青春の終わりの始まり
東條空……高校二年生、どこか空虚、周りの顔色伺いがち
桃坂奏……高校一年生、あざとい系小悪魔
東條結花……東條空の妹、コミュ力お化け、ブラコン
前回序盤にバスケ部をクビになった東條空、桃坂奏が今回の件を知るキーマンと思い話を聞き出す事になる。
昼休み。季節は七月夏真っ盛りである。
ここ東京私立光高校に通学している東條空こと私は先程小学校から始め中学、なんならこの光高にはスポーツ推薦で入学をしたバスケをクビにされた。
いきなりクビ宣告とか聞いたことないんだけど、え。俺ホントにクビなの? とゆうか俺一体何したんだ。
考える要素が少なさすぎて思考が浮かばない。
相手の心を読む特殊能力とか芽生えたりしねーかなーとつい思ってしまう。
いや、それなら透視の特殊能力がいいな……。べ、別にエッチな事とか考えてないんだからね。などとさっきから途方も無い事しか考えてない。
いや、まさかあの顧問俺の事が嫌いだからってクビにしたのか!? いや、まさかそんなわけはないよね?
……そんなわけないよね? あまり自信がないので念の為二回言っておく。
流石に部活の一顧問の感情で部員を退部させるのは常識的に考えてあり得ない。
それこそ嫌いなら試合に俺を起用したりしないはずだ。
あまりの出来事にせっかく母親が作ってくれた昼飯も喉を通らず、考える要素が全く無いと言っても過言では無いので碌な思考も浮かばない。
「家族になんて言って話したもんかなー」
実際部活をクビにされた事は隠し通せるものではなく、我が家の父、母は試合があったりすると必ず応援に来てくれているからだ、流石に試合に応援しに来たら息子である俺が居ないのだからその時点で全てが露見されるわけだし、何より他の保護者達から「え、あれ東條さん家のとこでしょ? 息子さん問題起こして退部させられたのになにしに来たのかしら。クスクス」と周りの保護者達に馬鹿にされかねない。
そんな恥晒しの様な真似両親にさせるわけには行かないので、折を見て打ち明けるしか無いか。
「仕方ない。ちょっと行ってくるか」
考えても仕方がないので、俺は昼休みに練習をしてるであろうバスケ部のメンバーに確認をしに行くことにした。
ここ光高校は上から見ると、英語のL型になっている俺が目指している体育館は、二階の中廊下を抜けた体育館棟に位置する。昼休みは皆教室やら中庭やらで友達と仲良く昼飯を嗜んでいるためこの体育館棟に至るまであらゆる人と遭遇する。 俺はその人だかりを抜けながら体育館棟へと足を運ばせているのだが、先程からどうにも何かがおかしい。
そして、その違和感はすぐにわかった。
それは部活の後輩達だ。 特に二階は一年生の階層となるので余計に気になった。
この光高はなぜか、一年生が二階、三年生が一階、二年生が三階と謎の分け方になってる。 理由は、我が校の校長曰く「一年生を間に入れれば三年と二年ともすぐ仲良くなれる」だそうだ。
一年生からしたらいい迷惑である。
友達作りもままならないのにいきなり上級生にサンドイッチされ、どこに行くにも上級生に気を遣わされる。
まるで新入社員の気持ちを高校生の段階で疑似体験しているようだ。
とまぁどうでもいい説明は置いといて、俺は体育館への道中何人かの後輩達にすれ違う。
そしてその全員が同じ反応を取ってきた。それは。全員気まずそうに顔を背けてあたかも俺なんか見てません的な反応をしていたのだ。
……俺ってそんなに影薄いのかしら。
まぁ確かに、俺ってどこにでもいそうな奴だしな。
もしかしたら、今回の件は後輩たちによるものなのか、これは早く確認しにいかなければならないと少し歩みを早めた。
体育館に着くとそこにはバスケ部の副キャプテンである北嶋俊彰。通称サブローがいた。
サブローは低身長のかなり筋肉質な体型でいつもみんなにマスコットにされている、だけどあの小さい背中に試合中何度も救われた事がある。頼れる副キャプテンだ。
「おい。サブロー。ちょっといいか?」
俺が声をかけると、サブローは何食わぬ顔で俺のところへ足を運んできた。
「なんだ? 珍しいなお前が昼練来るなんて」
……あれ? こいつ俺が後藤になにを言われたか知らないのか? 確認も兼ねて俺はサブローに伝えた。
「いや、俺部活クビになっちゃったんだよね。だからその理由がわからなくてサブローに聞きにきたんだけど……」
次の瞬間。 サブローがものすごい剣幕を立て俺の胸ぐらを掴んで壁に思いっきり押しつけてきた。
「おい! それどうゆう事だよ! なんでお前がクビになるってなんなんだよそれ」
