また、あの人と打ちたい
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さもないと麻雀で10連続トップ取れない呪いをかけます
はじめ、寿人はその美貌にだけ注目していた。麻雀なんて女のやるものじゃない、と当時の寿人は周囲に言っている。
だから、その相手――のちの妻であり、理音の母――の打ち筋を見極めようなんて、思いだにしていなかった。
むしろ、どうやって口説いてやろうかと。別段彼女が欲しいと思っていたわけではなかったが、一夜の相手にはいい。
顔もいいし出るところも出ている。
余裕は、すぐに消えた。
「ロンです、三九〇〇点のチップ二枚」
「チッ……」
最初のハンチャン。最後のアガリは、その女性が決めた。
舌打ちを鳴らし、精算用のチップと点棒をつかんだ寿人に、その女性はさらにいう。
「お兄さん、点棒はいらないですよ。お兄さんの二着で、差し引き0ですから」
「あ!?」
寿人は驚いた。終局後の精算と、卓上の点棒移動を全部計算しての一言。あまりにも素早く、正確だった。
寿人が点棒をつかむよりも早く、出すべきチップまで込みで。
そして、一位はその女性だった。
「店員さん、これ場代。三千円でいいんでしたっけ」
「はいよ……トップがお姉さんで……七万点!? ははは、やっぱり強いな」
圧勝だった。あまりにもアガリが早く、強く、そして守りが堅かった。
一ハンチャンだけで寿人はそう思った。常軌を逸している。イカサマ? 牌にガンをつけた?
いや、そういう店ではないことは寿人が一番知っている。
なぜ、どうして。そう思っている間に、夜は明けた。
ボロ負けであった。
帰り道。雀荘近くにあるハンバーガー店で、寿人は朝飯用のサンドイッチを買った。
なんだ、あいつ。
その答えは、割とすぐに知れた。
たまたま、店内で放送していたテレビ番組が、競技麻雀特集。
競技? 金も賭けずに、なにが麻雀だって? お遊びだろう。
いつもならそう一笑に付していた寿人だった。プロがやる「本気の麻雀」なんて、十分で八万円が動く麻雀より熱いのかね、なんて。
でも、その日は違った。
最近デビューした、女流麻雀プロに密着。
その人だった。
牌を打つ所作は美しく、だれよりも卓を見る目は真剣。
「競技……か」
そういう麻雀があるのか、と寿人は思った。
たしかに、雀ゴロをしていると、プロ資格を持った人間と卓を囲む機会だってある。
でも、だから何? と思うこともないではない。
なにせ、プロ資格をとるための試験は、「プロ」の肩書にしては相当やさしい。
実際、雀荘で働きながら、負けが込んで廃業せざるを得なくなった人間もたくさん見ている。
でも、彼女は違う。寿人は、まだ衝撃のうちに身を震わせている。
少し打っただけでわかった。力の入れ方。どれほど勉強したか。どれほど、強くなりたいのか。
どういうふうに、麻雀と向き合っているのか。明らかに、別次元だった。
そしてなにより。
「もう一回、打ちてえな……」
負けた金をどうやって取り戻そうか(久しぶりに、近くのビルにある裏カジノでも行くか)と考えるより先に、いつになったら彼女と卓を囲めるだろうと考えた。
久々です




