白い結婚キターーー!!!!(大歓喜)
「ミレーヌ、どうか僕と、契約上の夫婦になってもらえないだろうか?」
「――!」
公爵家の次男であるファビアン様が、思わず見蕩れそうになるほどの、憂いを帯びた表情でそう提案してきた。
こ、この流れはまさか――!
「僕も立場上、そろそろ結婚しろと親からせっつかれていてね。でも僕は、地位や財産目当ての令嬢はゴメンなんだ。その点君はそんな人間じゃないことは、昔からよく知っている。何不自由ない暮らしをさせることは約束するし、家は兄が継ぐから、跡継ぎを作る必要もない。ほとぼりが冷めたら愛人を囲ってくれても構わないよ。どうかこの提案を、受けてはくれないだろうか?」
「ファビアン様……」
白い結婚キターーー!!!!(大歓喜)
ふおおおおお、日頃ロマンス小説を読み漁っている私だけど、まさか自分の身に大人気ジャンルである『白い結婚』イベントが降ってくるとは……!
最初は契約上の夫婦に過ぎなかったのに、段々と互いの心に惹かれていき、最後は本物の夫婦になるという、ロマンス小説の王道パティーン!!
盛 り 上 が っ て ま い り ま し た。
……お、おっと、一人でズンドコしてる場合じゃないわ。
ここは若干不安な表情を滲ませつつも、提案をお受けしなくては!
「は、はい、私なんかでファビアン様の妻が務まるのか自信はありませんが、精一杯頑張らせていただきます」
「うん、よろしく頼むよ」
よーし、これは私の腕の見せどころね!
「おや? ミレーヌ、何をしているんだい?」
満を持して始まったファビアン様との白い結婚生活。
私たちのために建てられたご立派ァな新居の庭で土いじりをしていると、ファビアン様から話し掛けられた。
「ああ、ここに花壇を作ろうと思いまして! お花に囲まれた生活をするのが、子どもの頃からの夢だったんです、私」
「そうなのか。でも、そういうことなら庭師にやらせればいいじゃないか。わざわざ君自らが、手を汚す必要はないだろう?」
「いいえ、こういうことは、自分の手でやるから楽しいんです!」
「――! フフ、本当に君は、おもしろい女性だな」
「っ!?」
おもしろい女性キターーー!!!!(大歓喜)
これぞロマンス小説の最強フラグ!!!
これが出た時点で完全に勝ち確よッ!!!
ファビアン様からの視線が、ギャンギャンに熱が籠ったものに変わってきたわ!
これはファビアン様が私に完堕ちする日も、そう遠くはないわね(確信)。
――そして更にその数日後。
ファビアン様と二人、夫婦で初めて参加した夜会にて。
「ミレーヌ、申し訳ないが、僕は今から宰相閣下と大事な仕事の話があるんだ。少しだけ外させてもらうよ」
「はい、いってらっしゃいませ」
さてと、こういう時、一人になった令嬢が行く場所といったら、やはりあそこよね!
――私は誰もいない薄暗いバルコニーに出て、静かに月を眺めた。
ここにいれば、きっとアレが来るはず――!
「おやおやお嬢さん、あなたみたいな麗しい女性がこんな華やかな場で一人とは、捨ておけませんね」
「――!」
不意にねちっこい声がしたので振り返ると、そこには胸元をザックリ開けた、いかにも軽薄そうな男が立っていた。
当て馬キターーー!!!!(大歓喜)
ある意味白い結婚には最も欠かせない存在と言っても過言ではない、重要ポジションのキャラ!
それが当て馬ッ!!
彼がいることによってファビアン様は私への本当の気持ちに気付き、二人は永遠に結ばれるのよ!
「……どちら様でしょうか? 申し訳ございませんが、私は連れがいるものですから」
「まあまあそう固いこと言わずに。そもそもその連れの男も、君をこんなところに放置してるんだから、ろくでもない男に違いないよ」
早速タメ口になって物理的にもガンガン距離を詰めてくる当て馬くん。
しかもサラッと私のファビアン様をろくでもない男認定してるし!
うーん、あなた、人としては0点だけど、当て馬としては100点よッ!!
――その時だった。
「――そこの君、僕の妻に何をしている」
「「――!!」」
思わず背筋が凍るほどの冷たい声が――。
その声の主は、もちろん私のファビアン様!
「僕の妻に何をしている」キターーー!!!!(大歓喜)
令嬢が旦那様に言われたい台詞、三年連続堂々の二位!!!
嗚呼、これでもう私、この世に思い残すことはないわ……。
将来孫が出来たら事あるごとに、「おばあちゃんは若い頃、おじいちゃんに『僕の妻に何をしている』と言われたのよ」って自慢しながら過ごすわ。
「ヒィ!? あ、あなた様は氷の貴公子ファビアン様!? も、申し訳ございません!! まさかファビアン様の奥様とは、露知らず!」
氷の貴公子キターーー!!!!(大歓喜)
やはりロマンス小説のヒーロー役といえば、氷の貴公子よねッ!
誰にも心を開かなかった氷の貴公子が、平凡なヒロインにだけはデロデロに心を溶かされてしまう様こそ、ロマンス小説の醍醐味!!
まあ、その氷の貴公子本人に対して、「あなた様は氷の貴公子ファビアン様!?」って言うのはあまり聞いたことないけど、それくらいは甘受しましょう(王者の風格)。
「――危なかったな。君がもしも指一本でも僕の妻に触れていたら、君はこの国にいられなくなっていたことだろう」
「は、はいぃぃ!! 寛大なお心、感謝いたしますううぅぅぅ!!!」
当て馬くんは擦り切れるんじゃないかってくらい頭を地面に擦りつけて、そのままの姿勢でカサカサと虫みたいに退場していった。
うん、私からあなたに贈るわ、助演男優賞を!(倒置法)
「――ミレーヌ」
「――!」
ファビアン様がいつになく熱の籠った視線を私に向けながら、ギュッと手を握ってきた。
キタキタキタキタッ!
「僕はやっと今、自分の本当の気持ちに気付いたよ。――どうやら僕は君を、心の底から愛してしまったようだ」
「……ファビアン様」
「どうやら僕は君を、心の底から愛してしまったようだ」キターーー!!!!(大歓喜)
令嬢が旦那様に言われたい台詞、三年連続堂々の一位!!!!!
これにてめでたくエンディングよ!
そろそろバックでは、壮大なエンディングテーマが流れ出してるはずだわ。
「どうかこれからは僕と、本当の夫婦になってほしい」
「はい、私もあなた様を心から愛しております、ファビアン様」
私とファビアン様は無言の月が照らすバルコニーで、そっと誓いのキスをしたのでした。
――ハッピイイイイイイイイエエエエエエエンド!!!!!
宰相閣下「ファビアンくんすぐ戻るって言ってどっか行っちゃったけど、全然帰って来ない……」