普段から怒るような事をしないサブローがこんなに怒り狂ってる姿を初めて見た俺は少し萎縮してしまった。 「あ、いや、待て待て。俺もいきなり言われたから理由もわかんねーんだよ。クビか退学かなんて言われたら退学したくないって普通答えるだろ?」
「 そしたら『ならお前はクビだ以上』だとよ」
「そんなんでお前は納得できんのかよ」
サブローが聞いてきた。
「納得もなにも理由がわからないんだからできるもんもできねーよ」
俺はサブローの腕を引き剥がした。 こいつ、めちゃくちゃ力強いじゃん。思わずちびりそうになったわ。
だが。このやりとりからわかるようにサブローは今回の件を知らなかったとゆうことになる。
やはり、俺の同学年である二年生にはまだ今回の事を話してないのか。
「まぁ俺の方でちょっと情報知ってそうな奴に聞いてみるからお前はとりあえず後輩達にはな んもすんなよな!」
あんなサブローを見てしまった以上釘を刺しておかないとなにをするかわからない。でも、 サブローが俺に起きた出来事であんな風に感情的になってくれて俺は嬉しかった。
中学時代ならそんな感情を抱く事はあり得ないと思う。
俺は中学校時代、友達とゆう存在が居たのは入学しておよそ一ヶ月の間だけだ。そこから先は恐ろしいイジメの日々だった……。無視、悪口は当たり前。なんなら学年が上がる度下級生にまでその情報が更新されていき、俺はある意味学内でも指折りの有名人になっていた。
そのイジメから三年間も耐え抜いた俺の精神力はもはや悟りを開いてる境地に達していると自負している。
……時々思い出して気付くと枕が大洪水。なんだよ、全然悟り開いてないじゃん。
サブローとのやりとりを終え、俺は自分の教室に戻り喉を通らない食事を無理やり微糖のコーヒーで流し込んだ。
「おーい、空、お前昼休みどこ行ってたんだよ、あ、んでさ昨日のテレビ観た? あれ超笑えたよなー」
今声をかけてきたやつはクラスメイトの阿久津将英。通称あっくん。
あっくんはクラスでのお笑いキャラである。クラスの上位カーストに位置しながらもこうやってモブキャラの俺にまで気さくに話しかけてくれる凄くいい奴である。
だが人にはタイミングというものがあるのだよ。今まさに俺は誰にも話しかけられたくないから自分の席で一人で食べていたのに。……まさか、俺が一人になってるのを逆に心配してくれたのか? いや、こいつに限ってそれはないな。たまたまあっくんの目に止まり、たまたま俺が一人で居たというだけの話だ。
「いや、観てないし。それとちょっと用事があってな。あー。悪い今考え事してるから話しかけんな」
「お、おぅなんかタイミング悪かったみたいだな。ごめんごめん」
少し語気が荒くなってしまったが阿久津もそれを聞いて友達の所に戻って行ったのだろう。今は誰かと話してる暇はない。
それに俺はまだ何一つとして状況の把握が出来てない。
こうなったら、あまり使いたくない手ではあるが仕方ない。
そうして俺は、とある人物に一本の連絡を入れる。
……まさかこんなタイミングでこいつの連絡先が役に立つとは思わなかったまぁ連絡先交換の経緯はあれだが。
午後の授業も常からあまり積極的に聞いた事がないのだが今日は更に聞く気にもなれなかった。
(いやぁーほんと何したのかな俺、退部ってよっぽどだよ?)
机に突っ伏したまま考えていたら気が付けば帰りのホームルームも既に終わっていた。……誰も起こしてくれないのね。もぅー皆優しいんだから。♡
放課後になり俺は適当に時間を潰してとある人物を待っていた。
「あ、いたいた! せんぱーい」
どこかふんわりとした可愛さ満点の声で俺を呼ぶ声がする。
振り返るとそこには綺麗なピンク色の髪をした可愛らしい少女がいた。
彼女の名前は、桃坂奏。
桃坂は俺の後輩で女子バスケ部に所属してる。
下級生ながらにして女子バスケ部のエースを任されてる意外ととんでもない奴である。
髪型は肩より少し長いセミロング。
クリッとした大きな目に涙袋に黒子があるのが特徴的でとても可愛らしく。スタイルは運動部とゆうこともあり、キュッと引き締まったウエスト、更に程良く肉付いた太もも、胸部は俺推定によるとCよりのBだと思われる。
端的に言うと。俺の好みのバストサイズである。
性格は、天真爛漫でとにかく明るいそして……あざとい。
俺の事をいつもからかって楽しんでやがる。 だけどこいつのあざとさに隠された小悪魔的計算に気付かない哀れな男どもは幾度となくその術中に嵌り桃坂の手のひらで転がされ、女性不信になるやつまでいる。
だがその容姿とあざとさ故に桃坂の人気はすごいらしく、 我が校に留まらず他校の生徒にもモテまくってると噂で聞いた。
まぁ容姿だけはいいからな。こいつ。
なんで彼女を先程現れた二人より詳しく説明してるかって? そんなの言わなくてもわかるでしょ?
