白浜海は常に毒を吐く
東條空……高校二年、どこか空虚、周りの顔色伺いがち。
白浜海……高校二年、絶世の美少女、上から目線。毒舌
桃坂奏……高校一年、あざとい系小悪魔。
東條結花……空の妹、コミュ力お化け、ブラコン
前回までのあらすじ
遂に新ヒロインの白浜海登場、超絶美少女なのに、常に上から目線。それでいて空のストーカー!?だがそんな空はいきなり知り合った白浜海からの好意に浮かれている模様。
俺は白浜との出会いに既に気持ちは舞い上がっていた。愛車に乗りながら帰宅途中も街の街灯さえも俺にスポットライトを当てられてるかの様に思えた。
これが物語の主人公になった気分かー、最高の気分だ。桃坂は正直まだ確信はない。けど白浜はほぼ確定だろ! だってあれ、ほぼストーカーだよ? ていうかなんで歳まで露見されてるのか未だにわからない。
だけどそれを差し引いても白浜はめちゃくちゃ可愛い、白浜程の美少女にストーカーされるのは、一種のステータスなんじゃないかと思ってるくらい、俺はテンション爆上げ。
家に着き、俺は愛車をガレージに戻し家の中に入って行った。
「ただいまー」
「あ、おかえりー空兄、ってなんて顔してるのよ」
またしても俺の帰りを一番に迎えてくれたのは俺の事を愛してやまない妹の結花であった。
「ふっわかってしまったか? 俺、多分来てしまったかもしれない」
「きたってなにが? 生理?」
待て。妹よ、それで俺が「うん、きちゃった」なんて言ったらどうするのよ。実の兄が実は姉でしたとかそれ、どんなラノベ?
「違うわ! モテ期だよ! モテ期」
「……空兄が……モテ期?」
暫くの間結花はポカーンと口を開けたまま硬直していた。え? そんなに驚く?
「いやいやーまたまたーやめてよ空兄。しょうがないから一緒に病院行こ?」
俺があたかも幻覚でも見てる様な言い方である。確かに妹からすれば今までの俺の事を良く知ってるし、信じられない気持ちもわからなくはない、だけどついに俺にもモテ期が来た事を妹に話してやらなければならない。
「実は最近な」
俺は妹に、ここ最近の桃坂の事やまさに今さっき出会った白浜の事を打ち明けた。
「それ、何かの業者さんじゃないの?」
うん。なぜあなたはそういう大人の方がやるアプリの事を知ってるのかな? お兄ちゃん心配になっちゃうじゃん。
しかもあの二人が業者さんなら完全なミスである、なぜなら、俺は料金を支払ってないからだ。
世の中にはレンタル彼女なる素晴らしいサービスがあるが、いかんせん両金が高いのなんの。その点を考えれば俺はあの二人に料金を一切支払ってない。……もしかして後払い?
「業者さんなどではない! あの二人はちゃんとした高校生だ」
「え、嘘、じゃあほんとに空兄にモテ期が……嘘だぁーーーー」
やっと理解したのかいきなり叫びながら自分の部屋に走っていった結花。
もしかしてそんなにお兄ちゃんの事好きだった?やだ。結花ちゃんったら実の兄妹は恋愛できないのよ?
