帰宅
街へ出掛けてわかったこと。
私の世界でいうところの中世ヨーロッパに近いこと。生活することが主であり、嗜好品はお酒・お菓子・ほんの少しのお洒落、という程度。余分なものを購入する人はほんの一握りだということ。
そう、欲しいか欲しくないかではなく、要るか要らないかで判断していた感じ。
屋敷へ帰ってローズに服を着替えさせられたけど、どうやら私が着ていたのは召使いの1人の私服みたい。私が買った砂糖菓子のお店でローズも小袋のお菓子を買っていたけれど、そのお菓子が対価らしく、召使いは「菜那様に着ていただいただけで光栄なのに、こんなものまでいただけるだなんて!」と感激してた。
着ていただいただけで光栄って…もうお尻の辺りがこそばゆくて堪んない。
今回紙だけを街で見たけれど、実は鋳造するところも見たいと思ってたら、出発前にローズに言われたのね。
「鋳造ですか?トマスじぃが居ますから、明日行かれますか?」
「トマスじぃ?」
「このドーソン公爵邸の住み込み鍛治職人です」
え?なに?住み込み鍛治職人?
多分目が1.5倍になったと思う。私の顔を見たローズが笑ってた。
「菜那様のご要望にどこまでお応え出来るかわかりませんが、トマスは結構腕がいいので、そこそこ叶えられると思いますよ」
ローズ!ありがとう!
服を着替えてソファにもたれかかるようなして座ると、楽しかったんだけれど…ふと悲しさが頭をよぎる。
異世界に来てもなんのチート能力もない。
女神の化身なんて崇め奉られても、何も出来ない。
私は非力だ…。
神様、どうして私はこの世界に飛ばされたんでしょうか?どうしてチート能力が無いんでしょうか?
私の初任給の半分はするだろう高価なくまちゃんのまん丸の瞳を見ていたら涙が出て来る。
ダメだ、ローズは今いないけど、この部屋係の下女のアナとレイが居る。涙を見られる訳にはいかない。
今私がやれること。
稼ぐ手立てを考えて、公爵家のお世話にならずに自立すること。一刻も早く。
泣いてられないんだわ。
と思うけど、やっぱり辛い。