桃坂奏には困った物である
東條空……高校二年、どこか空虚、周りの顔色伺いがち。
白浜海……高校二年、絶世の美少女、上から目線。
桃坂奏……高校一年、あざとい系小悪魔。
前回までのあらすじ
光体育館でバスケをする約束をした空と桃坂奏、体育館に着いてみるとそこには偶然?白浜海が居た。
三人はバスケをしていると、そこに謎の大学生達が彼女達をナンパ。
彼女達を守るべく、空は謎の大学生達にバスケ勝負をする事になった。
やばい。なにがやばいってまじやばい。二人にカッコつけていた癖に、後一点取られたら俺の敗北となる。
俺は、桃坂奏と、白浜海と、光体育館でバスケをしていた所に、謎の大学生達に声をかけられ、そこで白浜の提案により桃坂と白浜を賭けたバスケ勝負が始まった。
そして、俺は今まさに絶体絶命のピンチである、多分このオフェンスでケリをつけなければ俺の敗北は濃厚である。
くそっなんでこの人こんなに上手いんだよ、上手い系の人だとは思っていたがここまでのレベルだと思ってなかった。
俺が頭の中で勝利へのシナリオを考えていると、それを見兼ねたのか白浜が俺を見据えて口を開く。
「東條君ちょっと来なさい」
手を招き猫の様に招いている。なにそれ超可愛い。ギャップ萌えだよ。ドッキュンだよ。などと少し気が抜けてしまった。
「あなた、なにを悩んでいるの? 私はてっきり、もう相手の事見切ったのかと思ったわ。じゃなきゃあんな無様にやられないものね」
「いや、いまいち決め手に欠けてる、まだ完全に勝てるイメージが湧いてこない。憶測でプレーしてこのオフェンスを落としたくない」
「本当に男らしくないわね。そのままあのナル虫達に私達が連れ去られてもいいの?」
ナル虫って……ナルシストとゴミ虫の略ですかね? そもそもこの勝負あなたのせいでこうなってるんですよ?
「そうは言われてもなー、あの人結構上手いんだもん」
「はぁ……仕方ないわね」
そう言葉を口にして俺に更に一歩近づいた白浜そして……『チュッ』っと音がするのと同時に俺の頬に柔らかい感触がある。
さっきまであまり興味がなかったのか携帯をいじっていた桃坂も『なっ』などと驚愕の顔をしていた。いや、君はもうちょっと応援してよ〜。
「な、な、な、なにしてるんですか!?」
「いえ、その、こうすると男の子は元気が出ると聞いた事があったから……」
そう話している白浜の顔はめちゃくちゃ真っ赤になっていた。まずいバスケ勝負所の話ではない。俺の顔も自分でわかるほど火照りまくっている。
……これが噂のクーデレってやつですか。うん。すごくいい。いい。
「あの、白浜さんや、この勝負勝ったら、そのご褒美とやらがあったりしますか?」
欲望剥き出しの俺が更にもう一度あの感触を味わいたく、白浜に要求をしようと交渉していた。
「先輩。私からとーっても素敵な罰があるので、そこの隠れビッチさんからのご褒美は期待しないでくださいね」
あーこれ、絶対ブチギレだ……。しかも隠れビッチて、違うよ桃坂、あれはクーデレだよ。
「え、なにそれ、全然嬉しくないんだけど。でもやる気だけは出た、ありがとな。白浜!」
「私には?」
「お、おぅ、ありがと? な?」
お礼を言わされた挙句、それでも俺の事をずーっと睨んでる桃坂。俺が一体なにをしたというのか……
「すみません。お待たせしました」
「なに人待たせて、イチャイチャしてんの? お前後一点取られたら負けだからな? 勝負は勝負だから、負けても文句言うなよ?」
「はい。わかってます。だけど俺は負けませんよ!」
その言葉通り俺は一度のオフェンスで相手に止められる事なく完璧に勝利したのである。
先程まであった決め手に欠けてるピースがピタリとハマった気がして、そこからは相手の動きがほぼ俺の推測と一致し負ける要素がどこにも見当たらなかった。
「んな!? さっきまでと別人みたいじゃねーか」
「勝負ありね。当たり前じゃない、彼はね、自分と同等程度のスペックの持ち主となら一対一で負ける事はまず無いわね」
それを見越して出した賭けなのだろうがかなりギリギリのところだったぞ。
「はぁ〜危なかった……ほんとに」
「あなたなら勝てると信じていたから。それに、あなたはバスケしか取り柄がないのだから、その取り柄まで失ったらもう只のポンコツね」
最初こそ素直に賞賛してくれたのかと思ったけど、やっぱりこいつも期待を裏切らねーな。