そのまま暫くしても結花は部屋から出てこようとしないので、結花の部屋を訪れることにした。
「空兄がモテ期、空兄がモテ期」
「おーい、結花? 何一人でブツブツ言ってんの?」
「空兄、その人達紹介して。私が自らの目で業者さんじゃないかどうか見極めてやる!」
まだ彼女達の事を業者と怪しんでる様子。だが、紹介するもなにも俺はまだ彼女達とそういう関係ではないので紹介は出来ないのである。
「いや、紹介するって言ったって出来ないだろ。なんて紹介すんだよ。まさか俺の事が好きな人達ですってか?」
それが違った場合俺は間違いなく自殺物である。
それに、これは直接言われた訳でもないあくまで俺の中の妄想の話で、むしろ願望まで出てるレベルである。
「確かに……。でもやっぱり信じられない」
結花はどうしてもそれを受け入れられずぶつくさ文句を垂れていた。
「ま、まぁそのうちな? 紹介できる様な仲になれたら紹介しようじゃないか!」
その言葉を告げ部屋から出た俺は一つだけ後悔があった。それは、白浜の連絡先を聞かなかった事だ。
きっと彼女も俺の連絡先を知らずに悔やんでいるのではないかと一人でニヤニヤ妄想して俺は一通りの事を済ませ眠りに落ちた。
※
夏の暑さは日々増していく中、俺はアブラゼミ達のコーラスと部屋の恐ろしく蒸し蒸しとした熱気にさらされ起床した。
時刻を見ると朝の十時を刺している、土曜日の俺にしては少し早く起きてしまったか、部活をクビになってからは休みの日は決まって昼過ぎまで寝ていたのだがこの暑さでは仕方ない。
うちの両親はエアコンつけると夏バテするだのなんだのと言ってエアコンを使わせてくれない。目の前にあるのにそれを使えないなんてなんの拷問かと毎年ぶつくさ文句を言うのが恒例行事となっている。喉も乾いたのでリビングに向かう。
喉も潤いリビングでゴロゴロしながら俺はこの状況をどう打破すべきか思案していた。端的に言うとめちゃくちゃ暇であった。なにをしようにもこの暑さだ、特にやる気が起きる事も無く、ただ天井と睨めっこしていてた。
睨めっこをしていると、ヴーッと鈍い音がした。携帯が鳴ったのだろう。
どうせ迷惑メールなんだよなーと思いつつ携帯を開くとLINEが来ていた、相手は桃坂からだった。
「先輩ー! 今暇ですよね? え? 暇? 奇遇ですね! 私も暇なんですよー! じゃあ一時に光体育館に来てくださいね待ってまーす。psこの前LINEしたのに返って来ませんでした。この意味わかりますよね?」
……まずい。その日は白浜との出会いで頭が一杯になり携帯を見る事なく、ついでにいうと桃坂の事通知OFFにしたままでその時来てたLINE普通に無視してたわ。まぁ過ぎたことは気にしない主義な俺なのでちょっと桃坂に会うのが怖いとか思ってなくもない。いや、気にしちゃってるじゃん。
本来ならこの暑さで外でバスケをするのは自殺行為だが桃坂の奴、空調設備完備な体育館を選ぶとはさすがと言える。特に用がある訳でもないので了承する事にした。
「あいよ、わかった。psこの前は携帯無くしちゃって連絡気付かなかった」
俺が返信するとすぐさま「わーい♡楽しみにしてますね♡言い訳は後程聞いてあげます」
さっきまでハートマークなのに最後怖すぎない? しかもLINEですらこいつはあざとすぎる。
いいですか? こんなやたらめったらLINEでハートマークを送ってくる奴は小悪魔だと相場が決まっている。これ必須知識な。
俺は時間に間に合うように少しだけ家を早く出ることにした。
夏の暑さが激しさを増す中、俺は愛車で爽快に走っていた。運転している最中は俺の愛車の排気音でアブラゼミ達のコーラスでさえ小さく聞こえ、さらに、この夏の季節に味わえる爽快感が俺はたまらなく好きなのであった。
その爽快感も終わりが近く、目的地が目前となっていた、時刻を見ると約束の二十分前に着いてしまった。これは楽しみにしすぎて早く来たと思われてしまう。
そして約束の時刻になっても桃坂は現れない。またこのパターンですか……
それから幾らかの時間が経ちようやく桃坂らしき人物が遠目から歩いてきてるのが見えた。
白いポロシャツに、髪色に合わせたのかピンクのバスパンを履いていて、まさに運動部らしい爽やかな格好だった。女子のポロシャツってなんかちょっとエロいよね。
「せんぱーい! お待たせしました! ちょっと待たせちゃいましたか?」
「いや、今来たとこ」
デートの彼女を待った時のテンプレを使って、優しく気遣いをできる俺なんて良い奴なんだろ。などと思っていたら予想を反した言葉が返ってきた。
