理音は麻雀が好きではない(念押し)
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さもないとリアル麻雀で面前清一色の待ちがわからなくなる呪いをかけます
対局は続く。嬉々として牌を扱う紗耶香。落ち着いた面持ちで、卓全体を見渡す遼子。
ふと、理音には気になったことができた。牌を操る手は止めず、理音はたずねる。
「こと姉。そういえば、ほかの部員は? まだ、来てないの?」
「あー……」
ことねは気まずそうな顔をした。彼女はすこし唸ってから、手牌から北の牌を出す。
理音は一呼吸おいて、静かに言う。
「ロン……一三〇〇(ジューサン)。それで?」
「部員、いないんだよねっ」
「ああ、まだ来てないんだ……うん? いない?」
「……これで、全員だよ」
遼子が続ける。そして、先ほどまで笑顔だった紗耶香の顔も曇る。
「これで全員なの。我孫子ことねさん、杵田遼子さん、そして私、柳津紗耶香」
ふう、と紗耶香はため息をついた。牌をシャッフルしながら、説明しだす。
「少し前、競技麻雀がブームになったじゃない? それで、行けるかもと思って、私は麻雀部を作ったのよ。賛同してくれたのがことねさんと遼子さん。あと、数人部員もいた」
シャッフルが終わり、牌山を作る作業に移った。手に集中しないと、崩れてしまう。そうならないよう、目線を手元に落としながら、理音は耳を傾ける。
「でも、あとが続かなかったの。学生向けの麻雀大会ってなかなかないし、将棋なんかと違ってルールは複雑」
それは分かる、と理音は思った。将棋も麻雀も奥が深いという点では同じだが、最初に始めるためのハードルが高い。四面子一雀頭。符計算。大量の役。何個覚えないとゲームができない?
そして。
「あんまり麻雀を始めようって思ってくれる子が現れなくてね。先輩が引退した後、入ってくる生徒もほとんどいない」
「……あたしも、最初は教師に止められた。学校で賭け事……? って」
「ウチも色々声はかけたんだけどね……はあ」
ため息をつく遼子にことね。だろうな、と思った。麻雀のダーティなイメージが響いたのか。
無理もない。
紗耶香が続ける。
「人見にはね、部を成立させるための要件があるの。まず入部届を出した部員が四人いること。そして、部が活動しているという証拠をきっかり出すこと」
「一つはクリアできるから、ウチらに必要なのは実績の方だねっ」
「……目指すのは、地域の団体戦大会。アマチュア向けだけど、少しは名が知れてるみたいだよ……あたしはそう聞いてる」
なるほどなるほど、と理音は思った。とりあえず部員を集めるだけなら、その辺の生徒を幽霊部員として登録すればいい。大会はともかく、普段の練習に来ていることにすれば、実績は……ってあれ? と理音は思った。
何かが引っかかる。
「……酒井くん、家が雀荘なんだって? 戦力として期待できそうだね」
「その通りですっ! リネくんはウチのお墨付きですよーなんせ小学校のころからルール覚えてたらしくて」
「あら、そうなの⁉ ことねちゃん、いい子連れてきてくれたわね」
「えっなんで俺入ることになってるんですか」
「だって麻雀好きでしょ?」
そういう紗耶香に対し、すかさず理音は言う。
「俺麻雀好きじゃないですけど」
「……」
「……」
「……え?」
今呼び方・一人称等調整中
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