高レートは打たない方がいい
お気に入り登録などしないとおでん芸の刑に処します
電車は軽快に東京の西から中部へ。目的の駅に電車がつくと、理音はシャツが風にあおられるのを感じながら、ホームへ、出口へと歩く。
新宿駅ターミナルの巨大な空間に降り立った理音は、件の出口へ向かった。
コンクリートの柱と、工事用に建てられたパーティション。ごったがえす飲食店。
開けた天井から少し見える、青い空。ビルと道路高架の輪郭。
ドリンクを売るスペースの横。案の定、松本プロはそこで待っていた。
やあやあ、すまないねえ。いえ、自分も出かけたかったとこなんで、と会話。
松本さん、このあとどうするんです? 少し野暮用がね。
今度、お茶でもおごるよ、と。そう言って、彼女が去ったとき。
携帯を受け取った彼女が、さっそうと歩いていく。その様子をみて、ふと理音は、以前は感じなかった思いが心に浮かぶ感覚を知る。
あれ? 自分ってツいてない方だよな、と。
それがどうした。今日は天気もいいし、あんな美人に茶まで誘われて?
最近はネット麻雀の調子もいいし。今日の夜は好物のトンカツが出るらしいし。
電車には乗り遅れず、駅の自販機でコーラを買ったらおまけがついてくる。
どうした、自分。キャラ変か? と。
少し浮かれて、理音はそのまま新宿の街をぶらぶら歩くことにした。
汗ばんだ肌を夏の陽気に晒す。ビル街に足を踏み入れたとき、理音は自分の知らない世界がここにはあるのかな、と思った。
一応麻雀業・アングラ目の産業ということで、それなりに裏のことは知っているつもり。
けれど、それはしょせん場末の大衆雀荘の話であって。
聞くところによれば、新宿の麻雀業界は日に日に熱くなっているのだとか。
「宝石」で動くお金は、一日よほど運がなくて二万円といったところ。すこし痛いは痛いけれど、たまの遊びにかかるお金としては、悪くない。
それがいまやどうだ? 理音は歩きながら、聞いた話を頭の中で思い返す。
今、理音は新宿西口の電気屋の前にいた。
駅舎をはさんで反対側、日本屈指の繁華街である歌舞伎町。
あっちのお店はとんでもないそうだ。
ある店では、二万円が一回のアガりでふっとぶ。すこし調子が悪ければ、一時間で十万円が飛ぶ。
三回の四着を引けば、十五万円の凹みを覚悟するレート。なんだそれは、と理音も思うが、客がそういうルールを求めているからお店も応えているらしい、とも聞く。
正直、興味がないとは言わない。
一応、理音は競技麻雀をやっている身だ。賭けない、吸わないがマナー。
賭博自体、そこまで好きではないし。
なにより、その賭博で入りたかった部活がつぶれているのを知っている。
けれど、純粋な好奇心というか。
たとえば、千円祝儀のお店で十枚の手をテンパイする感覚とか。
高打点の手で、相手から三十枚以上をむしりとる感覚とか。
どんな感じなんだろう? と思わないわけではない。
あるいは、一時間で五万円が溶ける感覚とか。
ま、正直高レート麻雀は面白いというか
お気持ち(隠語)高めのお店じゃないと味わえない空気ってあるんですけどね。
なんとなくわかるでしょう?そういうお店で、あえてフリーで行って、
夜通し四〇本くらい打つって状況じゃないと得られない栄養。
え?麻雀店って深夜営業禁止?
あ、はい、そうですね。
※この小説とかあとがきは大抵フィクションです




