間にシワを寄せ、話しかけてきた女子に顔を寄せて言った。
「だーかーらー!!
私はパーティーには興味ないって何度言ったら分かるの?
言ってるでしょ!?あんな上辺だけの付き合いなんか、意味ないんだって。
キネットダインだか、サイバーダインだか、知らんけど。
ONぞーしだか、OFFぞーしだか、知らんけど。
いちいち私に関わらないでくれる?
って言うか、私の態度でそれ、気がつかないわけ?
えー、まさかそうなん?本気できづいてないん?
そーなんか?言うてみーや!!
って、あれ?"OneYearWar"?あんたも知ってんの?まあ、たまには良いこと言うやん。
はっ!もしかして私の正体知ってんの?」
ブルブルッとルナが頭を振った。
パーティー自体には全然興味のなかったルナだったが、”OneYearWar”の名前に興味をそそられていた。
「そうなのですね。それは興味深いですわね。」
「ええ。ぜひ会場でお会いしましょう。では、ごきげんよう。」
「ええ。会場で。ごきげんよう。」
ルナは去っていく女子生徒をみて、やっぱり慣れないなという顔をした。
<次回予告>
りょーたろのジャンク屋に電子部品を持ち込む者がいた。
それを見て戸惑うりょーたろ。
時を同じくして、仕事を終え、アパートの屋上の小屋に帰ってきたソル。
そこには荒らされ、壊された小屋が。
呆然とするソル。だが、ソルはそこであるものを見つける。
そこから物語が新たな方向に動き出す!!
次回、11話 ”これってメモリじゃ。。。”
さーて、次回もサービス、サービスぅ!!