「よぉ、悪いないきなり放課後会えないかなんて連絡して」
「もぉーっ、ほんとですよー先輩から呼び出しなんて初めてだったので驚きましたよ」
なぜか頬をぷくっと膨らませて不貞腐れたように言ってくる。いちいちあざとい。
「てか、君来るの遅くない? 結構待ったんだけど……」
その瞬間桃坂の頬が更に膨れた。 「先輩! デリカシーなさすぎです! 女の子には色々と準備があるんですよ!」
……え、なにこの子まさか。俺に会うのに準備してきたとか可愛すぎるんですけど。
だがしかし待ってほしい。俺はこの女桃坂奏がどうゆう奴かを知っている。
「さいですか。んでほんとはなにしてたの?」
「ほぇ? 友達と話してましたよ?」
ほんとこの女期待を裏切らないよ。しかもほぇ? ってなんだよあざとすぎるだろ。初めて聞いたわそんなこと言う奴。 危うく騙されるところだったぜ。
こいつは俺を弄んで楽しむ悪い性癖がある。男受けする言い回し方、仕草、制服の着こなし方全てが計算されている。俺にとっては恐ろしい奴でしかない。
ーー初めて桃坂と出会ったのは。
うちのバスケ部では一ヶ月に一度男女混合で練習をする日があり、その時の練習メニューが 一対一でその相手が桃坂だったのだ。
俺も当初はバスケ部のエースだったので男女両エースの一対一を見てみたいとなりこの組み合わせになった。
流石に女子相手に負けるわけがないと高を括っていた俺だが見事に足元をすくわれた。
桃坂はあっさりドリブルで俺を抜き去り華麗にゴールを決めたのだ。
あれは、後にも先にも初めて女子にバスケで負けた瞬間だった。
そこから先は俺もプライドが許すまいと意固地になり完膚無きまでに叩きのめした。いやぁー流石に大人気ないと反省もしている。
挙句の果てに桃坂には大号泣されるしほんとに大変だった。
でもね、これが人生とゆうものだよ。
こうして練習が終わった後自主練をしていた俺のところに桃坂が来た。 「先輩、名前教えてください」
「ん、あぁ。俺の名前は東條空だ」 「東條先輩……覚えました。私は桃坂奏です。ももっちって呼んでください」
さっきまでの大号泣は嘘かのようにキャピルンとした感じで俺の名前とちゃっかり自己紹介をしてきた桃坂。
あざとさを忘れない辺りは正に職人技と呼べる。
「いや、呼ばないから。まぁよろしくな、それでなんか用か?」
「あんなにコテンパンに負けたのは初めてです。めっちゃ悔しいです」
桃坂はあからさまに怒ってますポーズをして俺に文句を言ってきた。
「俺だって女子相手にあんな完璧に抜かれたことなかったわ」
これはバスケの会話だから成り立っているが何も知らない人が聞いたら結構エッチな会話じゃね? などとどうでもいい事をつい考えてしまった。
「へぇー、それはちょっと嬉しいかな。先輩の初めて奪っちゃいましたね」
……あざとい。なにがあざといかって最後にそっと唇に人差し指当ててる辺りがもうやばい。
今日一日を通して桃坂を観察していたがこいつあざとさの塊だな。しかも、女子と男子と話してる時顔が全然違うしほんと百面相かよと思ってしまった。
「そんな初めて奪っても嬉しくないだろ?」
「なんですか先輩? 他の初めても奪ってくれってアピールですか? 先輩もさりげなく攻めてくるタイプですねー?」
こいつどうゆう思考回路してんだよ。なんで今の会話でそこまで花咲かせられるの? 頭お花畑とはこのことである。
「そんなこと言ってないわ! んでほんとの用件はなんだ。用がないなら自主練の邪魔だから帰れ」
「むーっ。先輩ちょっと素っ気なさすぎじゃないですかぁ? あ、私これから部活終わった後先輩と一緒に自主練します!」
「ちょ、なんでだよ。普通に嫌だよ」 「いいじゃないですか!! 私もっと上手くなりたいんです。それに〜いいんですか? 私を泣かせたこと色んな人に言い振らしちゃいますよぉ? もちろん内容は改竄して」
こいつを男を誑かせる小悪魔だと思っていたが、考えを改めよう。悪魔だ。
そんな事をされたらまたあの頃に戻ってしまう。そんなのはもううんざりだ。せっかく高校デビューも無事に決めて今のところはクラスでも、目立ちすぎず、尚且つ存在感もちゃんとある普通のモブ男として位置しているのに。全てが水の泡となる。
「待って。ほんとに待って。わかった! わかったから。一緒にやればいいんだろ?」
俺は必死に桃坂の提案を飲んだ。
桃坂も大変お気に召されたのかにこぱーっと笑顔を作り。
「はい! それじゃあよろしくです! 先輩」
「あいよ。但し邪魔だけはするなよな?」
「そんな邪魔なんて〜先輩の練習してるところを観察するくらいですよ?」
はぁー。もういいこいつと話してるとなんかすごく疲れる。
「あ! 先輩LINE教えてください」 「やだ。お前に教えたら悪用されそうだし、それに自主練やるだけなら連絡先とか要らんだろ」
実際今日知り合ったやつにホイホイあげるほど俺の連絡先は安くない。
とゆう本心は隠して本当は悪用されないか怖いだけなんだけどね。
「そうですか。わかりました。まだちょっかいを出す……まだ連絡先を聞くとかは早すぎですよねー」
今こいつちょっかい出すとか言わなかった? ももっち怖すぎ!
