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無双と美少女

 冒険者として、スライム狩りを続けること1か月。冒険者による乱獲が原因でモズイ平原にはスライムがいなくなってしまった。全員の装備も更新し、生活にも余裕ができ、受付嬢のシーナさんへのナンパも全敗。非日常が日常になってきて、冒険にも慣れ始めた頃だ。そろそろ動物だけでなく、魔物も狩ってみようという雰囲気になってきた時、ようやく俺は気が付いた。


 この世界には、レベルやスキルがないということに! 異世界ものあるあるの無双は、この世界ではしにくいようにできているのだ。


「どうせなら無双ハーレムをしたかったー!!!」


 などと部屋で一人ぼやいていると、突然俺の前にゲートが降ってきて、俺のえりをつかんで思いっきり揺らされた。


「おい! シャラ! 創造神様の魔法を使うのだ!」


「な、なんだよいきなり」


「シャラが創造神様の魔法を使わないせいで創造神様が嘆いておるのだ! この1か月魔法も使ってくれないし、会いに来てもくれない。忘れられたのかも・・・と言っておるのだ!」


「全然似てない声真似ありがとう。魔法を使えって言ったって、創造神様の魔法どこまでできるのかわからないから使えないんだよ。特にスライムとか純粋な物理攻撃効かないし」


「わかったのだ! じゃあ、試し打ちしてみるのだ!」


 そう言ってゲートは俺を引っ張ってギルドまで連れて行った。





「適当にこれでも受けてみるのだ!」


 そう言ってゲートが持ってきたのは、魔物:ウィンドウルフの狩猟依頼だった。


「待て待て待て! そんなの俺たち二人で倒せるわけないだろ!」


 今まで倒してきたのはスライムだけ。さすがに勝てるわけがないなんてことは俺でもわかる。動物と魔物の一番大きな違いは、魔法を使ってくることだ。魔法を使う。これはつまり、神様を信仰する程度の文化力と知力があるということだ。狼だから身体能力は高いだろうし、近接攻撃も遠距離攻撃もできる奴に勝てるわけがない。


「弱気すぎなのだ! 創造神様の加護まで持っているシャラが魔物ごときに負けるわけがないのだ!」


 「このポンコツメスガキ神め! どうせ受付で突き返されるに決まってるだろ」


「いいから我を信じるのだ!」


 そう言ってゲートは受付に依頼書を持っていった。今日の受付嬢は珍しくシーナさんじゃなかった。


「はい。ウィンドウルフの討伐ですね。群れで行動しますし、単体でもそこそこ強い魔物です。腕に自信がない限りはお二人で行くのはお勧めしませんが大丈夫ですか?」


「大丈夫なのだ!」


「かしこまりました。それでは、お二人ともネームプレートを拝見させていただきますね」


「シャラさんにゲートさんですね。それではご検討をお祈りいたします! 行ってらっしゃい!」


「ほら行けたのだ!」


 ゲートはどや顔で近づいてきた。むかついたのでほっぺたを思いっきり伸ばしてやった。


痛い痛い(ひふぁいひふぁい)! 何するのだ(ふぁにふるのだ)! 離せ(ふぁなふぇ)!」


 まあ、依頼受理させてくれるくらいだし俺たちだけでもなんとかなるくらいの強さなんだろう。


無視するな(むひふるな)ー!」


 暴れるゲートから手を離し、スッキリした俺はゲートにウィンドウルフがいるモズイ平原の奥地へとワープさせた。


「おいシャラ! さっきのは痛かったのだ! あとでクレープ1個おごりなのだ!」


「はいはい。と、さっそくいたな」


 目の前には突然の出現に驚いたウィンドウルフが5匹。牙をむいて警戒されている。その間、なぜか足で地面を掘っていた。かまわず俺は、剣を引き抜いた。


「今回はその剣は使わないのだ! 全部魔法だけで片付けるのだ!」


「無茶言うなって」


 ウィンドウルフが一斉に魔法を放つ。掘った土や石が風に乗って勢いよく俺に向かって飛んでくる。風魔法で目つぶしや投石をしてくるのか。こいつら賢い! 俺は思わず目をつぶった。


 すると突然、俺の前方の地面がせり出し、土や石を全て防いだ。


「ワオン!」


 ウィンドウルフが驚いたように鳴いた。


「我はこの世界そのもの。想像力を働かせればなんだってできるのです」


「その声は、創造神様!」


 俺のすぐ隣に創造神様が立っていた。


「あなたには我がついています。好きに想像なさい。さすれば、我が創造してあげましょう」


「はい!」


 俺は地面が槍のように鋭くとがり、ウィンドウルフたちが貫かれる様を想像した。


「ワオーーン!」


 ウィンドウルフたちがいた地面が激しく盛り上がり、腹を貫通し、まるで磔刑たっけいに処すかのように串刺しにした。


「す、すげえ!」


 風景はだいぶ猟奇的な気がするが、とにかく倒すことが出来た。


「そ、創造神様! このようなところにお降りになられて大丈夫なのですか!?」


「ええ、大丈夫です。それにしてもあなたは、世話を焼かせますね。下界に降りたのはこれが初めてですよ」


「わざわざすいません」


 俺は軽く頭を下げた。


「何をしているのだ! 頭が高いのだ! 土下座するのだ土下座!」


 ゲートは土下座しながら俺の足をバシバシと空手チョップした。


「そのままで構いません。それでは、我はこれで帰ります。ゲートしっかりと彼のサポートをしてあげるように」


「は、はい! かしこまりました!」


「あなたも、ゲートがいるのですからたまには天界に遊びに来てくださいね。じゃないと我、寂しさのあまり世界を破壊しちゃうかもしれません」


 創造神様は微笑んだ。


「ごめんなさい! 遊びに行くんでそれだけは勘弁してください!」


「冗談です。それでは」


 そういうと、創造神様は消えてしまった。俺とゲートはウィンドウルフの耳を切り落とし、証拠として持ち帰った。一応地形も戻しておいたし、残ったウィンドウルフは風化するなり食べられるなりするし大丈夫だろ。


