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釣り その2

 琥珀さんと一緒に魚を釣る。

 ホントは玉木さんに釣り方を教えてあげてほしかったんだけど、もう仕方ないからここままいこう。

 琥珀さんから教わった感覚を今度は僕が玉木さんに教えればいい。

 そうしよう。


「でここを、こうして、こんな感じ」

「むむ……あ、釣れた……やった……」

「その調子だよー」


 琥珀さんに指導を貰い始めて一時間ほど、安定して釣れるようになってきた。

 後ろから琥珀さんが支えてくれてる状態でこれだから、一人で成功させるにはまだ練習が必要だろうけど、ある程度は身に着いてきた。

 最初のほうは背中に押し付けられる柔らかい感触に全然集中できなかったけど……。


 とにかくそろそろ一人で釣れるかどうかも試してみたいところ。

 背中が寂しくなるけど仕方ない、これは2人の仲を取り持つためにやってることだ。


「ありがとう琥珀さん……そろそろ一人で挑戦してみるよ……」

「そう?無理はしないでね。さっきまで病人だったんだから」


 そう、僕は心臓が悪い。

 でも今は大分安定してきてる。

 というのも、この血染め艦―海茨―が僕の心臓の代わりとなっているからだ。

 僕の艦隊が全て撃沈でもされない限り、心臓病で苦しむことはもうないだろう。

 ただ海に浮かべて初めて効力を発揮するので今までは宝の持ち腐れだったのだが。


 そうしてまた玉木さんと琥珀さんの間で一人釣りを開始した。



     ◇



 日が暮れてきたので釣った魚を一度レオナさんに預ける。

 レオナさんはギャルっぽい見た目の娘。

 彼女は僕が船を出した後、それなら自分もととある能力を明かしてくれた。

 【等価交換】というその能力は釣り竿に日用雑貨にと大活躍だ。

 

 そして能力を明かしてくれた人が実はもう一人。

 銀髪外国人のシャラさんだ。

 なんと彼女は人魚姫だったらしく、突然船から飛び降りたと思ったら魚を獲って帰ってきた。

 

 【等価交換】と人魚姫の力合わせでなんとか今の状況は回っている。


「しー。もっと効率よく稼ぎたいしー」

「Hey!you!そろそろモンスターが怖いデス!ネー!」


 だからこの2人の意見は可能な限り尊重したい。


「船のソナーにも大型のモンスターらしき影は映るのですが……今は敢えて避けてます……」


 この船は今当てもなく前進している。

 地図もないこの状況ではどっちに行けばいいのかなんてわからないけど、少なくとも同じ地点をぐるぐるしてるわけではない。

 そのうち島なり大陸なりが探知に引っかかることを期待しているのだが、ソナーに映るのは大型のモンスターらしき影や千を超えるなにかの群れだったりと、危ない匂いのするものばかり。

 そういうのは避けて前進しているのだが、ここいらで一発レオナさんの【等価交換】目当てにぶつかってもいいかもしれない。


「秋々くんの見立てでは勝てそうですか?今この場での最高戦力は秋々くんの船以外ありませんから、実直な意見が聞きたいです」


 僕の見込みではそういう美冬さん含めてここにいる皆、僕を越える戦力を持ってるんじゃないかと思ってる。

 レオナさんとシャラさんも全部の力を見せたってわけじゃなさそうだし。

 でも今それを言っても仕方のない事。

 勝てるかどうかは……


「海中兵装ももちろん積んでありますが……主力級は全て対海上を想定してますので……勝率5割といったところかと……」

「他の戦艦も似たようなもの?」

「装甲の面で厚くなるのはあります……でももともと海中に攻撃するようにはできてませんから……」

「なるほど、ありがとう秋々くん」


 こんなことなら潜水艦でも用意しとくんだったかな。

 血染め艦隊―海茨―はこんな状況を想定して造ったわけじゃないから対海上で十分だったのに。


「うーんそうね、一度ぶつかってみるのも手かしら。いざとなったら私も、ね……」

「………?最後なんて言いました……?」

「秋々くんに期待してるって言ったのよ。ごめんね、頼ってばかりで」


 そんな感じの言葉じゃなかった気がするけど。

 でも美冬さんに頼られるのは悪い気がしない。

 あ、頼られるといえば玉木さんと琥珀さんのほうも頼まれてたんだっけ。

 玉木さんは今もイライラしてるみたいだし、琥珀さんも黙ってて空気が悪い。

 うん、頑張ろ。


「それじゃ今日は解散してもう寝ましょうか。みんな、おやすみなさい」


 美冬さんのこの言葉で各自部屋に戻る。

 でも僕はちょっと美冬さんに相談したくて残ったのだけど、何故か司令室には玉木さんが残った。

 あれ?美冬さんは?


