表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

スナイパーの裏事情

作者: 芝生

スナイパーや銃の知識はネット調べ

間違っていても「生暖かく」読んでください

俺様は凄腕のスナイパー


今まで受けた依頼を失敗したことはない


俺様にかかれば不可能といわれるような依頼も達成するのは朝飯前だ


そんな凄腕のスナイパーの俺様に今回も依頼がきた


やれやれ凄腕のスナイパーの俺様にはバカンスの暇さえないのか


依頼内容はどうってことない


敵対企業の幹部の暗殺だ


ただターゲットは暗殺を警戒しているらしく新しくSPを雇った


SPは優秀な奴らしく、通常の暗殺では成功できないらしい


だから凄腕のスナイパーの俺様に依頼がきたんだろう


通常の暗殺では不可能?


なら通常でない暗殺をすればいいだけだ


俺様の計画はこうだ


ターゲットは会議に出席するために毎月月末最終日に必ずここの環状線を車で通る


運転手は優秀な奴できっかり時速60kmで毎月同じ時間だ


そこを凄腕のスナイパーの俺様が狙撃で暗殺する


ターゲットの距離までは3000m、ビル風が吹く中での狙撃だ


普通のスナイパーや優秀なスナイパーでは無理なミッションだ


だが、俺様は超優秀な凄腕のスナイパーだ


俺様ならどんな状況でもターゲットの眉間に


弾丸を撃ち込むことができる


俺様にかかればこの不可能な高難易度のミッションもイージー、楽勝だ


ただ依頼主には準備期間も含めて依頼達成に半年の期間をもらった


俺様は凄腕のスナイパーゆえに慢心はしないのだ


俺様は周辺ビルを入念に調査し狙撃場所を決定


ターゲットが毎月月末最終日に通る時間帯でスコープを覗きイメージトレーニング


イレギュラーが起こる場合も想定してターゲットの行動パターンを分析


そう、俺様は凄腕のスナイパー


俺様に微塵の隙もない


俺様に依頼の失敗はありえないのだ


依頼が完了したらバカンスの続きでもしゃれ込むか


そう、俺様は凄腕のスナイパー


凄腕のスナイパーには休息も必要なのだ











ーミッション当日ー


外は雪は降っていないが曇天だ


俺様にはミッションの集中力を上げるためにルーティンがある


まずは朝起きてシャワーを浴びる


冷たいシャワーで10分間だ


朝一番の冷たいシャワーは眠気を覚まし、俺様の天才的頭脳を覚醒させてくれる


俺様はラフな格好で外に出る


朝食はいきつけのカフェで朝食を食べることにしているからだ


店に着き、常連客の俺様はいつもの席に向かう


ん?


俺様の指定席に先客がいやがる


どうする?


脅して移動させるか?


いや、俺様は凄腕のスナイパー


一般人に迷惑をかけてはいけない


それに店にも迷惑をかけてはいけない


俺様は凄腕のスナイパー


すこしルーティンからはずれたところで依頼の失敗はない


俺様は指定席から1つ席をあけて座った


少しでもルーティンに近くしたいからといって指定席の隣には座らない


凄腕のスナイパーの俺様は一般人のパーソナルスペースを犯したりしない


常連客の俺様は注文をする


「いつもの」なんて注文はしない


いくら常連客の俺様でもちゃんと店員に伝わるように注文すべきだからだ


俺様はいつものモーニングセットを頼む


ここのモーニングセットは一般的なモーニングセットだ


フランスパンにソーセージ、目玉焼きにマッシュポテト、そしてコーヒーだ


ただモーニングセットのコーヒーは店の特製のブレンドになる


このブレンドを飲み一服することこそ俺様のルーティンだ


モーニングセットがきた


俺様は喉を潤すために特製ブレンドを飲んだ


ん?


いつもと香りが違う


勘違いかと思いもうひとくち飲む


やはり違う


店員!このモーニングセットのブレンドは特製ブレンドではないのか?


なに?


特製ブレンドに使用する豆の入荷が遅れている


なので本日は通常のブレンドになる!?


メニューにも書いているだと!?


