理音くんは思い出したがらないーーだしたがらなかった
高評価等おねがいします
さもないと頭ハネピンフのみで倍満手を蹴られる呪いをかけます
麻雀を打つ人間には、色々なタイプがいる。単純に知的ゲームとして楽しむ人、賭け事だからこそ面白いという人。
そもそも金を賭けない勝負事などありえないという人。
雀荘業に近いタイプだからこそ、きれいごとだけではない世界を理音は見てきた。
そして、麻雀を打たない人間にも色々なタイプがいる。興味があるけど打つ機会がない、という人。賭け事だから怖いという人。麻雀を好きな人間にロクな人間はいない、という人。
先ほどの言い合いを少し聞いただけでも、紗耶香と言い争っている人間が、最後のタイプであることはすぐに理解できた。
何より、自分自身麻雀に良いイメージを持っていないから。
競技麻雀、という概念は確かにある。さまざまなプロ団体が、麻雀をクリーンなゲームとして広めるために努力している。雀極戦プロ麻雀協会に、全日本競技麻雀連合。UMC(Ultimate Mah-jong Corporation)に、ゼンリーグ。それらのホームページを見れば、いかに麻雀の知的ゲームとしての本質や、賭けない麻雀の面白さを説いているかが伝わる。
だけれど、そういうのも大抵、きれいごとだったりする。
事実、プロ資格を持っている雀士の中で、賭けたことがない、という人間が何人いる?
プロになれば強くて面白い人たちとセットが組める(賭けて打てる)――だからプロ資格を取った、という人すら知っている。
……いや、待て。
もう一度自分に問う。ならば、なぜ自分はここにいる?
目の前にいる遼子の目を、理音は見た。遼子は、おびえたような表情を見せた。
「……ああ、どうしよう……君には助けを求められないよね……」
「……」
自分は、麻雀が苦手だといった。
でも、人を助けたいと思っている。
人助けをするのは気持ちいいし……。
理音は、意を決した。
「部室に、もう一度連れてってください」
「……えっ?」
意をはかりかねた様子の遼子。理音は続ける。
「部室に来ているクラブ連合代表。中崎さんでしたっけ。言い分を聞いてみます」
「……あっ」
遼子は、なんと言おうと迷ったようだ。その続ける言葉を待たず、理音は部室に向かう階段を下りた。
なんとなく、自分が今まで麻雀を続けてきた理由が、少しわかった理音だった。
趣味にしろ部活にしろ、やり始める理由はたいてい「自分がやりたいから」「興味があるから」。
それについて、「人を助けるため」は理由にならないと思っていた。
そうじゃないのだ。
部室の前に、理音は戻った。
中崎佳という名の少女は、まだそこにいるようだった。
「――から、言ってるでしょう、麻雀を好きな人間にロクな」
皆まで言うな、と理音は思った。予想通りの展開だった。
そして、理音は一つのことを思い出した。
確かに、自分は今まで麻雀が好きじゃないと思っていた。
それと同時に、一つの思いを抑圧していたことを思い出した。
ふと、亡き母の思い出を父が語った中で、今になってようやく鮮明に像を結んだエピソード。
麻雀がなければ、理音は母を幼くして亡くすことがなかった。
同時に、麻雀がなければ自分は生まれなかった。