存在そのものが…って言われても
公爵の執務室では女神の化身についての説明を受けた後、この世界のことを教えて貰った。
この世界には魔法は存在しないが、"世読み"と呼ばれる予知能力を持つ人がほんの一握りだけ居るらしい。過去その能力で功績を上げた人の子孫である高位貴族に僅かに居て、血族結婚をすることでその能力を保っている、と。公爵もその1人らしい。
その点を除くと意外と"普通"の中世ヨーロッパ的な世界で拍子抜け。
じゃあ私は何したらいいんだろう?
チートな能力もない。
これ!といった才能もない。
それで女神の化身って…どうしたらいいんだろう?
"この世界を導く"ってばっくりとした内容を言われてもなぁ…。
「あの、私は今何をしたらいいのかわからなくて…そんな状態でこのお屋敷にいつまでもお世話になる訳にはいきませんし…」
かと言って1人でこの世界で生きていく自信なんてこれっぽっちもない。出来れば…どこか知り合いとか親戚のお屋敷で住み込みで働かせて欲しいなぁ!
「菜那様、どうかこの屋敷を出て行かれないでください。菜那様はおられるだけで…存在そのものが尊いのです」
は?存在そのものが尊いって…なんですか?どこぞの国のようなんですが?…ってここは日本ではないけどさ…。
結局公爵に押し切られてしまったけど、私毎日何をして過ごせばいいんだろう?
物凄くゴージャスな昼食を食べた後ソファに座ってボーっと考えてしまった。
暇すぎる。テレビもスマホも無い。本も…あ、そうか!本ならお願いしたら…公爵家なんだもの、沢山あるでしょ!尤もたまたま日本語が通じる世界だから助かってるけど、文字まで読めるのかどうかはわかんないけど!
部屋にローズが入って来たので図書室があるのかどうか聞いてみたら、公爵の許可がいると言う。そうか…この中世の時代だと本は貴重なんだ。
活版印刷とかすればいいのにな?
あ!これ活かせるんじゃない?
「公爵家の皆様のお部屋と執務室以外はいつでもご使用くださいとのことでした」
ローズがすぐ公爵の許可を得て来てくれたので、図書室へ行ってみたら、やはり書写した本だ。そりゃ手に入りにくい"高価なもの"よね。
そして肝心の文字。
はい、全くわかりません。チート機能発動かと思っていたけど、文字に関しては無くて本当に残念極まりない。でも何故か書いてあるイメージだけは伝わる…という、微妙な状態。
「ローズ、私ここの世界の言葉は理解出来るし話せるけど、文字は読めないみたい。どなたかに教わることは出来るかしら?」
存在そのものが尊いというのなら、せめていざという時に自活出来るように読み書きだけは身に付けたい!
ローズは私の世話係で下女ではない、ということで、ローズが教えてくれることになって、ちょっとホッとした。家庭教師なんてつけられた日にゃあ…大変そうだもの。