「では、明日からお願いしますね〜」
桃坂は手を元気よく手を振りながら帰って行った、ようやく終わったのかと安堵したのも束の間。その帰り道ピロリンと携帯が鳴った。
携帯を開いてみるとそこには。
「先輩の愛するももっちでーす。明日から二人のイチャラブな自主練楽しみにしてますね」
ちょっと誰〜? 俺のプライバシーが知らないところで露見されている。
しかもイチャラブな自主練ってなんだよ。 ちょっと楽しみになっちゃうだろうが。
それからは最初は半信半疑だったがほんとに桃坂は俺と自主練を共にしていた。あんな会話やメッセージではあざとさ全開だが、いざバスケを始めるとさっきまで出していたあざとさは 一切無く。バスケに取り組む桃坂の表情は真剣そのものだった。
俺はバスケをしてる時の桃坂は本当にかっこよくて、一生懸命で、可愛らしい女の子なのだと思った。
これが俺と桃坂のファーストコンタクトである。
「そうか。今日お前を呼んだのは……」
俺が今回の本題を話そうとした時桃坂が会話を遮ってきた。
「先輩の部活の件ですよね」
「やっぱり知ってるのか。今回の件の理由まで知ってるのか?」
今一番重要なのは部活をクビになったことでは無く。どういった経緯でクビになったかだ。
「……はい。知ってます。先輩はそれを私に聞きにきたんですよね?」
どうやら桃坂は今回の件の真相まで知っているようだ。伊達に校内の人気を集めてるだけあって情報が早い。
桃坂を敵に回したら次の日には学内に俺の味方は居なくなりそうだな……
「あぁ。お前なら知ってるかと思って声をかけた。頼む、教えてくれるか?」
桃坂は少しばつが悪いのか手を下でモジモジしながらこちらを窺うように口を開く。
「えっと、流石にここだとあれなので場所変えて話しませんか?」
きっと誰かに聞かれるかも知れないと勘繰りをいれて気を遣ってくれたのだろう。
「そうだな。ちょっと公園にでも寄るか」
俺も桃坂の提案を受け入れ二人で公園に行くことにした。
公園に向かう道中桃坂は意外にも口を開かず俺から近すぎず遠からずの距離を保ってついてきている。
しかしあれだな、桃坂のやつ素でやっているならその歩き方可愛すぎるんだが。不安そうな顔をして置いて行かれまいと後ろをてくてくついてきている。何故か本能的に守ってあげたくなってしまうんだろうなと一人で感慨に耽ってた。
二人でそのままの距離を保ったまま校門を抜け目の前にある大きな公園に入り、ちょうど東屋のような休憩スペースがあったのでここで話そうと促した。
「ここでいいか?」
「……はい」
思いの外桃坂は元気がない。今回の件は桃坂もそれなりに思う所があるのかも知れない。
「ちょっと待ってろ」
俺は自分の緊張をほぐすのと桃坂にも協力をしてもらったせめての賞与を渡すべく自販機に向かった。
そういえば女の子って何飲むんだろ? タピオカ? いや、自販機にはねーな。やべーどうしようこれで変な物買ってきたら「あー……ありがとうございます……」みたいな謎の空気出そうだし、こうゆう経験無いからほんとわかんない。とりあえず紅茶でも買っとけばいいよね?