本当だ


メニューに補足の付箋が貼っている


くそ、いつもモーニングセットを頼むから俺様はメニューなんて見てない


店員も常連客の俺様がモーニングセットを頼むのをわかっているんだから


注文の時にひとこと言ってくれればいいものを


いや、これはメニューを見なかった俺様の失態だ


店員は悪くない


店もガラガラで全然忙しくなさそうに見えても店員は悪くない


俺様は心を落ち着かせるため深く息を吐いた


特製ブレンドが普通のブレンドになっただけだ


さして変わりはない


少しルーティンから外れただけだ


ただ気分はいいものではない


さっさとモーニングセットを食べて部屋に戻ろう


モーニングセットを完食した凄腕のスナイパーの俺様は


すぐに会計を済ませて店をでた


空は相変わらずの寒空だ











部屋に戻った俺様は狙撃ポイントに向かうための準備を始める


スーツに着替え、相棒の銃を用意し車のトランクに積んだ


凄腕のスナイパーの俺様は狙撃ポイントまで車で移動しはじめた


狙撃ポイントまで車の中でクラシックをかけ移動するのが俺様のルーティンのひとつだ


凄腕のスナイパーの俺様は今朝のモーニングセットの件を忘れるべく


クラシックを聴きながらリラックスして高速道路へと車を走らせた


む?


前の車が詰まってきたな


この時間に渋滞とは珍しい


だが、こんな渋滞はアクシデントにもならない


俺様は凄腕のスナイパー


目的地までは十分に時間の余裕をもって移動している


ここで1・2時間の渋滞につかまろうと十分に間に合うのだ


そう思い凄腕のスナイパーの俺様は車のエアコンのスイッチを入れ暖房をかけた


ん?


暖かい風が流れてこない


エンジンは十分に温まっているのに


まさか壊れたのか?


くそ、朝から不運続きだ


まぁいい


若干肌寒いが問題ない


凄腕のスナイパーの俺様は冷たい風しか流れないエアコンのスイッチを切り


渋滞で進まない前の車を見続けた











くそ、本当に2時間渋滞につかまるとは思わなかった


しかも渋滞の理由がガソリンがなくなって動けなくなった車のせいだと


ガソリンくらい入れておけ


高速道路でガソリンを切らすことは道路交通法違反だぞ


この犯罪者め!


狙撃ポイントがあるビルについた凄腕のスナイパーの俺様はビルのエレベーターへと向かった


このビルのエレベーターは社員証兼セキュリティカードがないと乗れない


もちろん凄腕のスナイパーの俺様は裏ルートで入手済だ


凄腕のスナイパーの俺様は屋上までいけるエレベーターの前で立ち止まり


目の前のスキャン機にカードを通す


ブ~~~~~~~


裏ルートで入手したカードを拒否する音が流れた


もう一度カードをスキャン機に通す


ブ~~~~~~~


バカな


先月までは問題なく使用できた


なぜ当日になって使用できなくなる


コツ コツ コツ


エレベーターホールに響く靴音がやけに大きい


警備員が凄腕のスナイパーの俺様の近づいてくる


当然だ


傍目に見ても今の俺様は怪しい


確認のために警備員が来るのは当たり前だ


どうする?


どうやって切り抜ける?


凄腕のスナイパーかつ天才的頭脳を持つ俺様の頭が高速で回転する


警備員が声をかけてくる


え?


なに?


エレベーターの故障?


セキュリティカードが受け付けない?


張り紙貼ってる?


本当だ


只今故障中の張り紙がある


修理の業者がくるのは明日になるだと!


上へ行くには非常階段で上るしかないだと!


どうする?登る?だと!


登るに決まってるだろ!


