理音はたまには出かけたい
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さもないと熱湯風呂の刑に処します
部屋を出たところには、父がいた。
「やっぱり、松本さんのだった?」
「ん? お、おう」
なぜ知ってる、という顔。それもそのはず。
理音はことねとの電話中、父が別の人間と電話しているのを聞き取ったのだ。
長らく雀荘にいるからか、話し声を聞き分けて情報を得る能力を磨いたらしい、と理音は思う。
ことねと話しながら聞き取ったのが、だいたいこんな感じ。
例の忘れ物の携帯は、やはり松本プロのもの。
その松本プロは、所用で新宿にいる。
理音たちの住む京王線柴崎駅から、三〇分ほどのところにある繁華街だ。
その所用につき、『宝石』にも酒井家にも来れない。
じゃあ、と理音は思った。
「それ、届けるよ。新宿行ってくるから」
「いいのか? 別に取りに来させてもいいのに……」
ちょうどこれを機会に、一人で出かけようかと思う。
あまりそういう機会もないから。
たまには、ということで。
「理音、届けるっていっても松本さんがどこにいるか」
「家電か何かで電話はできるんだろ? 新宿東口の地上辺りにいくって伝えといて」
こういう気遣いができるようになるのも、雀荘メンバーというサービス業ならではかな、と理音は感じた。
雀荘メンバー、いいぞ。基本麻雀さえ打てれば雇ってもらえるし、ほかの仕事は電話応対と掃除と飲み物作りくらい。
ガラの悪い人? 来ない来ない。別に多少マナーがアレでも、みんな根はいいから。
ていうか、麻雀が好きだから雀荘に来るわけであって。別に喧嘩しに来てるわけじゃないからな?
適度に客と話しながら麻雀打ってればいい職業なんてそうそうないぞ?
極まれに警察が殴り込んでくるのが悩みの種ではあるが。
あと、月給三十万くらいは堅いはずなのに、なぜか給料日にもらえるお金がなかったりする。
あれ、おかしいな?
※※※
東京の街は、初夏の気配をまとわせていた。
理音は駅のベンチに座り、ホームと街並みを交互に見る。
ホーム上には、薄着の女子高生や家族。そして道路沿いの木々が、緑に照っていた。