「え? 誰ですか?」
俺の解答に何か間違いがあったのか桃坂は俺も訝しむ様に見てきた。
「先輩ならそこは、『いや、お前遅すぎ、どんだけ待ったと思ってんだよ』って悪態の一つも付いてくるはずです」
君にとって俺ってそんな奴なのね、まぁそうね。俺、本音はそれを言いたかったもん。
「なんだ、正直に言って良かったのか。お前、遅すぎ」
「といいつつも、私に早く会いたくて待ち合わせ時間より先に来て私を待っている先輩でした」
「なんで、知ってんだよ!? いや、遅れちゃ悪いと思って早く来たのは来たんだけどね」
謎の話し手の様な喋り方をする桃坂放っておき、というよりなんで俺が早く来たこと知ってるの? 知ってるなら早く来なさいよという講義の目を向けると。
「先輩、そんなに見つめないでください。照れます」
アッカーン。更に追い打ちかけようとしたのに俺が追い詰められてるまである。なに、この子、可愛すぎる。
「あら、こんな所で珍しい生き物が蠢いてるわね」
……ん? この声は。声のする方へ振り向けばそこには、白のTシャツに自分の名前と合わせたのか青いバスパンを履いた白浜海がそこに居た。
「お、おぉ……奇遇だな」
人間否定された様な言い方をされた気がするが聞き直して自分の傷を広げない様に聞き流すことにした。
「そうね、まさかあなたもここにバスケをしにくるなんてね、それとも、お家に居場所がなくなったのかしら?」
「元々居ても居なくてもあんまり変わらない立ち位置にいるよ」
「そう。それはまた随分と可哀想に。長男としての威厳もないの?」
「あぁ。この前も素で俺の分の飯が用意されてなくて、一人で渋々カップラーメン買いに行ったわ」
「ご両親も時には現実から目を逸らしたくなる時が来るものよ。今度ご両親にお悔やみ申し上げますと伝えに行くわね」
「まてまて。俺生きてる。生きてるから、勝手に殺さないで?」
みなさん聞きました? 彼女初めて会ってから暫く経ちますけど知り合えば知り合う程毒舌になってくるんですよ? この前なんて俺が日課を出来なくなるほどの腹痛に悩まされ、その日は練習をしに行くことは出来なかった。
次の日になり俺は白浜が居るであろう公園に向かい、そして、彼女を見つけ声をかけに行った時「よくもまぁぬけぬけと顔を出せたわね。いっぺん死になさい」
などと出し抜けにきつい一言が来た。
どっかの地獄少女でも一応、死んでみる? って聞いてくれるのに、こいつのはもはや、只の死の宣告だ。
こいつほんとに俺の事どう思ってるのか、分からなくなった。
俺と白浜がお互い言い合ってると、それを見てかなりご機嫌斜めになった桃坂が俺の袖を引っ張りながら抗議してきた。
「先輩、あの人誰ですか? っていうか先輩と約束したの私ですよね? なんで他の女と仲良く話してるんですか? ぶち殺しますよ?」
最早あざとさのあの字も無い完全ブチギレモードの桃坂。それは一見すると仲睦まじい二人が体を密着させイチャイチャしてる様に見えるが、全くもってそんな事はない。最初は柑橘系の香りに鼻腔をくすぐられ、ちょっと控えめな胸が俺の肩に触れ、ドキドキしてたけどそんな甘い想いはすぐさま消え去った。怖い! ももっち怖すぎます。笑顔なのに顔が笑ってない、なにこれ般若?
「落ち着け、素が出てるぞ。それと俺とこいつは……」
口を開いてみたものの、俺はいまいち白浜との関係性に疑問を抱いた。
あれ? そういえば俺と白浜の関係はなんだ? 友達ではないよな、バスケ仲間? これだ! これしかない。
「俺とこいつはバスケ仲間だ」
俺が告げた瞬間何故か周囲がとてつもない冷気に覆われた。
「東條君には躾が必要ね。バスケ仲間? 勘違いしないでくれるかしら? あなたは私の所有物よ」
やはりこいつの中で俺は人間ですらないのか……。
凍てついた笑みから放たれる恐ろしい程の圧力に流石の桃坂もたじろいでいた。
「先輩、この人なんですか。めっちゃ怖いんですけど、あれ、確実に何人か殺ってますよ」
……うん。君も耳元でなかなかに酷いことを言いますね。
「そこの、見るからに男に尻をふりふりしながら媚を売って居そうな子は誰?」
ちょっと白浜さん、挑発しないでもらえますか? 白浜の言葉を聞いた瞬間俺の背中に強烈な痛みが走った。
「はぁ? あなたこそ、いきなり現れて一体なんなんです? あ、もしかして先輩の事付けてたとかですか?」
痛い痛い。ももっち、頼むつねらないでおかしくなっちゃうー。などと二人のやり取りが怖すぎて現実逃避している俺である。
「そうよ。何か問題ある? この愚図を付けるのにあなたの許可がいるというのかしら?」