凄腕のスナイパーの俺様は警備員に非常階段の扉を開けてもらい、


50階建ての高層ビルを屋上まで登り始めた











凄腕のスナイパーの俺様は屋上の扉をあける


キィィィィっと軋む音を立てながらビルの屋上にでた


扉の建付けが悪いわけではない


俺様がドアノブに体重を預けながら扉を開けたからだ


俺様ともいえど流石に50階のビルを屋上まで登るのはつらかった


息も絶え絶えに吐く息が白い


今日はとことんついていない


だが逆に不運が続いたからこそ、ここから幸運が訪れるのだ


俺様は凄腕のスナイパー


幸運の女神がほほ笑む男だ


さて、狙撃ポイントに移動するか


俺様は少し警戒しながら狙撃ポイントに近づいた


流石に狙撃ポイントまで異常はなかった


当たり前だ


このビルの屋上は通常使用されていないのだから


ふぅ、凄腕のスナイパーの俺様ともあろうものが


不運が続いていたので少しネガティブになってしまっていたようだ


俺様は相棒の入ったケースを開けた


重厚で吸い込まれるような漆黒の銃がケースの中にあった


これは凄腕のスナイパーの俺様の相棒のスナイパーライフル


凄腕のスナイパーの俺様の腕に合わせた特注品だ


理論上の狙撃最大距離は5000メートル


その銃口からは専用の弾丸を発射しターゲットを屠る


外装は光を99.9%吸収するペンタブラックで塗装し


微塵も光を反射しないため狙撃ポイントを察知されることはない


もちろん狙撃スコープも特注品だ


5000メートル先も1ミリもずれることなく調整でき


光の反射を防ぐために特殊な無反射ガラスをレンズに使用


総重量は約10kg


名を「ヴォルフガング」


古いドイツ語で「狼の道」という意味だ


何度コイツを非常階段から捨てることが頭によぎったことか


30階を超えるころからコイツをどうやったら美しくダイナミックに


捨てることができるか頭で妄想し続けていた


力いっぱい下階に向かって叩きつけるように捨てる?


いや、俺様が回転しながら遠心力を利用して捨てる?


いや、ケース事態を縦に回転させながら自由落下もいい


ダメだ


こんなのは誰でも思いつくことだ


もっと、もっと素晴らしい捨て方があるはずだ


俺様は凄腕のスナイパーで天才的頭脳を持つのだから


凡人の思いつくような捨て方では俺様の捨て方ではない


だいたい総重量10kgってなんだ


スナイパーってのは撃ったら狙撃ポイントからすぐに移動するんだよ


なのにいくら特注品とはいえ10kgとかスナイパーライフルをしては不向きだろ


くそ、あのガンスミスのじじい


なにが儂の最高傑作じゃだよ


性能面ばかりに傾倒した実用性に則してない欠陥品じゃないか


大体、狼なんて名前がつくんだから身軽なはずだろ


名は体を表すって言うだろ


俺様の後をついてきながら自力で登ってこいよ


なんで凄腕のスナイパーの俺様が狼を運ばなくちゃいけないんだよ


狼なら俺様を背に乗せて華麗に階段を駆け上れよ


そう妄想しながら相棒の入った重いケースを握りしめ、階段を上り続けたのだ


もちろん本当に欠陥品だの捨てようなんて微塵も思っていないとも


俺様は凄腕のスナイパー


妄想の中でも常に最善を目指すのが俺様なのだ


ターゲットがポイントを通り過ぎるまであと2時間


凄腕のスナイパーの俺様は冷たい屋上の床に腹ばいになり


少し早い狙撃体制に入った










俺様は凄腕のスナイパー


しんしんと雪が降る中、俺様は微塵も動かない


体に雪が積もっていいく


ターゲットがポイントを通り過ぎる時間はとうに過ぎている


何かアクシデントが起きたと想定すべきだ


暗殺計画が露見したとは考えにくい


凄腕のスナイパーの俺様が見過ごしたなんてことは論外だ


もっとも想定されるのはこの雪のせいだ


雪のせいで交通網が遅れているのだ


スナイパーの仕事のほとんどは待つこと


ターゲットを冷静に待つことこそスナイパーに最も必要な能力だ


いつもの俺様なら微塵も焦りはしなかっただろう


だが今は、凄腕のスナイパーの俺様ともいえど猛烈に焦っている


ターゲットが通るのを早く来いと冷や汗を流しながら願っている


なぜなら腹が痛いからだ


ポイントに腹ばいになってから1時間くらいして腹に違和感があった


予定時刻まであと1時間


問題ないと判断してそのまま待ち続けた


だが、予定時刻になってもターゲットは現れない


この時間までは我慢できる


そう判断した時間を過ぎた瞬間に腹の痛みが増してきたのだ


こんな状況は想定外だ


なぜこんな時にかぎって腹が痛くなる?


