麻雀がしたい紗耶香さん
この小説は某ピン東で-96000食らった日に書いてます
「麻雀部の活動は認めません」
少し暗い部屋の奥で、きっぱりと、少女が言った。
「麻雀は賭博につながる不健全な遊戯です。競技として部活をするなんて、柳津さんの理屈は通りません」
椅子に座ったまま、そう続ける少女。彼女のほかに、もう一人スカートを穿いた少女がいた。二人は向かい合う。
にらみ合う。柳津さん、と呼ばれた少女は答える。立ったまま、腰に手を当てて。
「それこそ理屈が通っていないわね、佳ちゃん」
「ここでは中崎さんと呼んで」
「佳ちゃんだってわかってるくせに」
柳津と呼ばれた少女――現肩書、人見高校麻雀部部長の柳津紗耶香――は畳みかける。目の前の少女――人見高校自治会クラブ統括担当中崎佳――へ、教え諭すように。
「今や麻雀が賭博だけなんて、誰が決めたの? オンラインの健全な麻雀だってある、純粋な競技プロを育成する団体だってある。ノーレートの雀荘だって東京で沢山開かれてるのに」
紗耶香は続ける。
「この学校にはオセロ部だって、将棋部だって活動出来ている。その気になれば、お金をかけて将棋をすることもある。麻雀が賭博につながるから、認められないなんて道理はないわ。なぜ麻雀だけが、競技として認められないの?」
「競技じゃないからよ」
中崎、という名札をたたきつけ、いらだちを隠さないまま佳が答える。
「逆に聞きますけれど。競技とは? 何をもって、麻雀を競技とするの?」
「ふうん……強い人が勝ち、上手くない人が負けること?」
「じゃあ」
佳の顔に、スキを逃すまい、とする意思が見て取れた。
「残念だけどあなたの負けですね。どんなにツモが悪くても、どんなに配牌が認められなくても、腕があれば勝てますか?」
紗耶香は天井を見上げた。それを言われると、つらい。
「長い目で見れば、強い人が勝てるわよね」
「逆に言えば、短期決戦なら運で決まるってことですよね」
「短期って、競技麻雀の公式戦は最低でも四戦一セット……」
「屁理屈をこねないでください」
ぴしゃり、と佳は会話を打ち切った。
「わかりますか。競技じゃないんですよ、麻雀は。ただの遊びです。運任せにさいころをふって、出た目で勝ち負けを決める競技があるなら、教えてください。せめて、麻雀同好会として実績を残してください。ふさわしい実績をね」
手元にあるファイルを机に軽くたたきつけ、それに目を落とす。
もうそれ以上会話することはないらしい。
はあ、とため息。紗耶香は生徒会室を出た。
帰ろう、と紗耶香は思った。
校舎の二階に、冬の肌寒さが残っていた。
もう夕方。日が落ちている。
校舎の窓越しに、夕暮れ時の街を見る。
紗耶香は言った。麻雀部を守りたい。続けたいから。
「それでも、私は――」