序章
拙い文章ですが楽しんでいただけると幸いです。
「すまん」
降りしきる雨の中、男は血に濡れた着物を身に着け刀を右手に握り締める。その目線は自分の目の前で横たわる人影に向けられている。
謝る男の声に対し、横たわる人影は絞り出すような声で答える。
「仕方ないよ。君と僕ではあまりに違い過ぎた、」
「だが!それでも!こんな結末は無いだろうが!」
「あまり怒鳴らないでくれないか?傷に響くんだ、」
男はハッと我に返り、泣き出しそうな声色で倒れた人影に語りかける。
「すまん」
倒れた人影は死の匂いを漂わせながらも凛とした透き通るような声で男に話しかける。
「消えゆく僕のことはもう、いいんだ。それよりもこれからの世界を生きていく君にお願いがあるんだ」
「どんな願い事だ言ってみろ、必ず俺が叶えてやる」
刀を握りしめ目と目をあわせながら話す男に、消えゆくものは語りかける。
「太陽を、希望の光を決して曇らせないでくれ。これが消えゆく僕の最後の願いだ、頼んだ、よ、、」
「わかった。更待夜更が消えゆく友に誓おう、決して太陽を曇らせはしないと!」
横たわる人影は微笑むと最後の言葉を紡ぐ。
「ありがとう、ぼくの最愛の友よ」
最後の言葉を紡ぎ終わると男は息を引き取った。
「おいっ、逝くな!逝かないでくれぇ!」
最後の言葉を紡いだ男の傍らで俺は膝をついた。
「と、まぁこれが俺の唯一の友だったやつの最後の話だ。この話はあまり人に聞かせるような話じゃないだろ?なんたって酒がまずくなる。それに泣き出すやつも多いしな」
夜更が居るのは高架下の小さな焼き鳥屋であった。隣に座るのはスーツを着たサラリーマンのような三十歳程の男。
「なるほど確かに酒の席で話すような内容ではないでしょう」
男はやれやれといったように首を横に振り、手に持った日本酒をぐいっと煽る。
「さっきの話はよう、今から何百年も前の平安時代の話さ。こんな話は簡単に忘れられちまう、だから誰かに語り継いで欲しい。俺が死んじまったら誰がこの話を語り継ぐ?そんなやつ居ねぇだろうが」
そんな話を聞いて心底面倒くさそう男が問いかける。
「私が語り継げと?」
その露骨な態度に苦笑しながらも夜更はゆるりと首を振る
「いや、記憶の片隅に留めておいてくれるだけで構わねぇ」
「留めておく位なら別に構いませんよ」
「しかし、こんな場所まで嗅ぎつけるとは陰陽寮の連中はスゲェな」
その言葉を聞くと男は自慢げに話し出す。
「簡単ですよ、現代日本における自衛隊、警察に次ぐ権力を持つ我らが陰陽寮の数の力を持ってすれば、ね」
現代の陰陽寮も平安時代のそれと陰陽術を悪用する人間や妖怪等を取り締まるという役割に変わりはない。
「んで、今回はなんの用だ?化け物退治か?それともモグリの陰陽師でも出てきたか?」
男は笑いながら問いかける。いつも通りの依頼であろうと、、、
「いえ、違います。あなたの奥方が目覚めました」
「は?!」
彼に物語はここから急加速する。
読んでいただきありがとうございます。前作に引き続き妖怪物ですが楽しんでもらえると嬉しいです。
続きは来週中には書き上げたいと思っています。評価、ブックマーク、感想等をもらえるとモチベに直結するのでお願いします。
では、また。