俺様は凄腕のスナイパー


常にコンディションを保つために健康には人一倍気を付けている


寒いのに朝から冷たいシャワーを浴びたからか?


寒空の中、コートも羽織らずにラフな格好でいつもの店に行ったからか?


車のエアコンが故障して暖房が使えなかったからか?


雪が降る中、冷たいコンクリートの打ちっぱなしの床に


腹ばいになりながらターゲットを待ち続けていたからか?


違う!


誰のせいでもない!


このような状況を想定できなかった俺様の失態だ


だが、俺様は凄腕のスナイパー


この状況を打破することなんて問題ない


腹痛には波がある


その波をコントロールするんだ


天才的頭脳を持つ凄腕のスナイパーの俺様にはできる


できるはずだ


だが、腹痛のみに意識を集中してはならない


俺様の最優先事項はターゲットの暗殺だ


ここにきてターゲットを見過ごすなんてことにしてはならない


冷静さを持続させるんだ


脳内の神経物質をコントロールするんだ


たしかドーパミンとセロトニンって名称だったはずだ


イメージしろ!


脳内のドーパミンとセロトニンをコントロールして常に冷静さを維持する


凄腕のスナイパーの俺様を!


波をコントロールしろ!


常に穏やかな海岸線をイメージするんだ!


寄せては返す静かな波


どこまでも続く白い砂浜


身を焦がすような輝く太陽


パラソルの下でビーチベットに寝そべるサングラスをかけた俺様


片手にはハワイアンブルーのフルーツカクテル


隣には水着姿の美女


俺は足元から美女を詳細にイメージする


ほっそりとした足


手触りのよさそうなヒップ


握りやすそうな細い腰


肌は夏の太陽で黒く焼け


その瞳は吸い込まれるような漆黒


いつも俺様のそばにいてくれる相棒


名は「ヴォルフガング」


違う!


くそ!


もう少しだったのに!


