誘拐事件②
少し俯いて、でも目だけその男性をチラ見していたら、その人もジッとこちらを凝視する。
なんていうの?
ドスを持ったヤクザに両側から挟まれた気分?
怖くて怖くて仕方がない。
逃げられない。
私はどこへ連れて行かれるんだろう?
こんな恐ろしい状況が続いて精神的に疲れたその時、ふと気付いたの。
私すぐに殺されてないし手足の拘束もされてないってことに。
ということは扱いは良く、とりあえず今のところ命の保証はされているということ。勝手に疲弊していざという時に体力がなくて逃げられないのだけは避けよう。
ええ、寝ましたわよ。疲れたから!
…嗅がされた薬が残っていたのもあるし!
(ここ強めに言っちゃう!)
座って寝づらかったから、馬車の座席に座って上半身だけ座席に横になって寝ようとしたら、見張りの男性がぴくっと動いて眉が動いたの。
いーの、何も言われなかったもん!
また1時間位馬車が走ると、今度はその男に肩を揺り動かされて飛び起きちゃった!
あまりに驚いて激しく起き上がったから、その男性に頭突きしちゃったわ…。痛い…けど頭突きって動く方と受ける方だと受ける方の方が圧倒的に痛いのよね…。きっと相手はめちゃくちゃ痛かったと思う……。ウッてうめき声をあげてたし。勿論ちゃんと謝ったけど相手は無言。
「…ここで少し休憩する。トイレ休憩だ」
え?トイレ休憩?そんなの取ってくれるの?でもどんなトイレ?まさか…
降りると野原というか、森の中の少しひらけたところっていうのが正解の場所。まさか…ここで用足ししろと?
馬車を降りた私が愕然としていたら、少し離れたところでイカツイ男性が大きいスコップで少し地面を掘り、組立式の衝立…というか目隠しみたいな直径2m位の円錐のテントが素早く張られたの。
「用足しはこちらで。用を済ましたらこのスコップで土を被せて。紙はこれだ」
テントの中とはいえ…まさか!!
でも今しておかないと後で困ると思う!
ああ…もうどーにでもなれ!
ええ、用足ししましたわよ!
テントの中だけど野原で!
用足しして土を被せて、別に手についた訳じゃないけど手を洗いたい…と思ったら、手を出せと言われて水をかけられたから…ありがたいといえばありがたかったんだけど…。
実際私の扱いは特別みたい。他の人たちは男性ということもあって藪の中で用足ししたみたいだし。
そしてまたすぐ馬車へ乗せられて…また揺られる。2時間位したらまた休憩で、日が暮れて来たら止まったけれども私は馬車から出して貰えなかった。トイレ以外はひたすらどこかへ猛スピードで移動してる感じ。
どこへ連れて行かれるんだろうという不安で涙が出そうだったけど、くよくよすることで体力を消耗したくなかったから、あえて考えないようにした。…図太いかな、私。
それにしても暇すぎる。
とりあえず命の保証はされているし…よーし!話しかけちゃえ!
「あの!」
男が眼光鋭い目で見る!怖っ!
「お名前は?」
「…」
「私の名前はご存知ですか?」
「…」
「なんで私は連れ去られたんですか?人身売買ですか?」
しつこくなんだかんだと話しかけていたら、大きくふぅ…とため息をついて
「女神の化身、もう少しおとなしくなれないのか?」
と一言。
女神の化身…そうか!女神の化身だから私は丁寧に扱われているし、こんな目にあっているんだ!