「ただいまっと」


 ゲートが開いた門をくぐり、城門の近くにワープする。俺をハメやがった門番、憎きキースに日課となりつつあるグーパンを決め、俺たちはギルドに向かった。すると、ギルドの裏の方で声が聞こえてきた。


「シーナ。辛いのはわかるけどやめとけって。体壊すぞ」


「うっさい。壊れたところで構わないわよ」


 何やら不穏なものを感じた俺は声の方へ向かった。


「大丈夫ですか?」


 人気のないギルドの裏には、ライオンの顔をした巨大な獣人とタバコを吸ったシーナさんがいた。シーナさんは驚いたかのように少し目を見開いた。


「依頼はどうしたの?」


「達成して戻ってきたところですけど、何かあったんですか?」


 シーナさんはため息をついた。


「生きて帰ってきたならいいわ。でも調子に乗っちゃだめ。ウィンドウルフはある程度慣れてきた冒険者が討伐する魔物だし、無事に戻ってこれたのは奇跡と言ってもいい。これからはそんな危ない橋を渡らないで堅実な依頼を受けることね」


「は、はい。すいません」


 いつもそっけないのに今日は口数が多い。もしかして心配してくれてるのか?


「それじゃ私は仕事あるから。二人も心配してたし顔見せてあげなさい」


「はい。わかりました。心配おかけしてすいません」


「それは私よりも二人に言ってあげることね」


 シーナさんは炎魔法でタバコを灰に変え、俺に背を向けて歩き出した。すれ違った時、シーナさんのにおいをいつもより強く感じた。


「良かったじゃないか。お気に入りの冒険者が生きてて」


「な・・・! うっさい! レオは黙ってて!」


 シーナさんはギルドに早足で戻ってしまった。なんか、すごい今生きててよかったって思えた気がする。


「おい、坊主。名前は?」


「シャラだ」


「そうか。俺はレオと言う。まあ、なんだ。シーナは口は悪いが根は良い奴なんだ。嫌いにならないでやってくれ」


 こ、この口ぶり。まさか、シーナさんの彼氏か!? だとしたらこいつとは決着をつけなければなるまい。


「あんたもしかしてシーナさんの彼氏か何かか?」


 レオは一瞬、顔を歪めた。


「そんなんじゃねえよ」


 声を低くしたわけでもなく、さっきと何も変わらない普通の声なのになぜか背筋が凍えた。俺の怯えが伝わったのか、レオは気を取り直すようにポンと俺の肩を叩き言った。


「まあ、何か困ったことがあったら俺を呼べ。俺は基本ソロで冒険してるから、なんかあったら手伝ってやる」


「ああ。ありがとう。それじゃ、俺はこれで」


 俺が帰るとき、レオは手を振ってくれた。さっきのは勘違いだったんだろうか。とりあえず、ギルドに納品してシスとミオナのところに行かないと。


 ギルドに入ると、シスとミオナがいた。


「お兄とゲート生きてる!」


「もう! 心配したのよ! 勝手に依頼受けてどっか行っちゃうなんて何考えてんの!?」


 シスは俺とゲートに飛び掛かって抱き着き、ミオナは涙目で説教をする。


「悪かったって。これからは気を付けるよ」


「ごめんなのだ・・・」


 俺とゲートは二人にひたすら謝り倒し、報酬を受け取って帰った。


「それにしても、ウィンドウルフなんてどうやって倒したの? ウィンドウルフを1対1で倒せれば中堅冒険者って言われる程度には強いのよ」


「ああ。それについてなんだけど、実は俺結構強いらしい」


 俺は今日の事の顛末てんまつを話した。特に、創造神様の魔法の可能性について。


「あの魔法ってそんなことできたのね。私てっきり、おちん・・・(ごにょごにょ)のモニュメント作るだけの魔法かと思ってた」


 ミオナは顔を少し赤らめて言った。


「んなくそ魔法あるかい!」


「お兄すごい。毎日クレープも夢じゃない」


「そうなのだ! 創造神様の魔法はすごいのだ! 創造神様の魔法で毎日クレープを食べまくれるのだ!」


 クレープ同盟を結んでいるシスとゲートはハイタッチした。いつの間にこんなに仲良くなったんだ。


「これを踏まえて、明日からは少しずつ強い魔物を倒していこう」


「オッケー! 張り切っていくわよ!」


「シス、頑張る」


「ゲートのクレープのために頑張るのだ!」


 一人だけ他人任せな奴もいるが、これくらいが俺たちらしい。俺の魔法無双物語がここから始まる! かもしれない。

お察しの通り、ストックが切れました。できるだけ早いペースであげるのでお待ちくだされ。

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