「ほれ。紅茶でいいか?」
「え? あ、ありがとうございます。いくらでしたか?」
「いや、いい。協力してもらってるんだしせめてもの報酬だと思ってくれ」
鞄から財布を取り出そうとする桃坂を俺は首を横に振り断りを入れた。渋々だったが桃坂も受け入れ財布を鞄に戻した。
案外しっかりしてんだなーとまた新たな桃坂の一面を見れた気がした。
やはり桃坂は元気が無いのか普段ならそこで「なんですか? これで私のポイント稼いでるつもりですか? 紅茶くらいで私のポイントは上がりませんよ?」とか言ってあざとくからかってくるはずなのに。
これは早く桃坂もこの件から解放してあげなければならないと俺はすぐに話を進める事にした。
「桃坂聞いていいか? 今回の件どうして俺がクビになるに至るまでになったかその理由を」
「わかりました。それは……」
桃坂の話によるとどうやら今回の件は同じ男子バスケ部だった田中響が事の発端だとゆう。
それは以前六月頃俺は怪我をしてコートから外れていた期間があった。
うちの部活ではそれなりにスタメン争いが激しくいくらエースといえど復帰してすぐにスタメンに戻されるほど甘いものではなかった。
怪我から復帰した俺は、かなり真剣に遅れを取り戻そうと躍起になって部活に励んだ。するとどうだろう遅れを取り戻すはずが何も遅れを感じなかった。
一見するとまるで俺がすごいかのように聞こえるが全く違うのだ。彼等は、俺が二週間ほどコートから外れたあの頃と何一つ成長していなかったのだ。
理由は明白であった。彼等は顧問の後藤が居ない時皆んなで仲良く、楽しくの部活をしているからだ。誰一人として一番上手くなろうと、大会で良い成績を残すべく躍起になって部活に励んでる人はいなかった。
俺はどうにも昔からその手の和気藹々としたものが苦手であった。
「ったく……なんも変わんねーな」
俺が呆れとも、嘆きにも似た俺の独り言を発したのが全ての決め手となったようだ。
そこにたまたま田中響が俺の後ろに居てたまたま自分に俺の独り言が発せられたと勘違いをしてしまったらしい。
田中響は元々俺に憧れを強く抱いてくれた傾向があった。よくプレーを真似していたり、俺に教えを乞うてきたからだ。だから余計に心に来てしまったのだろう。
そして田中響は俺に見放されたと思い顧問である後藤に話をしに行ったらしい。
後藤はその話を聞いて下級生である一年生を全員呼び出した。
そこで後藤は一年生にこう問いかけたらしい。
「東條の嫌なところ。このニヶ月余り一緒にいてどう思ったか全員答えてくれ」
後藤の問いかけに 一年生は皆怒られて怖かった。話しかけづらかったなどと答えたらしい。
それもそのはずだ俺は普段から冷めた態度をとっていたし、フレンドリーとは無縁の人間だ、だから一年生から怖い存在として認知されていてバスケ部のキャプテンである田口瀬名からこう頼まれていた。
「一年が俺の言う事聞いてくれないから変わりにお前が一年を怒ってくれないか? 一年はお前の事怖いって言ってるから多分言う事聞いてくれると思うんだよね」
俺も最初は渋々だったが、他ならぬキャプテンの頼みとなれば致し方ない。きっと彼なりにチームの事を考えた結果なのだろうと俺もその怒り役を引き受けた。
それらが遠因になり、一年生からしたら俺は更に怖い存在となったのだろう。
そして後藤はそれらの話を聞き結論を出した。
「わかった。なら東條はクビにする。チームの雰囲気を乱すやつはチームには必要ないからな」
こうして後藤は俺にクビ宣告を告げるに至ったらしい。理由を話さなかったのはそれを話せば俺が一年生に何かしでかすんじゃないかと懸念したからであろう。
「なんだよそれ。結局は皆で仲良く楽しくやりましょうって感じか」
桃坂から話を聞いて、俺は心にあったモヤモヤが晴れた気がした。結局は俺が貧乏くじを引かされただけだったとゆうことになる。
それに俺は少し勘違いをしていた、チームのエースが誰よりも真剣に取り組んでいれば皆もそれに釣られて俺に負けじと頑張ってくれるものだとばかり思っていた。だが、現実はこうだ。
俺は最初からチームで孤立していたのだ。
「先輩、大丈夫ですか?」
俺が余りにも呆気に取られていたせいか桃坂は心配するような顔で窺ってきた。
「あぁ。大丈夫だ、ありがとな。お前のおかげでバスケ部への未練もなくなったわ」
そう告げながら俺は昔の事を振り返っていた。
つい昔の事を忘れそうになる。言わなくても伝わる。伝えられなくても分かり合える。そんな事絶対に有り得ない幻想だとわかっているのに。そこに存在せず触れる事すら出来ないから幻だというのに、なのに、俺はどこかでその幻に触れた気でいたのだ。
きっと漫画や小説の主人公ならその様な関係性があったかもしれない。
だけど現実はこうも残酷で淡い希望さえも持たせてはくれないのだ。
俺は過去のトラウマからどこか人を信用する事に恐怖を抱き、中学校から解放された今では、みんなが話してるのをただひたすら相槌を入れ、皆が笑えば一緒に笑ってどこか空虚で形だけの友達とゆう関係を築いていたのだ。
そんな上辺だけの付き合いを俺がこの世で一番憎み恐れている関係を、俺自身が過去のトラウマを克服できず踏み出すことができないのだ。嘘やその場凌ぎの曖昧な態度で周囲を欺き、皆の顔色を窺って。
……本当の大嘘つきは俺だった。
俺は改めて自分の考えの甘さを実感し、もう二度と失敗しないように深く決意をして、心を奥底へと沈めた。
誰も俺を必要としてなく。俺も誰も必要としない。今居る環境が変わったからといって何も変わる事がない。
そんな当たり前のことが今になってようやく分かった気がした。
「私は……納得できません」
俺が決意を固めた矢先に桃坂が唐突に言い出したのだ。
「私は先輩ともっとバスケがしたかった。もっと色んな事教わりたかった。もっと先輩の事が知りたかった」