うん。君は自然とストーカー宣言しないでね。
二人の視線がぶつかり合いお互い牽制しまくっている、それは俺を中心に炎と氷の世界がぶつかり合っている様に見えた。どっかの海軍大将が戦ってるのかと思ったぜ。
「あ、あの二人とも仲良くしよ? ね?」
「「うるさい」」
俺が仲裁に入ると二人の声が重なり俺はしゅんとしてしまった。
この二人怖すぎます。ていうか謎に息ピッタリなんだよなー。
「あなた、ストーカーしてるとか普通に言ってて恥ずかしくないんですか? 先輩だって迷惑してますよ」
「あら? あなたにそんな事彼が言ったのかしら。そもそもあなたもさっきから彼にくっついてないで早く離れたら?」
二人の激突は更に激しさを増していく次第に俺の体も冷気と熱気に侵されていく、このままでは俺はかの有名なヒーローを超える存在として君臨するかもしれないまだある。
だがこのままでは、ずっと言い合いをしてる二人のせいで、せっかくバスケしに来たのにバスケが出来なくなってしまう。それを見兼ねた俺は博打とも言える案を出したのだ。
「よし。三人でバスケやろう! 桃坂も白浜もそれでいいよな?」
「不本意だけど仕方ないわね」「不本意ってあなたは元々誘われてすらないんですからね! まぁ先輩が言うなら良いですけど」
二人は若干不本意そうだが、俺の提案を承諾してくれた。全く世話のかかる子達だな。
※
そうして俺達は三人で楽しくバスケをやっていたのだが、俺がトイレに行って帰ってくると、謎の大学生三人組に話しかけられていた桃坂と、白浜。
「君達可愛いね。良かったらさ俺らと一緒に遊ばない? 絶対後悔させないからさ」
「えぇ〜? でもぅ〜私達三人でバスケしたいんですよね〜」
「三人? 何々? もう一人居る感じ?」
その謎の大学生はもう一人彼女達に匹敵する美少女が居るのかと辺りをきょろきょろしているが、残念三人目は俺でした。テヘペロ。
「やっと戻って来たわね、このノロ条君」
白浜が声をかけて来た事に反応した謎の大学生達が一斉に俺を見て、ニヤリと笑った。あ、今カチンと来ちゃったぞ。
「いやいや、君達とこれじゃあ釣り合わないでしょ。やっぱり俺らと遊ぼうよ」
カッチーン。もう怒ったぞーお前達皆チョコになっちゃえー。
心の中で謎の大学生達をチョコにして食い殺し、気持ちを宥めていた俺であった。
「そうね、確かに吊り合う吊り合わないで言ったら吊り合わないわね」
ひどい。そこはちょっとは庇ってくれたり、「私の彼を馬鹿にしないでくれるかしら?」くらいな事言ってよ。
「どうしても私達と遊びたいなら、彼にバスケで勝ったら考えてあげなくもないわ」
「え!? まじ? いいの? 言っちゃああれだけど俺、結構上手いよ?」
「構わないわ。東條君もそれで良いわね?」
勝手に俺を使って交渉し始めた白浜が俺の所まで来て、こそっと耳打ちした。
「私達を取られたくなければ実力で守り抜く事ね」
フローラルな香りが鼻腔をくすぐり、尚も悪戯っぽく言い放ったセリフに且つ信頼の眼差しが俺に向けられた。
「あぁ。ここまで言われてやらなきゃ男じゃねーな」
「おっまじでやる気? 俺が勝ったらその子達と遊ばせてもらうからね?」
「いいですよ。その変わり俺が勝ったら、彼女達に近付くのをやめてください」
俺は決め台詞を完璧に決め。彼女達の方をチラッと見ると二人共下を向いていて顔はよく見えなかったが耳元が少し朱に染まっているのが見えた。
後はこいつを倒してしまえば良いだけの話、話なんだが、これまた上手くいきそうにもない。
なぜならアップしてるのを見ただけでも先程自分で宣ってた上手いよという表現が嘘じゃないのが見てとれた。
「げ、あの人上手い系の人じゃん。まじかよ不安になってきた」
「先輩。私、あの人達と遊びたくないです」
桃坂が心配とも不安とも言える顔で俺の袖を引っ張ってくる。
「わかってるよ。まぁみてな、お前をコテンパンにした俺の実力を」
「あなたなら、あんなゴミ虫共楽勝よね?」
なぜかドヤ顔で俺に微笑みかけてくる白浜。君はもう少し自重しろ。
「やるだけやってみるよ」
こうして俺と謎の大学生による二人の美少女を賭けた戦いが始まろうとしていた。
次回
バスケ勝負決着!
そして舞台は夏休みに……空の夏休みはいきなり波乱の様子。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。
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