昨日のカレーライス
昨日の晩ご飯の時に勢いよく宣言してしまったので、今日はそれで頭がいっぱいでもあった。いや、あれは勢いではなく、そんな時期に至っているのだと思う。
仕事を急いで切り上げ、店へと急いだ。指輪をオーダーしていた店だ。ノゾミに渡す大切な指輪で、デザインはシンプルだが彼女の好みだと思う。サイズも問題ないはずで、気に入ってくれるといいのだがと思う前に、受け取ってくれるのだろうかと少しの不安がよぎる。プロポーズなんて初めてだ。
道を急いだので閉店時間までに何とか間に合った。2年くらい前に出来た会社近くの宝飾店は、店の雰囲気もあるのか、年代を問わず人気があった。入り口ドアを潜ると、今日も遅い時間に関わらず数名と1組のカップルらしき客がいた。
「いらっしゃいませ」俺を見つけた老紳士の店員が声をかけてきた。
「サダですが」
「はい、サダ様ですね。お待ちしておりました。只今、御用意致しますので、少々お待ち下さい」
用件を言わなかったが、店員はどうやら俺のことを覚えていたようで、そう言うと店の奥に消えた。
店員は奥から出て来て「こちらでよろしかったですか?御確認下さい」そう言い、指輪の入ったケースを差し出した。
俺は差し出されたケースを受け取り、中の指輪を確認した。小さなダイヤモンドがある指輪が輝いているようだった。
「大丈夫です。ありがとう」
「では、こちらに受け取りのサインをお願い致します」
「わかりました」
サインをすると「お包み致しますね」と小さな手提げバッグに入れてくれた。
「ありがとう」
「ありがとうございました」そう言った老紳士は、ニッコリとしている。
俺はバッグを受け取り、店を後にした。問題はここからで、全てはこのためだ。
マンションに帰り、ドアを開けるとカレーのいい匂いが漂っている。そういや、昨日はカレーで、今日もカレーのはずで、ノゾミが先に帰宅しているらしい。
翌日のカレーは角が取れて美味いから好きだ。彼女は彼女で仕事があるのだが、最近は彼女が料理を作ってくれている。
「ただいま。いい匂いだね」
「お帰りなさい。それは昨日も聞いた気がするわ」ノゾミはそう言いながら笑っている。
「あのさ、昨日言ったよね」
「あ、うん」
緊張で胸がドキドキする。
「ノゾミ、これを受け取って欲しい」そう言い、胸の内ポケットから指輪ケースを取り出し、彼女に差し出した。
ノゾミは受け取ると「開けていい?」目を輝かせている。
「もちろん」
ドキドキ。
「わあ、指輪だわ。綺麗…私に?」
「そうだよ。受けってくれる?本当は、もっとお洒落な店でも予約して渡そうと思っていたんだけど、俺もノゾミも最近は仕事が忙しくって」
「ううん、嬉しい」
「はめてあげるね」
そう言い、手を取って指輪をノゾミの左手の薬指にはめた。
「ノゾミ、俺と結婚して下さい」
「ありがとう、ユウキさん。こんな私でよければ」
「もちろんだよ」
「嬉しい。よろしくね」
「こちらこそ」
「一緒だね。ずっと一緒だね」
「そうだ。俺たちはずっと一緒だ」
「うん」
「良かった。一緒だよ。この先どんなことがあろうと一緒だ」
「うん、ずっとずっと一緒」
幸せに包まれた。
俺たちは世界一幸せだ。
昨日のカレーライス
前日譚があります。