夜は眠い
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さもないと推しが引退する呪いをかけます
「ウチはね、麻雀ってすごく面白い競技だと思うの」
その声は、マイク越しでも深く響いた。
「自分だけじゃなくて、人のことを考えられるようになる。しっかり考えないと、何もできない」
そうだな、と理音は思う。人の手牌を読んで、そのうえで打ち勝つ必要がある。
「そして裏切られることもある。見た目だけじゃ測れない」
そういうこともある。手牌が弱いとき、わざと強気に出て敵を勝負から降ろす。よくある戦法だ。
でも、運のゲームだとも感じざるをえない。
裏目。弱いところを引く。他プレイヤーがついている。振り回される。
そういう局面を何回も見てきた。
理音は、何より、麻雀が好きな人って、服装とかたたずまいとか……と言おうとしたところで、ことねの声にさえぎられた。
「リネくんはさ、ウチの部員たちを見てどう思った?」
心が読めるのか? と理音は思った。
「かわいかったし、紗耶香さんが? 乳でかかった」
「変わらないねー、思ったことはっきり言うところ。でもそういうところ嫌いじゃないよ」
はあ、とため息と苦笑の混じった声が聞こえる。
見知った仲だし、多少こういう話をしてもいいだろと理音は考える。
事実、部員はかわいかった。話していてもよく常識を知った人だとも思った。
「紗耶香さんも遼子ちゃんもいい人たちだよ。時間過ごして損はさせないと思う……って、久しぶりに会った日に、なんて話してんだろ。ウチは」
今度は、声に呆れの感情。彼に向けられたものではなさそうだったが。
「なんて、って?」
理音は意図を測りかねた。
「こっちの話。とりあえず、考えといてよ、じゃあね」
少し焦った様子で、ことねは電話を切った。なんだったんだ、と理音は考える。
もう、麻雀部には入らないといったつもりだったのに。なんでそこまで。
ただ。思いを巡らせた。困っているのは確かなようだ。
実際、高校生で麻雀が好き、なんてそうそういないだろう。周りを見ていて理音はそう信じている。
だいたいは、大学とか、高校卒業後の職場で麻雀を覚える。
そういうものだと、父や客、業界関係者から聞いていた。
ほかに楽しいこともあるし……と思いつつ、理音はベッドに体を投げ出した。
壁に貼った、お気に入り歌手のポスターが目に入る。
机に置いた、好きなFPSゲームのアイテムを模したオブジェも見える。
疲れがたまっていたのか、理音はそのまま寝てしまった。
明日の準備をしていないし、夕飯すら食べずに朝方まで眠り続けていた、と気付いたのは次の日だった。