最後で顔だけがヴォルフガングになりやがった


やばい


ヴォルフガングのせいで波が激しくなってきた


コイツはなぜ俺様の邪魔をするんだ


やっぱり非常階段で捨ててくるべきだったんだ


ダメだ


思考が変な方向に加速していっている


修正するんだ


イメージするんだ


凄腕のスナイパーの俺様は強くイメージするために瞼を閉じる


穏やかな海岸線


寄せては返す静かな波


どこまでも続く白い砂浜


身を焦がすような輝く太陽


パラソルの下でビーチベットに寝そべるサングラスをかけた俺様


片手にはハワイアンブルーのフルーツカクテル


水平線には大きなクルーザー


クルーザーの周りには3台のジェットスキー


ジェットスキーの搭乗者の手には黒い銃


銃口が俺様のほうに向く


俺様の手にあるカクテルがはじける


だが、俺様は華麗に身をひるがえし銃弾をよける


俺様の手にはライフル


俺様はジェットスキーに標準を合わせ撃つ


見事に命中しジェットスキーを1台沈める


続けざまに2台目合わせ撃つ


弾丸が命中した2台目はきりもみしながら3台目に衝突し両方沈む


あとはクルーザーだけだ


クルーザーの上には大きな機関銃が


機関銃が俺様に向かって火を噴く


俺様はパラソルを倒し、その陰に隠れる


残念だったな


このパラソルは特製の防弾仕様だ


パラソルの陰に隠れながら俺様はクルーザーを撃つ


クルーザーはライフルの銃弾をはじいた


ちっ、クルーザーも防弾仕様か


だが運がなかったな


防弾仕様ごときで俺様があきらめると思ったのか


俺様は手にあるライフルを投げ捨てる


そして、凄腕のスナイパーの俺様は横に視線を動かす


そこには真っ黒なケースがあった


俺様はケースを手に取り開ける


中に入っていたのは俺様の相棒の「ヴォルフガング」


相棒の漆黒のボディは存在感を放っていた


俺様は手にとり素早く組み立てていく


数舜で相棒がいつもの姿を見せる


俺様は腹ばいに寝そべる


専用の弾丸を相棒に込める


銃口をクルーザーにむけ、冷静に標準を合わせる


残念だったな


凄腕のスナイパーの俺様と相棒に貫けないものはないのさ


俺様は腹に力を込めて専用の銃弾を相棒から解放するためにトリガーを引く


相棒から解放された銃弾はまっすぐに


吸い込まれるようにクルーザーに命中


クルーザーは大きな音を立てて爆発した


爆風の生暖かい風が俺の体をなでる


すぐに爆発の影響なのか異臭が周りに立ち込める


凄腕のスナイパーの俺様は強くイメージするために閉じていた瞼を


ゆっくりと開け現実にもどる


爆風の生暖かい感覚が下半身に広がっていく


私は立ち上がりスマートフォンを手にする


依頼主へ電話をかける


依頼主はすぐに電話に出た


私は依頼主に体調がすぐれないために今回の依頼はキャンセルだと告げる


依頼主は声を張り上げてわめく


あまりにも一方的だ


高い金を払ったんだぞ


貴様ができると言ったんだぞ


この半年、貴様の要望をきいて待っていたんだ


決行の前日に一方的にキャンセルだなんてプロとしてどうなんだ


どう責任を取るつもりだ


私は電話を切り、スマートフォンのカレンダーを確認した


今日は2月28日


そして、明日は2月29日


月末最終日は明日


今年はうるう年だ


私は相棒をケースにもどし、非常階段を下りていく


エレベーターホール着いた私をさきほどの警備員が見つけ笑顔で寄ってくる


私に何かを告げよう近づいた警備員の笑顔がひきつり


自分の手で鼻と口を抑える


私と距離をとり停止する警備員の横を通り抜けて私はビルを出る


見上げた空は相変わらずの寒空だった


「バカンスには海にいこう」


「白い砂浜と輝く太陽が私を待っているんだ」


私は涙声でつぶやきビルをあとにした

あるカフェの閉店風景


「そういえば店長」


「なんだ?」


「今朝って卵の消費期限切れて廃棄したじゃないですか」


「そうだな」


「あれって新しいほうに1個混ざってたらしくお客様の誰かに提供しちゃったみたいです」


「あーそうだな」


「なんですか、その反応」


「いや、実は気づいていたんだ」


「え?わかってて提供したんですか」


「いや、気付いたのはお客がモーニングセットを食べ終わったあとだった」


「モーニングセットを食べ終わったあとってことはどの客ですか」


「いつもブツブツ言いながら食べるあの客だ」


「あぁ、あの客ですか」


「そう、あの客だ」


「今日、あのお客しゃべってきてびっくりしましたよ」


「私もはじめて声を聞いた」


「声小さくて最初何言ってるかわからなかったし」


「扉には特製ブレンド品切れの張り紙していたんだがな」


「あの客、いつも顔を伏せて歩いてるから見てなかったんですかね」


「そうかもしれんな」


「カウンターにもデカデカとお詫びPOPだしていたのに見えてなかったんですかね」


「まぁ、悪いのは品切れさせてしまったこちらだ」


「でも、賞味期限切れの卵で作った目玉焼き提供しちゃったんですよね」


「あぁ、しかも半熟だ」


「うわ、店長最悪」


「謝罪しようとしたんだが、食べたらそそくさと帰ってしまったからな」


「今度来た時に説明して謝罪するんですか」


「いや、わざわざ掘り返すこともないだろう」


「黙ってるんですね」


「人聞きの悪い。ただ、次回来た時にはモーニングセットに少しサービスはするがな」


「それがいいかもしれませんね」


「さぁ、もう帰りなさい。お疲れさん」


「はい!店長、お疲れ様でした」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 面白すぎ(笑) [一言] どんだけ不運にみまわれてるんだよ。 ラスト近くの「バカンスには海に行こう」で主人公の涙目が想像できたよ。 面白かったよ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