勇者見習い殺人事件 魔物の巣
「森林に行くって言ったってどこの森林かわかってるの?」
これにガクが答えた。
「十中八九この街の近くにあるヤール森林でしょうね。ただヤール森林はかなり大きい。そこから手掛かりを探すのは難しいと思います。」
ガクが頭を悩ませえると、近くにいた門番がガクにこう言った。
「ヤール森林にあるウルフロードの巣の場所ならわかりますよ。」
「本当ですか?それは助かります。向かう場所はまずそこからですね。門番さん座標を教えていただけますか?」
「はい、確かその座標は…」
門番がガクに座標を教えようとした時だった。突然部屋の扉が開いて、慌てた様子で若い門番が入ってきた。
「隊長、報告があります。」
「なんだ、今じゃなきゃいけないのか?」
「すみませんでした!あとで伺います。」
そう言って部屋を出ようとした若い門番にガクが声をかける。
「今報告してもらって構いませんよ。」
若い門番は隊長と呼ばれる門番と目を合わせた。隊長が「報告しろ。」と言うと若い門番は報告を始めた。
「ヤールとレニーを繋ぐ道中にある魔道具保管庫が破壊されていたとのことです。」
「なんだと!?」
「原因は?」
「不明です。」
ヤールは確かこの街の名前だよね、レニーってのはなんだろ。
「赤羽くん、レニーって何?」
私は小声で聞いた。
赤羽くんは渋い顔をしていた。
「レニーってのはファント王国にある街の一つだよ。レニーは魔道具生産で成功を収めて独立するんじゃないかって言われてるね。俺個人としてはレニーにいい思い出がないんだよね。」
赤羽くんとレニーの間にどんな出来事があったのか今は興味がなかったので事情は聞かなかった。
ガクが隊長に提案をした。
「今から我々ヤール森林に向かうのですが、もしその保管庫が近くにあるのならついでに調査してきましょう。皆さんはどうですか?」
ガクは私たちに聞いてきた。
一見すると時間の無駄のように思えるかもしれない。でもこういうことから事件解決に繋がることもある。なので私は賛成だった。
「私は賛成です。」
「俺もー」
赤羽くんが続く。
「あ、ヒロさんが行くなら僕も」
とウィンも賛成した。あとは、
「断りにくい雰囲気じゃない、じゃあ私も行くわよ。」
不機嫌そうにエレナも賛成してくれた。
「ありがとうございます!保管庫の座標もお教えします。」
隊長とガクのやり取りが終わるとガクがこっちを向いた。
「ではまず、ヤール森林にあるウルフロードの巣に向かいます。皆さん私につかまってください。」
いつもの流れだ。私たちはガクに触れた。
今から人を食い殺した魔物の巣に行くというのになんの不安もなかった。それは赤羽くんが守ってくれるという安心感があるからなのだろうか。
周りには緑の葉をつけた大きな木たちが並んでいた。これぞ森林といった感じだ。
すると景色を堪能する間もなく私は吐きそうになった。
「何これ…臭い…」
「死臭だな。」
と赤羽くん。
「皆さんついてきてください。」
私は鼻をつまみながらガクについて行った。
「恐らくあれがウルフロードの巣です。」
ガクが指さす場所には衝撃の光景が広がっていた。
私はウルフロードを見るのは初めてだが一瞬でそれがウルフロードだとわかった。見た目は完全にオオカミだ。だけど大きさがオオカミとは思えないほどでかかった。
そして衝撃の光景というのは、なんとそこにいるウルフロードたちは一匹残らず死んでいるのだ。
さっきからする死臭はこの臭いだったのか。
それにしてもなんて状況だ。あまりに惨い。しかしさっきドナの死体を見たからなのかそこまで驚かなかった。
慣れって怖い。
ウルフロードの死体を発見した赤羽くんは一目散に近づいた。
私も負けじと周りの状況を観察した。
そこで気づいたことがあった。
「焦げてる…」
「死体も焦げてるよ。」
顔を見合わせて確信した。私と赤羽くんの意見が一致していることに。
「なんかわかったならさっさと教えてくんない?こんな場所に長くいたくないんだけど。」
エレナはいつも通り不機嫌だ。
「じゃあ俺が説明しよう。ウルフロードの火傷のあとや周りの焦げた状況、これらを考えるとやったのはドナだ。」
「なるほど、雷魔法のドナなら納得がいきますね。山火事も落雷によって引き起こされますもんね。」
ウィンが感嘆の声を上げた。
「ここからは憶測でしかないが、もしかしたらドナもウルフロードの狩りと同じように数匹にダメージを負わせて、巣までたどり着いたのかもしれないね。」
私も赤羽くんの意見と同じだった。だけど肝心なことがわからない。
「これをやったのがドナだったとしてそれが何なの?私たちが知りたいことは、ドナがどうしてあんな重症を負ったのかってことでしょ。」
エレナが私の疑問を言ってくれた。そうなのだ、ドナは何らかの原因で重症を負ってしまった。それをウルフロードに見つかり捕食された。この原因を突き止めないと解決にはつながらない。
でもこれをドナがやったという事実、これは間違いなく事件解決の大いなる手掛かりだ。
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