船出
『地球の人口が上限を突破しました。間引きを行います』
その声は突然空から降ってきた。
日本時間にして午前の8時。
その日は日曜だったからようやく起き始める人もいたのではという時間。
僕も一人病室でその無機質な声を聞いていた。
「間引きって、なにするんだろ……」
生まれつき心臓が悪かった僕は、その間引きという言葉を聞いて「ついに僕死ぬのか」と覚悟した。
しかし続くその声は
『地球人口が50億を下回るまで異界ペンベルへ投下を続けます。選定はランダム。投下開始』
そんな無慈悲な宣告を一方的に告げ、間引きを始めた。
いや50億ってそれは流石にやりすぎでは?なんて理不尽を抗議する間もなく、僕の身体を浮遊感が襲う。
やっぱりというかたまたまなのか、僕は間引きの対象に選ばれたらしい。
どうせ病室で一生を終えるはずの人生、文句はないけどちょっと悔しい。
ああ、異世界に行ったらかねてからの夢を叶えよう。
そんな死んでたまるかという信念と、まあ死なないだろうという確信が、僕の中にはあった。
そして僕は異世界で目覚める。
◇
目覚めたら海の上だった。
陸地?と言っていいかわからないけど、僕たちは小さな砂山の上にいた。
そう、僕たち。
「わー、ちょーヤバだしー。思ってたのと違うしー」
「海ですか、私泳げないんですよね。どうしましょう」
「なにもないな。これからどうするか……」
「これも天のお導き」
「あ、そこに一人男性がいますよ?熱い視線を感じます///」
「はーーーーー。いつか神殺しに行こ」
「クスクス」
「…………」
「Hey!you!大変なことになったデス!ネー!」
なんだか一癖も二癖もありそうな人たちだ。
この小さな砂山の上に僕含めて十人。
そして僕以外全員が抜群にかわいい女性ときた。
「気まずい……」
こんな開放的な閉鎖空間で一人混じる男、視線が刺さるのは仕方のないことだった。
9人の女性たちが横目で見てくる中、僕は立つのが辛くなって砂山に腰を下ろした。
地球ではずっと病室暮らしをしていた身、病と合わさって筋肉なんか常人以下だ。
でもそれが図らずとも無害アピールになったようで
「しー。大丈夫だしー?」
「痩せた身体に病服、お身体が悪いのですね」
「Hey!you!元気だすデス!ヨー!」
露出の高い服を着たギャルっぽい娘と、母性を感じる女性、にわか日本語の銀髪外国人の3人が、近寄って僕の身を心配してくれた。
こんな温もりに触れたのはいつ以来だろう。
僕の家族も医者もいつ死ぬのかばかり考えて生きててなんて言わなくなったのに。
僕はちょっと嬉しくなった。
「大丈夫、です……。あの、ありがとうございます……」
今この状況で他人の心配ができるこの人たちはいい人だ。
砂山からの脱出の時には手を貸そう。
そう決めた。
「おい、のんびり話してる暇もなくなってきたようだぞ」
「あれって、サメさんですかぁ!?す、すごく大きくて固そうです///」
その声に周りの海を見れば、この小さな砂山は無数のサメに囲まれていた。
その背びれから察するに映画の巨大サメくらいはありそうだ。
それが、たくさん……。
「しー。激ヤバだしー?」
「私、泳げないのですけど……」
「Hey!you!あっち行くデス!ヨー!」
先程僕を心配してくれた3人が困っている。
でも本気で焦っているようには見えなくて。
それは他の女性たちも同様で、なにか迷っているように見えた。
「もしかして皆さん、僕と同じだったりします……?」
だから僕はそんなことを聞いた。
僕はこの場面を脱却する術を持っている。
でもそれは秘密の力。
もしかしたらこの人たちも同じなんじゃないかって。
すると飴を咥えた黒スーツの女性が声を発した。
「同じ、とは?」
「皆さん、焦っているようには見えなかったので……そういう人たちが集められたのかなって……」
「そういうお前はどうなんだ?この状況、脱する手立てはあるのか?」
「それは……」
言うか迷う。
あるにはある、が、それは僕の心臓を曝け出すのと同義。
会って間もないこの人たちに明かしたいことではない。
けど……
「しー……」
「泳げない……」
「Hey!you!タスケテー!ヨー!」
なんかわざとらしいけど、この3人はいい人だ。
きっとこの人たちもなにか持ってる。
でも僕はこの3人を助けるのに否やはない。
ならばもう明かしてしまってもいいだろう。
―――起動、リライフ―――
「僕の力、お見せします……きっと海上では役に立つから……」
海が紅く染まる。
地面が迫りあがる。
小さな砂山は下から現れたものによって崩れ去る。
これが僕の力。
「血染め艦隊―海茨―」
最強無敵を誇る僕の船。
「ようこそ、僕の心臓へ」