「私は最初から先輩が勝つと思ってましたけどねー。先輩に勝つには情報収集される前、つまり三ポイント先取とかにしないと勝てませんよ」
桃坂は俺が勝利したにも関わらずめちゃくちゃ不機嫌だ。でも、こいつ俺の事ほんとにわかってやがる。さっきの勝負三ポイント先取にしてたら確実に負けてた。咄嗟に桃坂が五ポイント先取にしようと言い出してくれたからなんとかなった様なものだ。
「桃坂、ありがとう。お前はそれを見越して五ポイント先取にしてくれたんだろ?」
「そうですよー。だから、先輩にあんな事しなくても先輩は勝ってたのに、このビッチめ!」
そう口にしながら、白浜にあっかんべーと舌を出しておもっきり警戒していた。俺を盾にするのやめてね? あいつの攻撃とか耐えれる気がしない。
「あら、妬かせてしまったかしら? ごめんなさいね、東條君にはこれが一番効果あるのよ、あなたもやってみたら? えっと……桃尻さん?」
「誰が尻ですか! 桃坂です! 効果あるって、先輩それほんとですか?」
「効果がなくもないというかあったっていうか、うん。その一説にはすごく興味がある」
えぇ。めちゃくちゃ効果ありましたよ! なんならあの感触が忘れられないまである。しょ、しょうがないじゃん! 初めてされたんだもん。
「ふーん? あ、先輩私からの罰ゲームがまだでしたね」
「は? あ、忘れてた。……優しくしてね?」
「では、先輩私の前で跪いてください」
「はい……。こうでよろしいですか?」
桃坂の前で膝をつかされ、それまるで、主に忠誠を誓う騎士のような姿勢だった。
これは一体なんの罰なのか、盲目し、しばし思案しているとそっと誰かの手が俺の額に触れ、前髪を上にずらしていく。
その手からはハンドクリームの香りなのだろうか、柑橘系の香りがふわっと漂い『チュッ』と俺の額にまたしても経験のした事ない柔らかい感触が残る。
「私も、負けてられないですから。これで先輩は悩んでください」
俺の額にキスをした桃坂は茹で蛸タコさながら真っ赤になっていた。
俺はその場に膝をついたままフリーズしていた。え? なに? なんで俺こいつからもキスされてるの? やっぱりモテ期?
「ちっ。やはり泥棒猫、いえ、泥棒尻だったのね」
白浜がさっきとは別人のような顔つきになり、辺りの気温がまた下がった気がした。
白浜さんや、泥棒尻は無理ありすぎませんかね?
※
夏休み。それは健全たる高校生男子にとってそれは全ての欲望を満たすスペシャルな長期休暇である。
更に言えば高校生活において高二の夏休みほど特別な事があるだろうか。
なぜなら来年には受験が控えており、受験勉強やら講習やらで夏休みは満喫できない。しかも更に付け足せば俺には部活という縛りが無くなった今誰も俺を止める事はできない。俺は全てにおいて、この夏休みを必ず満喫しなければならない。
えぇ。そう思ってた時期も確かにありましたよ。ほんと昨日の夜までは……。一本の連絡とそして今目の前にいるこいつさえ居なければ。
「あら、おはよう。休みだからといって怠けすぎじゃない? 怠けすぎて生ゴミのような顔してるわよ」
「上手いこと言ってるようだけど基本的に俺をバカにしてるんだよね。んで、君は夏休み早々そして、どうして俺の家に居るのかな?」
「お母様に先程お会いして、そしたら親切にも家に上げてくれたの」
お母様って、それにあの母親何勝手に人の家に人の友達? みたいな人上げてるのよ。よりにもよって一番家に上げたくないやつだよこいつは。
「ここじゃあれだから東條君の部屋に行きましょうか」
「嫌だ。断る。帰ってくれ」
俺は出来るだけ拒否してるオーラを全開に出し、白浜を家から追い出そうとする。
「お手洗いはどこかしら」
「ちょっと、そこ、なに自然と廊下に出て俺の部屋探そうとしてるわけ?」
「ちっ。妙に勘が働くのね。まぁどの部屋かは見当が付いてるんだけどね」
隠すそぶりの無い舌打ち。しかも俺の部屋知ってるってほんとなんなのこいつ。
「自然とストーカー行為バラすのやめてね? それよか、ほんと何しに来たんだよ」
「あなたに会いに来たの。せっかくの夏休みでしょ? あなたと満喫しようと思ってね」
こいつ、ほんとに俺の事を好きなのか? 罵って来たと思えば急に可愛い事言うし、今までにこういうタイプの人間と関わりがなかった為情報が不足しすぎている。
「お前、俺の事好きなの?」
「えぇ。あなたの事好きだったわ」
ん? だったわ? 何故に過去形?
