目が覚めて欲しい
朝ごはんを食べ終わるとさっきの女性に促され、ソファに座った。
私、これからどうしたらいいんだろう?
夢なら早く覚めてほしい。
考えると不安で涙が出そうになる。でも嬉々として私の世話をしてくれる女性に申し訳ない気もする。
あ。あの人なんて名前なんだろう?朝食の片付けは別の召使いがしていて、彼女はこちらを見てじっと立って指示待ちのような感じだし…聞いてみよう。
「あの、あなたのお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「はい、私はローズ・ブラウンと申します。ドーソン公爵様の家臣のブラウン家の娘でございます」
ローズは私より少し歳上のよう。でもちょっと待って?この世界ってなんとなくヨーロッパの中世に近いから、結婚って早いんじゃないの?なのに独身?
「夫に先立たれまして、以降こちらでお世話になっております」
「あ、ごめんなさい…」
思わず言ってしまった。
私の思ったことを見透かされた気がして。
「夫はもう5年も前に亡くなっておりますから、大丈夫ですよ」
にこりと微笑まれ、私は少しホッとした。
「もう少し致しましたら、ドーソン公爵様がお嬢様にお会いになられます。お支度を致しましょう」
え?お支度?
「あちらに用意してございますドレスに着替えていただきます。アクセサリーはこちらの中からお選びください。あまり種類がなくて申し訳こさいませんが…」
そう言って薄くて大きな木箱を向こうのテーブルから持って来た。
あ!私お名前を聞いておきながら自分は言ってない!
「あの、私、野中菜那と申します!お嬢様とかでなくて…その…野中さんとか菜那さんとか…でお願い致します」
ローズさんは一瞬キョトンとした後、目を輝かせてこっちを見た。これは…どこかで見たことあるような表情。えっと…
「菜那様!菜那様と仰るんですね!私に最初にお名前を教えてくださるだなんて!私感激です!」
ローズさんは言わなかったけれど、最初にキャーッという悲鳴が上がるような雰囲気。あ。わかった。私…アイドルを見るような目で見られてるんだ!
女神の化身とか言われてたから、何かきっとこの世界では特別な能力があって、それを活かす運命とかあって。それを期待されてるんだろうな。
「…よろしくお願い致します」
向こうのテンションにそれしか言えない。
大喜びのローズさんは少し生成色の生地に刺繍がされたドレスに着替えさせてくれた。アクセサリーをと言われたけれど、木箱の中のアクセサリーは本物だったら何千万円するんだろう?というような物凄く重厚な感じのものでまさに公爵家ならではって感じ。こんなの恐ろしくて付けられない!
辞退したけどアクセサリー無しでは…と言われてやむなく1番マシそうなのを選んだけれど、これでも3桁万円はしそうで震える。
早く目が覚めて欲しい。目が覚めていつもの私のワンルームで過ごしたい!
そうこうしている内にお化粧されて公爵様のお部屋まで連れて来られてしまった。