異世界転移した私
目を覚ますと違う部屋にいた。
白と深い青を基調とした、ヨーロッパを思い起こすような美しい部屋。
あれ?昨日職場の歓迎会があって…新入社員の私は断り切れなくて、散々飲まされて…そこから途切れ途切れにしか記憶がない…。
そうだ、夜遅くは乗り換えするより真っ直ぐM線に乗って帰った方が、5分余分に歩くけど早いからって選択したんだっけ。
で、降りてベンチで少し休憩してから歩き出して…駅を出てひとつめの角を曲がる時に車が来たから避けようと電信柱と壁の間を狭いけど通ったっけ…そこから記憶がない。
私、別世界に来ちゃった訳?!
慌ててベッドから飛び起きて部屋の入り口にある鏡を見たら、相変わらずの私の顔。服は…ネグリジェっぽいのを着ているけれど、下着は私のだ…。誰かが着替えさせてくれた?
あ、なんだ、別世界とかじゃなくて…
じゃあ酔っ払って倒れて、この洋館の方が着替えて寝かせてくださった?
コンコン。
部屋を軽くノックする音がして「入りますよ」と言うやいなや私より少し歳上の女性が入って来た。
「お目覚めですか?」
見た目少しラテン系、いやどちらかと言えばトルコ人に近いが髪と瞳の色が綺麗な金色だ。服装はどう見てもメイドにしか見えない。日本人ではなさそうに見えるけれど、日本語を喋るところからすると日本在住歴が長いのだろう。
「御神木の傍で倒れられていたんですよ」
女性はとても丁寧な口調で、酔っぱらいの介護をしてくださったので恐縮の一言しかない。
「ご迷惑をお掛け致しまして申し訳ございませんでした」
咄嗟に出た言葉はそれだけだった。
「迷惑だなんて、そんな!」
女性は慌てて首を横に振ると、
「女神パトリシア様の化身が4の月の三日月の日に現れるというお告げの通りでした」
と言って満足げに私を見た。
女神パトリシア?
化身?
え?ここ日本じゃないの?
え?え?
私は私のまんまなんだけど?
慌てて私は窓へ走り、外を見た。
外は美しい庭園が広がり、大きな青い月がうっすらと見える。
月の倍以上ある!
日本じゃない!
地球でもない!
ここは別世界なの?!
「いかがされました?」
私が呆然と外を見て動かなくなったので、女性はこちらへ来て私の腕を持って支えようとしてくれた。
「ここ…どこですか?」
絞り出すようにしてもこれしか言えない。
「ここはドーソン公爵邸です」
公爵邸…え?公爵?
女性に連れられてベッドへ座ってからジッと考えてみた。
ここは別世界らしい。
元の世界への帰り方はわからないけれど、公爵邸という、この世界の権力者の邸宅で保護されているし、女神の化身って言ってたから邪険にはされそうもない。とりあえずここで雨露をしのげそうだし、当座は食べ物にも困らなさそうだ。
最悪の事態だけは避けられそう…。
こんな事態になっているのに私ってなんて冷静なんだろう…。いや、夢かもね?と思っているのは否定しない。
あ!ちょっと待って。
ここは違う世界だから、魔法とか使えたりして?
走ったらめちゃくちゃ速いとか、超人のような感じとか?言葉も通じるんだからチートなんだろうな。どんな能力があるんだろう?
私が座ってジッと考えている間に女性は他の召使いらしき人に声をかけて、身支度の用意や朝食の用意などをしてくれていた。
顔は洗面器のお水で洗い、口はコップの水ですすぐ。水は…地球と同じ。服は…
「自分でやりますから!」
と言ったものの、ドレスの着方がよくわからない!
「…やっぱりお手伝い致しますね」
見かねて手伝ってくれた…。私、情けない。
ドレスと言っても舞踏会で着るようなお姫様のドレスではなくて、襟付きの裾が床に付くような長さのシンプルなベージュに茶色のチェック柄のシックなドレスを用意されて心底ホッとした。ピンクのレースたっぷりのフリフリドレスなんて出されたら着替えを拒否しそうだもの。
食事はコンチネンタルスタイルに近そう。
スクランブルエッグ、ベーコンというよりは干し肉、レタスっぽい菜っぱのサラダ、コンソメのようなスープには豆らしきものが入っていて美味しい。パンはドイツの堅パンみたい。ちょっとライ麦系?
私、なんでこんなに冷静に食事なんかしてるんだろう?少し二日酔い気味なのに、なんでこんな量を朝から食べてるんだろう?
週1更新目標です。