この手の話は深読みしすぎない事がダメージを最小限に抑えてくれる秘訣だ。
「お、おぅ。そ、そうか。でも悪い、今日はどうしても外せない用があるんだ」
「知ってるわ。桃尻さんに何か頼まれごとされてるんでしょ?」
ねー、なんで君はなんでも知ってるの? 知ってる事だけ?
「俺の予定が露見されてるのは気付かなかった事にする。まぁそうだよ急に呼び出されてな」
「あなたも大変ね……この浮気物」
ん? あれ? 何故かこいつの言う者が物に聞こえるんだよなー。
「浮気って、俺ら別に付き合ってないし、それに付き合うとかそういうのはもっと」
「私もあなたとそういう関係になるつもりはないわ」
「え!? そうなの? だって君、俺の事を……」
そこまで口にし、俺は口を閉じた。
これ以上いけば自分で途轍もなく恥ずかしい事を言いそうだからである。
「あー、なんでもない。そろそろ準備して行くわ」
「なら帰りあなたのバイクで送ってくれないかしら?」
「それはできない。何故ならあの愛車で二人乗りする時は彼女になった人に初めてを捧げると誓っているからだ」
「そう、なら仕方ないわね。じゃあ私はこの辺で、また明日ね」
あくまでも平然とそして自然と明日もこの家に来る宣言をしてくる白浜。
こいつ予定とかないの? そういえば俺は白浜の事を全然知らなかった。あくまでも客観視した、白浜海という人物像を勝手に自分で作り上げていた。
ほんとの白浜海は一体どこにいるのか、彼女の心の中に入る権利が俺にはあるのか、ふとそんな事を考えていた。
「よし。行くか」
「遅いわよ」
家の外に出てみるや、何故か白浜さんは俺の愛車に跨っていた。
「あのー、さっき彼女に初めてを捧げると言ったばかりでは? なんで平気な顔して乗ってるの?」
「あら、彼女って私の事を他人行儀に呼んだのかと思ってしまったわ。あなたの発言の仕方が悪かったのね」
「お前の頭の中は完全ご都合主義なのな。わーったよ。送るよ、送ればいいんだろ」
「話が早くて助かるわ、さっ行きましょ」
俺が愛車のエンジンをかけ運転しようとすると、背中にはあり得ないくらいの柔らかい感触、ヘルメット越しにも漂うサボンの良い香り。
まずい、これは、こんなの興奮しないわけがない。なんでこいつ、こんなくっついてるの暑いから離れないでくれる?
「落とされないようにしっかり捕まっておけよ」
「そうするわね、このエロ条君」
バレてたか。だがそういう割には先程より幾らか密着度が上がった。
こいつの胸すごく柔らかいな〜直接触りてーなー。などと高校生なら感じて当たり前の感想を必死に理性を保ちつつ、この感触を忘れまいと背中の感触に集中しながら、俺は白浜を指定された場所まで送り届けたのであった。
「じゃあ、俺はこれで。その、また明日な」
そう言葉を残し、俺は桃坂の待ち合わせ場所に向かった。
待ち合わせ時刻ギリギリになってしまったが遅刻する事なく待ち合わせ場所に着き、今日は驚く事に桃坂の方が俺より早く来て待っていた。
「あ! 先輩、おっそーい」
うん。君はそれ絶対俺に言っちゃいけないね。
夏の暑さもあり、今日の桃坂の服装は少し露出度も高くなっていて、白のTシャツに、黄色のプリッツスカートに、少しだけヒールのついたサンダルでドレスコードされていた。
「あぁ。悪い、今日はなんかいつもと雰囲気が違うな」
「もちろんです! 今日は気合い入れないといけないですから」
「気合いって、そういや今日の用件はなんだ?」
「先輩! 私の彼氏になってデートしてください!」
「……はぁ!?」
いきなり告げられた桃坂の告白に俺は驚きを隠さずに居た。
俺の波瀾万丈の夏休みが今始まる。
次回桃坂とのデート回!
全力であざとく可愛い桃坂奏をお楽しみに!
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