公爵の執務室へ行く
ローズさんが私が来たことを伝えると、どうぞお入りくださいと年配の男性の声で返答があった。公爵っておじさまなんだなぁ。
と思って入ると、正面にある重厚な机に座っていたのは私より2〜3歳歳上の若い男性で、向かって斜め右側に60歳位の男性が立っていた。見た目から判断すると執事のよう。ここは執務室なんだな。
「女神の化身、ようこそドーソン公爵家へ!」
公爵はペンを机に置くと立ち上がって笑顔でこちらへ来た。
これまで銀髪と白髪の違いがわかっていなかったけれど、公爵は少し灰色がかった艶のある髪で、これが銀髪なんだと私はやっとわかった気がする。白髪とは全く違う。目も透き通るような水色で、虹彩は水色で、瞳孔は紺色っぽく見える。こんな綺麗な瞳はなかなか無いと思う。しかも物凄く美形!公爵位に美形ってまさに小説に出てくるキャラみたい!
執事に促されて机の前にある品のある濃紺のソファセットに座る。部屋着として着せて貰ったドレスと違い、この立派なドレスでソファに座るのはなかなか難しい。でも座らない訳にはいかなかったので、裾払いをしてなんとか座った。お尻の辺りが皺になったらどうしよう…。
いや、それより女神の化身と呼ばれたことの方が問題だ!
「女神の化身、私はウィレム・ドーソンでございます。お会い出来て光栄です」
公爵もローズと同じように目をキラキラさせてこちらを見る。勿論公爵なので感情は押し殺して物静かな感じで言って来られたけれども、キラキラ感は消え去っていないんだもの。
「私は野中菜那と申します」
何を言ったらいいのかわからなくてそれしか言えない。公爵って権力者だし、下手なこと言って殺されたら嫌。尤も私はこの世界では特別な存在みたいだけど。
「女神の化身、何か不都合なことがございましたら遠慮なくそこのローズへ仰ってください」
名乗ったのにまだ女神の化身って言うの?!
「あの…女神の化身とかでは無く…名前で呼んでいただけますと…」
「名前で、でこざいますか?」
「お願い致します。野中でも菜那でもどちらでも」
不服そうに名前で、でございますか?と言われても。私は普通の人間なんです!女神という単語を使われるだけでドキドキしちゃうんだもの!
「では僭越ながら…菜那様とお呼びさせていただきます」
「ありがとうございます!」
公爵家と来ればおそらく王室と親戚だろうというのは想像に難く無い。それなのに「様」とか「お呼びさせて」とかそこまでの態度を取るというのは女神の化身は本当に特別な存在なんだろうな。
でも女神の化身ってなんだろう?
正直に聞いてみた。今聞かないとわからないまま過ごすことになっちゃう!
「菜那様は何もご存知ないのですね」
凄くビックリした表情をして私を暫く見た後、公爵は静かに女神の化身について教えてくれた。
この世界には女神パトリシアの化身が200年に1度だけ存在する。現れるのは月の池と呼ばれる特別な池の上にある小さな島で、月の池はこの国には6つあり、1つは国王城、1つは砂海、残り4つは4公爵家にあるらしい。
前の化身は現れてすぐに亡くなったようだけれど、公爵の話ぶりと言葉の選びぶりから自死したみたい。化身はこの世界に馴染めなかったのだろうと公爵は庇っているけれども、言葉の端々に期待の星が自死してしまった落胆は感じ取れる。
今年が丁度200年目で、4の月の三日月の日に現れるというお告げ通り、しかも我が公爵家に現れてくださって本当に嬉しかったと公爵は貴族らしからぬ感情を隠さずに喜びを全面に出して私に伝えて来た。
「女神の化身…って何をするんでしょう?」
その質問を待ってましたと言わんばかりに目を輝かせて私に説明してくれる。
女神の化身は国民を幸せに導くそうだ。
…って幸せって何?何をしたらいいの?
前の化身は早々に亡くなったから何もしなかったけれど、その前の化身は病の治療をしてくれたらしい。
…魔法じゃないの?
身体能力が劇的に向上するんじゃないの?
「女神の化身は既に能力をお持ちなので、我々にその能力の一端をお示しくださり、幸せに導いてくださるのです」
あの、満足げに微笑んでそんな抽象的なことを言われても。私は普通〜の社会人1年生なんです。何も能力ありません。お勉強は中の上位に出来たけれど、普通〜にまぁまぁいい大学の経済学部を出て会社に入っただけの人間なんです!
期待外れだったと言って魔女扱いされて殺されるなんてことはないよね?どうしよう。
「私…普通の人間なんですが」
期待させて後からこんなはずでは…なんて言われるより、最初に言って追い出された方がマシかもしれない。可哀想に思ってこの屋敷に下女として置いて貰えたら…という下心アリアリで思い切って言ってみた。
「はい、女神の化身は人間です。しかし何か我々にはない能力をお持ちなのです」
いや、そういう答えを期待した訳じゃないから!
どうしよう。普通異世界転生とか転移とかって、チートがあるのがお約束なんじゃないの?!
書ける時に書きますので、週一回位になります。
申し訳ございません。