「「……………」」


 司令室でじっと黙って動かない二人。

 最高に気まずい。


「あ、あの……僕でよかったら、相談乗りますけど……」


 逆効果かな?と思いつつ何も言わずにはいられない。

 だからそんなありふれた言葉を言ったのだけど……


「……こい」


 玉木さんはそう一言いって歩き出してしまった。

 なんかよくわからないけど、付いていくしかないんだろうな。

 僕は黙って後ろを歩いた。



 玉木さんについて辿り着いたのは今日釣りをした甲板。

 玉木さんの手には釣り竿が握られている。

 これって……


「教えてくれないか、釣り方」


 ぶっきらぼうにそう言う玉木さんだけど、これはチャンスだ。

 これがなにかのきっかけになって琥珀さんと仲良くなるかも。


「じゃあ……一緒に釣りましょう……」


 僕は昼間琥珀さんにやってもらったように後ろから玉木さんの釣り竿を支えた。

 こんな状況なのにすごくいい香りがする、けど今はそんな思考は吹き飛ばす。


 釣り竿が引っ張られるたび


「ここを、こうして、こんな感じ……」


 僕と玉木さんは一夜中2人で釣りをした。

 その成果は――



 翌日。


「しー?この大量の魚なにしー?」

「あらあらまあまあ。たくさんね」

「Hey!you!寝てない人手アゲテ!ネー!」


 船の甲板には魚が一杯に詰まった桶が、8つ並べられていた。

 

「これ、どったの?」


 琥珀さんが不思議そうにのぞき込む中、玉木さんが前に進む。


「琥珀」

「ん?今お前私の名前」

「すまなかった」

「へ?」

「飴を咥えてないとどうにもイライラしてしまう性質でな、その、脳筋とか言って、悪かった」


 突然の玉木さんの謝罪に、見える仲良しの第一歩に、皆が注目する。


 昨夜、釣りをしながら玉木さんと色んな話をした。

 その中でわかったことだが、玉木さんは飴がないと精神が乱れるらしい。

 こっちきて飴なんか補充できなくなったからああなったのだろう。

 でも、話してるうちに玉木さんの人の良さが見えてきて、落ち着いてればずっと一緒にいたくなるような人だとわかった。


 玉木 九鈴は悪い人じゃない。


「私は別に、お前が、琥珀が嫌いなわけじゃない」

「………っぷ、あはははは!なにそれー!」

「わ、笑うな」

「いや笑うでしょ、だっておかしいんだもん。昨日まであんなにつんけんしてたのに、どったの?」

「それは……」


 チラ、と玉木さんが僕を見たような気がした。

 しかしすぐ前を向き


「なんとなく、落ち着いただけだ」


 と、頬を朱くしながら呟いた。

 

 あれ?なんかドキドキする。

 女性経験皆無な僕はすぐ勘違いしそうで困る。

 だからレオナさんとシャラさんと美冬さん、肘でぐりぐりしてくるのやめてください。

 きっとそんなんじゃないってば……多分。


「ふーーーーーーん。なるほどねぇ。乙女の意地ってやつかな?いいじゃん、そういうの。それと玉木勘違いしてるみたいだから言っとくけど」


 琥珀さんは玉木さんの胸に手を当て


「私は最初から玉木のこと嫌いじゃないよ。むしろ心配してた」

「は?それは流石に……」

「いや私自分でも脳筋だと思ってるからさ、口で説明とかできないし気の利いたことも言えなくて。空回りしてるなぁってわかってたんだけど……ごめんね、玉木」

「………っ」


 これで2人も仲直り。

 もう仲良し一歩手前かもしれない。

 あとは


「しー。そういうことなら言ってくれればよかったしー。ここにある魚と等価交換で、飴ちゃん用意するしー」

「いや、この魚は私の今までの釣果が0だったから」

「ふふふ、そんなこと気にしなくていいんです。だって」

「しー。マトモに魚持ってきたの琥珀っちと秋っちとシャラっちだけだしー。お前ら酷すぎだしー」

「は?」


 僕も最初驚いたのだけど、魚釣りは簡単じゃないしそんなものだと思う。

 むしろ素人のはずの琥珀さんがぽんぽん釣るのがおかしいわけで。

 シャラさんは素潜りで魚獲ってきてただけだし、僕は琥珀さんのおかげだし。


「ここにある魚で全員分の釣果越えてるしー。なかなかやるしー」

「お、お前らマジなのか?」


「ひゅー、ひゅー……」

「天のお導きが……」

「ぬるぬるに興奮して///」

「クスクス」

「…………」


 まったく異世界も楽じゃないということだ。


「糞の役にも立ってないじゃないか!順番に教えてやるから釣り竿持ってこい!」


 その日は僕と玉木さんと琥珀さんが指導役になって魚釣りを楽しんだ。

 今度こそ、楽しかった。


「あれれ~秋々が他の女とあんなべったりしてる~」

「秋々は私を後ろから支えてろ」

「糞の役にも……立ってない……」

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