桃坂はずっと我慢していたのか手をグッと握りながら自分の想いを俺に告げてくれた。
「まぁあれだ。別に部活クビになってもバスケはできるしなんなら一緒に練習だって付き合ってやれるぞ」
「それじゃダメなんです! それじゃ嫌なんです! あの体育館であの時間に先輩と一緒に練習してる時が一番楽しいんです。一番好きだったんです……」
桃坂の突然の告白に俺は正直驚きを隠せなかった。
「お前……そんなに俺との自主練を楽しみにしてくれていたのか」
……知らなかった。確かに最初は面倒だなと思っていたし、桃坂に教えるのがメインとなり自分の練習が出来ずにもいた、だけど桃坂は俺が教えた事を全力でやり、教えた事ができた時の達成感は俺も桃坂と同様嬉しかった。
いつしか俺にとってもあの時間は特別な物になっていたのかも知れない。 「私は先輩と自主練するのが楽しみで毎日ワクワクしてました。今日は何を教えてもらえるかなーとか今日も沢山褒めて欲しいなーとか。だけどもうそれもできなくなっちゃいましたね」
桃坂は俺に気を遣って無理に笑っているがその目元は夕陽に反射してキラキラと光り輝いてた。
こんな知り合って数ヶ月だというのに、こんな俺に対してここまで思ってくれた人が過去居ただろうか。
だがこの状況で俺が何をすべきか何をすれば桃坂の想いに報いる事が出来るのか俺の手持ちの経験則では少々手持ち無沙汰である。
だから俺はなるべく気持ちを込めて俺にできる精一杯の気持ちを告げるべく口を動かす。
「桃坂、これからは部活の先輩後輩ではなくなるが。それでも俺を先輩として慕ってくれるか?」
今の俺にはこんな事くらいしか言えない。本当に情けない奴だと自分自身で呆れてしまう。
桃坂の想いを信じたいだけどそうはできない自分が心の中に居る。
「当たり前じゃないですか! 先輩に関わるなって言われても関わり続けます」
桃坂はより一層真剣に俺を見つめて伝えてくれた。
ヒグラシの鳴き声が響く公園だが俺には今その鳴き声が耳に入ってくることはなく、ただ桃坂のその言葉だけが俺の耳に残りぐるぐると何度も繰り返される。
「どうしてそこまで関わろうとするんだ? 関わるなって言われたら普通嫌われてるとか思って関わるのやめるだろ?」
至極当然の事を俺は桃坂に告げた。
普通なら拒否されればそこで関係は終わるはずなのだが、桃坂の思いを、感情を俺は知りたくて桃坂に問いかけた。
「確かにそうかもですけど、けど、それって自分勝手じゃないですか?」
「自分勝手?」
「はい。だってその人は関わらないでくれと言ってるけど言われた方の気持ちは考えないんですか?」
桃坂の言葉は驚くべき事に俺の盲点を突いてきたのだ、確かにそんな事考えた事なかった。関わりを持つ事を拒絶されたから関わりを断つ。それが自然だと思っていた。
俺は更に桃坂の言葉に興味が湧き話を続ける。
「いや、そもそもそいつに何か原因があるからそうなっているわけであってだな」
「なら話し合って直せば良いじゃないですか」
「話し合ってそいつに合わせてそいつと関係を持続させてそんなの偽りの関係だし、そもそもそれに何の意味がある?」
自分の事を棚に上げてよくこんな言葉をペラペラ喋れるなと自分に呆れてくる。
だけど相手から拒絶されていてその関係を修復するのにそいつの望む対応をしてその関係を継続する事に果たして意味はあるのだろうか。
「先輩の言う通りです。ですけど、それが正解だと私は思いません」
いまいち桃坂の言ってる事の道理がわからない。
「それで関係を断ってしまうのは所詮その程度の関係とゆう事ですよ。その人に合わせてまでその人との関係を継続させるって別に私は悪い事だとは思いません。要は受け方を変えるんです」
尚も桃坂は話を続けるが俺は理解が出来ずに腑抜けた顔をしていたに違いない。
「まずはその人と関係を保つ為に合わせるのではなく、その人と関係を保ちたいから合わせるんです。お互いの欲求をぶつけ合ったらそれこそ支離滅裂ですよ」
桃坂が言いたいことがやっとわかってきた気がする。
確かにそんなお互いの欲求をぶつけ合ったらその日の晩ご飯、俺はハンバーグが食べたいのに相手は魚が食べたくて魚を出してきたそれで喧嘩するなどと大袈裟ではあるがそんな感じだろう。
「自分が関わり続けたいと思うその人の為ならしょうがないなーとか色々折り合いをつけて妥協できるはずです」
「妥協して関係保ってそれは幸せなのか?」
果たしてその妥協の先に俺が求めてるものがあるのか、その先には答えは無さそうだ。だけど次の桃坂の言葉で俺は心をざわつかさせられる。
「好きな人の為なら私は妥協しても幸せですよ? それに好きな人の為ならそれは多分妥協した事にも気付かないと思います」
好きな人の為か……本当に人の事を好きになった試しがないからなんとも言えないが、桃坂の言葉に納得させられる。
「なら、お前はなんで俺と関わり続けたいと思ってくれているんだ?」
先程からの桃坂の答えに俺は疑問を隠せずにいた。こんな二ヶ月余りの付き合いしかないのにどうしてここまで俺と関わり続けたいと思ってくれているのかを。
「私にとって先輩は『特別』な存在なんです」
『特別』その言葉は正に俺が求め探していたものだった。
誰かの特別になりたい、誰かを特別に想いたい、そしてお互いがお互いの事を完全に理解し合えてそこに嘘などが無い関係性それが俺が中学校の頃から望み続けたものだ。
だけどそれは叶うわけのない幻想だと知り、いつしか希望は捨てていた。
「特別ってどういう事だ?」
「先輩、友達居ないですよね?」
出し抜けにそんな事を言われてしまった。
俺は中学校の頃から高校デビューをする事を常にイメージしていた、あの三年間必死に毎日イメトレして鏡で何度も練習もした俺の演技がまさかバレていたのか?
