紗耶香さんははやく打ちたい
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さもないと雀魂のキャラガチャで延々推しが出ない呪いをかけます
「……どうぞ」
いろいろ考え事をしているうちに、理音のもとに熱いコーヒーが運ばれてきた。いつも理音が客に出しているのと違い、熱くて濃い色のコーヒーであった。
一口、口にする。苦味が舌に突き刺さるのを感じる。これくらい刺激的なほうが、好みだと思う理音である。
あまりに熱いコーヒーは、遊びながら打つのには好まれない。濃すぎるコーヒーも、麻雀への集中力を切らす。自然と、自分の好みとは違う、薄くて片手間に飲める程度の熱さのコーヒーを出すのが癖になっていたようだ。
時間をかけてちびりちびりと飲んでいるうちに、自然と部屋にあった低いテーブルは、即席の麻雀卓になっていた。少し狭いが、その分小さめの牌を用意することでスペースを確保している。
……あれ? と理音は思った。
「つかみ取りでいいわね?」
紗耶香が言った。座る場所を、牌をめくることで決めようという魂胆らしい。
「理音くんも引きなよ。ウチは……西の席。紗耶香先輩の右だねっ」
「ちょっと待って」
思わず素っ頓狂な声が理音の口から出た。部員の一人、ことねの幼馴染で勝手知った仲である。家が麻雀店。もちろん、麻雀のルールや戦術はばっちり分かっている。それはいい。けれど。
「なんで俺も打つ流れになってるんですか?」
なんだか、急すぎると理音は思った。確かに麻雀は四人いないと打てない。正しくは、三人で打つルールもあるが正統ではない。にしても。
「俺、入るとも何とも言ってないし」
「でも、リネくんの入りたかったバスケ部は活動停止でしょ?」
「だから……バスケ部が復活するまで待てば」
「……理音くん、だっけ? 人見高校は、部活に入るのが必須だよ」
「ねーそれより、酒井くん。打てるんでしょ? ルール、知ってるでしょ?」
割って入ったのが、紗耶香である。
目が輝いていた。紗耶香が出す右手の上には、牌が二つ。早くめくれ、ということらしい。
「キミ、雀荘の息子なんだって? どんな打ち筋なのか、楽しみだなー」
「ルールもきかないうちに、卓に入れと言われても」
「あの……打ちたく、ないの?」
「……」
理音は無言になった。
なるほど、と理音は思った。
少し柳津紗耶香という人間を読み違えていたようだ。
理音はそれ以上ものを言うのをやめ、牌をめくった。北。紗耶香の対面にあたり、ことねとは隣に当たる席だった。残った東の席には、遼子が座ることになった。
紗耶香が言う。待ちきれないといった様子。
「うちの競技ルールの確認。アリアリの東南戦。オカなしで、一発裏も赤牌もなし。順位点が一〇の二〇。仮東の遼子がさいころを振って、最初の東家決め。いい?」
つまり、競技向けのルールだ。麻雀は普通、運がかなり絡むゲーム。だけれど、競技麻雀では、この手の運要素が低いルールが採用されやすい。ギャンブル的なルールを採用するフリー麻雀とは大違いだなと理音は改めて感じる。
ここだけ聞けば、純粋なボードゲームとしての麻雀。
「……問題なし」
「同じくっ」
遼子とことねが頷いた。理音も合わせる。
「構いません。細かいルールは、その都度聞きます」
要するに、と理音は久々の牌の感触を手になじませながら思った。この紗耶香という先輩は、麻雀が大好きなのだ。




