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魔法と美少女

 ちゅんちゅんと鳥がさえずる。気が付けば朝になっていた。結局、昨日はあのまま寝てしまいシスが俺の体の上に乗ったままなのだが・・・あまりにも軽すぎる。ちゃんと食べてるのか?


「・・・ん。お兄、おはよう」


「おはよう。シスちゃん。目覚めのチューは?」


 俺はほおをシスに向けた。


「朝っぱらから何してんのよ!」


 俺のほおに触れたのはシスの柔らかな唇ではなく、ミオナの怒りの鉄拳だった。


「ぐほあ! いってえええ! 何すんだよ! 俺とシスは昨日熱くめでたく、結ばれたんだよ! ちょっとくらい良いじゃねえか!」


「それはあんたの夢に出てきた願望でしょ! ほら、シスもなんか言ってやって!」


 シスは顔を赤く染めてモジモジしていた。


「ま、まだ心の準備ができてない・・・」


 か、可愛すぎかよ・・・。まるで天子。可愛いの化身。創造神様に、可愛さの神としてたてまつるように後で言っとこう。それにしても、ミオナやけに静かだな。正気に戻って! とか言いそうな感じだけど。



「・・・」


 ミオナは絶句し、固まっていた。その姿はまるでルーベンスの聖母被昇天のようだった。窓から差す朝日がミオナを天へといざなっていた。


「はっ。ごめん私、天国行ってた」


「わかるぜ。今のはさすがの俺も召されそうになったぜ」


「シス! 私もほっぺにチューしてほしいなー!」


「やだ」


 顔色一つ変えずにシスは言った。


「ぐはっ・・・。なんで・・・」


 バタリとミオナは倒れこんだ。それをミオナはツンツンと人差し指でつつく。


「ミオナ、死んだ」


「ひどいよ~」


 肩を落としてシクシクと泣くミオナ。実に哀れ。今回ばかりは同情するぜ。


「そうだミオナ。俺たち冒険者になることにしたんだ」


「冒険者!?」


 ミオナはさっきまでの流れが嘘かのように、勢いよく立ち上がった。


「本気なの?」


 結構気軽に発言したつもりなんだが、何やら重大そうだ。明らかに目の色が変わった。異世界なら冒険者なんてメジャーな職業だと思ってたんだが、どうやらここはシリアスにいった方がよさそうだ。


「ああ。本気だ」


「私もお兄と冒険者になる」


「あんたたち、自分がどういう決断してるかわかってるの?」


 ミオナはひどく真剣な表情で俺とシスを見つめた。


「シスは覚悟できてる。この村は魔族との最前線。このままネマシ村で暮らしててもいずれ魔族に殺される」


「それでも、死にに行く必要なんてないじゃない! 私はもう、誰にも死んでほしくない・・・」


 ミオナは座り込んで、うなだれてしまった。


「ジャクトさんとオーカさんが魔族に殺されて恨む気持ちもわかる。だからって、それで仇討だって言って突っ込んで殺されちゃったら、それこそ全部無駄じゃない。何のために二人が命がけで守ったのかわからないじゃない」