「な、何を言ってるんだ。クラスの奴らやバスケ部の連中だって皆友達だぞ」
「それは……クラスメイトやチームメイトって言うんですよね」
やはりバレているのか。桃坂はかなり鋭いと見える。
「私、先輩を初めて見た時から気になってました。確かにかなり高度に擬態してましたし、実際気付いたのは私くらいじゃないですか?」
擬態って……俺はなんかの動物ですかね。せめて、もうちょっと違う言い方できないかなー? 演技とかあったんじゃないかな?
「皆と話してる時もしっかり笑ったりしてるけどどこか空虚とゆうかその場に居るけど心有らずみたいな?」
……完全にバレてる。
俺の中学を含めると、四年目になる俺のこの完璧だと思っていたモブキャラとしてのキャラ設定がこの二ヶ月余りの付き合いの桃坂に完全に見抜かれていたのであった。
「……なんでわかったんだ?」
俺に落ち度はなかったはずだがきっと俺の気付かないところでボロが出ていたのかもしれない、更なる高みに行くために桃坂の見抜いた物を俺は知りたかった。……なんだよその高み。上り詰めても全然嬉しくないんだが。
「私、こんな性格ですから色んな人と話す事が多いんですけど、その人達が思ってる事とか解っちゃうんですよね。あ、今私に好意を抱いてるなとか自分の事アピールしてるなとか、そうゆう人間観察? が得意なんですよね」
桃坂くらい人気のある者ならば、必然と自分に抱かれてる好意から身を守る術を熟知しているはずだ、まずその為にその人の思考を読み取り動作目の動きなどから解析して、行動に移しているのだろう。
「それに、多分先輩と似てるんですよね。私もどこか他人事? みたいな周りの人と話してても自分のキャラを演じていて、そこにいるのは私ではなく私が演じているキャラクターが居るんですよね」
周りがその人のキャラを設定し、そのキャラを演じていくうちに周囲はそのキャラクターをそいつ本人だと認識し、常にそのキャラを演じなければならないとそうでなければ周りと合わせられない、だけどそれは本当の自分ではなく、どこかずれている。
自分らしく生きたい、その自分とは何かすらわからない、自分でそう思っても誰かが定めた自分なのかもしれない。
本当の自分なんているのだろうか。
「だから先輩なら本当のありのままの私を、誰かに定められた私ではなく、私自身を曝け出せるんじゃないかと思ったんです」
桃坂もきっと自分の違和感に気付いて居たのだろう。本当にこれでいいのかと、それが本当に正しいのかと、だからそれを正しく導く答えを欲して桃坂は桃坂なりに足掻いていたのだろう。
「だから、これからもよろしくお願いしますね。先輩」
「ああ。よろしく頼む。それと、その、なんだ、今日は色々とありがとな。正直お前のおかげで引きずらなくて済みそうだ。お前はこれからも頑張ってくれ」
俺は少し気恥ずかしかったが感謝の念はしっかりと伝えようと桃坂に告げた。
桃坂を最寄り駅まで送り、俺は自転車に跨り自宅へと帰宅しようと自転車を漕ぎ始めた、先程まで明るかった空が少し暗くなり空を仰ぐと辺りは黄昏時となっていた。
「ただいまー」
「あ、空兄おかえりー」
今俺を迎えてくれたのは妹の東條結花だ。
結花は俺の三つ年下の妹で俺とは正反対の誰とでも仲良くなれるコミュ力お化けである。それに家事も母親の手伝いを良くしていて、両親が出かけた際には俺のお世話をしてくれる本当によく出来た妹だ。
……俺だって一人の時はちゃんと家事してるんだからね! カップラーメンとか作れるし! うん。それは家事には含まれないよね。
「今日早かったね、部活は?」
いきなり痛いところを突かれた我が妹ながら兄の帰宅時間を把握してるとはなかなかやるなこのブラコンめ。
「あー、うん、ちょっと色々あってな後で話すわ」
家族一人一人に話していては効率が悪いし晩飯の時にでも皆に伝えるとしよう。……父はなんてゆうかなー怖いなー怖いなー。
「え? あ、うんわかった」
結花もいつもと違う俺に気付いたのか素直に受け入れて更に追求することはしてこなかった。
俺は自分の部屋に入り今日の桃坂の言葉を思い返していた。
好きな人の為なら妥協した事にすら気付かないそれは偽りでもなく真実だと桃坂は言っていた。
自分自身もそれに気付かないならそれはきっと真実なのだろう。
だがそれと同時に人を好きになるのはどうすれば好きという定義が通るのか一体何を持ってその人を好きになるのかわからない。
「二人ともーご飯できたよー」
母の声が聞こえきてたので、俺は今日の出来事を家族に話す覚悟を決めて部屋を出た。
