早めにおうちに帰りたい
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さもないと雀魂で、回線落ちした上家にフツーに負ける呪いをかけます
それからの紗耶香の様子は、<気が抜けた>の一言であった。
心あらず。何も考えられない。そんな様子から不用意に理音やことねの手に打ち込んでいく。
どんどん点数を減らし、気付けば最下位。理音は三位。そんな展開がずっと続いて、やはり気づけば下校時間となった。
呆けたまま牌を片付ける紗耶香を尻目にして、理音は家に帰ることにする。
遼子は、少し残るといった。
そして、理音とことねは、久々に下校道をともにすることになった。
「こうして帰るの、いつぶりだろね、リネくん」
「うん……」
なんといったものか、と理音は考える。
紗耶香はどうしているのだろう、とも。まだ無心に天井を見つめてたりするのだろうか。
何せ見え見えの高い手に、防御力皆無で点数を振り込んでいたくらいだ。
しばし沈黙。
耐えきれない、といった様子のことね。最寄り駅が近づいた。
「あのさ……リネくんって麻雀嫌いだったっけ?」
「……」
どう答えたものか、と理音は考える。
幼馴染との時間。少しの甘さはあっていいはずなのに。
まだ飲んだコーヒーの味覚が残っているのかと理音は考えた。
「言ってなかったっけ。たしかに、家が雀荘だけどさ。あまり麻雀、好きじゃない」
正直に、理音は言った。
「でもさ、よく家の手伝いしてるんでしょ?」
「そりゃ、するしかないじゃん。母親いないし、親父の力にならなきゃ」
「あう……」
ことねは、気まずそうな顔をした。それに気づいて、理音は少し幼馴染の様子を見る。
華奢な体つき。快活ではあるが、落ち着きをたたえた顔立ち。
ボブカットの茶色がかった髪が、少し揺れていた。
理音は言うことにする。
「ていうか、こと姉。それ、あまり言わないでくれよ。本当なら、高校生が雀荘で働いちゃいけな」
「あーもう。それより、高校一日目はどう? 楽しかった? 人見ってけっこういい高校でしょ」
話題が急転換。ことねは笑みを一つ、顔に咲かせた。
ふっ、と理音はその意図を察した。
「いいとこだよ。担任、ちょっと変だけどいい人そうだったし」
「誰?」
「古文の地井ってやつ」
「あーチーセンかー! 最近奥さんに逃げられたって噂の」
「そうなの⁉ うかつに家族の話できないじゃん」
「ははっ、先生とそんな話しないでしょ。あんまりさ」
春の夕方は、以外にも緩やかに暗くなりゆくものだ、と理音は思った。