「そういえばさー」
いつも通り我が家の円満な食事の時間、いつも結花が家族皆に話を振ってこの時間は成り立っている。
……やばい。凄く言い出しづらい。
いきなり部活クビになっちゃったテヘペロなんて言っても父にぶっ飛ばされそうだし、どうしたものか。
「あ、空兄そういえば皆に話あるんでしょ?」
結花が気を遣ってくれたのか俺に話を振ってくれたが、まだ俺の心の準備が出来ていない。もうちょっと後でも良かったんだよ? 我が妹よ。
「話し? なんだ言ってみろ」
「空から改まって話しってなになに? やっと彼女が出来たとか?」
父も母も興味を持ったのかグイグイ聞いてくる。母に至っては全く別路線の話を期待していて余計に話しづらい。
「あ、いやーなんていうかね、その部活の事なんだけど」
家族の反応が予想出来なくて思うように言葉が出てこない、ほんとなんでこういうの変に緊張するんだろ……。
「なんだ。勿体ぶって早く言ってみなさい」
「部活の話? 何? マネージャーの子と付き合っちゃった?」
「空兄、どうしたの? いつにも増して目付き悪いよ?」
父はだんだんイライラとしてきたのか話を急かしてくる、母に関してはまだ俺の恋愛事情だと思い違いをしてる。ほんと話し出しづれーな、妹に関しては、うん。只の悪口だね。
これ以上先延ばしにしてもダメな雰囲気なので俺はありのままの真実を告げた。
「部活クビになりました!」
ほらね。皆シーンとなるでしょ? わかってたよこうなるの、そしてここから先は。
「どうゆう事かちゃんと説明しなさい」
父はかなりご立腹のご様子で俺に説明を求めてきた。
俺は今日の出来事そして、桃坂からの情報を整理して家族に伝えた。
「よし。空明日俺が一緒に学校に行ってやる、顧問の先生とちゃんと話し合おう」
父の気持ちは素直に嬉しいが、俺自身がもうバスケ部へ戻りたいという意志がないこともハッキリ伝えるべくこう返した。
「いや、いいんだ。もうバスケ部には戻らない」
俺がチームで孤立していた事や俺と彼等では志が違うことも伝えた。
「バスケはどうするつもりだ、まさかこんな形で今まであんなに頑張っていたのに辞めてしまうのか?」
「バスケは続けるつもりだよ。部活動としては終わりだけど、クラブチームに入ればバスケはできるし大会にだって出られるからさ」
「わかった。正直納得はできないが、お前がまだバスケを続ける意志があるなら俺はそれで良いと思う」
それは余りにも意外だった、俺の父は元々体育会系出身で礼儀やマナーにも厳しく、何かとよく怒られていた。
バスケに関しても素人ながら色々と勉強をしてアドバイスをくれるなり協力的だが、毎日練習しろだの練習は一人でするものだと口うるさく言われていた。
俺は元々一人で練習をしていたし、バスケの自主練はもう毎日の日課になるほど定着している。いや、これは父親に一人で練習しろって言われてるから一人でしてるだけだからね? 別に一緒に練習してくれる友達が居なかった訳じゃないからね!
父からは許しが出たものの次は母の方だ、ちらりと母の方を見やると。
……大号泣していた。
「空ー。あんたにはきっといつか良いこと起きるから、あんたばっかり辛い目に遭って。だから早く彼女の一人でも作りなさい」
結論は母はバスケ部をクビになった事より俺の彼女や色恋沙汰の心配をしているようであった。……母よそういう時はもうちょい息子の心境を考えてくれ。
そして妹の方を見やると。
ブチギレでした。
「は? 意味わかんない。なんで空兄がクビになるわけ? 絶対おかしいじゃん。空兄がむしろそんなとこ辞めてくれて私的には良かったよ」
結花も納得はいってないがバスケ部を辞めたことに関しては賛成してくれた。
「だからさ、その、今まで応援しに来てくれたりしてありがとうね。これからは別の場所で頑張るからさ」
わざわざ大会がある度に仕事を休んで応援に来てくれた両親、友達とも付き合いがあるはずの結花も毎回必ず来てくれていた。これだけは皆に感謝の気持ちを素直に告げる事にした。
「空、いつからクラブチームに行くつもりだ?」
「んー。そうだな、今は少し休みたいかな、色々と整理したいし」
「それもそうだな、お前のタイミングでまた始めればいいさ」
こうして我が家のプチ家族会議が幕を閉じたのであった。
次回新しいヒロイン登場。かなりの美少女なんだが彼女は実は……。
東條空の新たな青春ページが捲られる。
次回もお楽しみにしていただけると幸いです。
皆様どうかよろしくお願いします