「シスもお兄も死なない」


「なんでそんなこと言いきれるのよ!」


 ミオナは、はっとしたように顔をあげ、再びうつむいた。


「ごめんなさい。大声出して。でも、わかって。私たちはただの村人なのよ。冒険者になったところで、犬死するのは目に見えてる」


「でも・・・」


 これじゃらちが明かない。実力を実際に見せた方が早い。異世界転生だし、なんかチート能力くらいあるだろ。


「ミオナ、シス。外にでようぜ。こんなところで議論しても平行線だ。実際に俺の実力を見てもらった方が早い」


「実力って・・・。あんたねえ」


 呆れるようにミオナが言う。少しだけいつものミオナに戻ったようだ。俺たちは家の裏にある修行場に行った。案山子かかしや小さい的があるだけの簡素な修行場だ。


「よっしゃ見てろ! 焼き穿うがち、轟き燃えろ! 爆炎よ跋扈ばっこせよ! 極炎火球弾!」


 俺は両手を的にまっすぐ向け、前が見えなくなるほどの巨大な火球のイメージを脳内で練り上げ、的に向けて発射した。


「えーっと、何やってんの?」


 何も出なかった。


「ひどいゃ・・・」


「お兄。魔法は神様にいっぱいお祈りしないと使えない。シスたちお祈りあんまりしてないから使えない」


 穴があったら入りたい。もうお嫁にいけないょ・・・。異世界転生だし魔法くらい使えると思うじゃん。くそうくそう。創造神様に魔法使えるようにしてくださいって言っとけばよかった。


「安心してください。あなたは魔法を使えますよ」


「え! 創造神様!?」


 気が付けば、あの雲の上の世界にいた。まるでテレポートでもしたかのように風景が一瞬で変わっていた。


「始めに言っておけばよかったですね。この世界で必要なのは特別な文言などではなく、詳細なイメージと信仰心なのです」


「イメージはわかりますけど、信仰心・・・ですか?」


「信仰心というのは、その神への信心深さや恐怖心などです。つまり、人生のどれだけのリソースをその神にささげているのかということです。例えば、一時間祈るよりも二時間祈る方が、多くのリソースを神に差し出していますし、どれだけの感情をこめて祈るかによっても信仰心は変わります」


「なるほど。ってことは、神様のグッズをたくさん購入した方が信仰心が高く、強い魔法が使えるということですか?」


「その考えで問題ありません。例外ではありますが、信者を増やしたり、信者の信仰力を高める行いをすることでも信仰心を奉げたということになりますね。そういう意味では、神の像を作って他の者に販売するという行為が最も効率の良い信仰力の高めかたなのかもしれません」


「なるほど」


 神様っていうのも意外と現金なんだな。


「もしかして神様にも信仰心のノルマとかってあるんですか?」


「ノルマはありませんが、信仰力=力なので神も他の神より強くなろうと必死なのですよ。神の世界では最強神ランキングとかもありますし、まれにですが他の強い神によって殺され、権能を奪われる神もいますから。」


 うーん。そんな神様の裏事情しりたくなかった。神様も世知辛いんだなぁ。


「当たり前ですが、魔法において信仰心と同じくらいイメージも大切ですよ。イメージが明確の方が仕事が簡単に済みますので」


「なるほど。でも、俺は創造神様以外に神様のこと知らないんですけど・・・」


「案ずることはありません。あなたには、我が力を貸してあげましょう」


「本当ですか!?」


「ええ。我の権能は、人や神、物質や世界の創造です」


「すげえ! なんでもできるじゃないですか!」


「言っておきますが人や神の消失は認めませんよ。せっかく創ったのに消すなんて、そんなもったいないことはしたくないので」


「さすがにそこまで行くとチートすぎますもんね」


「ええ。地形を変えたり、隕石降らしたりくらいならお手軽なのでいいですよ。まあ、できるだけ鮮明にイメージしてください。その方がいろいろと楽なので」


「わかりました。ちなみに信仰心のほうは・・・?」


「こうやってたまに話してくれれば免除しましょう。私は最強神ランキングなどに興味はないですし、殺されることもないので」


「やったぜ! 太っ腹ぁ!」


「これくらいお安い御用です。幸多き旅を祈っていますよ」


「はい! 二人を安心させられるほどの大魔法を使ってやりますよ!」


「ええ。楽しみにしています」


 創造神様は笑顔で手を振った。俺は笑顔で手を振り返して青白いゲートをくぐった。すると、神界に行く前と同じ場所と時間に俺はいた。さっすが神界。時間の操作なんてお手の物なのだろう。


「なあに、今のはほんのウォーミングアップだ。いでよ! 偉大なる英雄の証にして、人類の繁栄の象徴よ! さあ、俺の前に姿を現せ!」


 そして、俺は目をつぶりイメージした。天高くそそり立つ自慢の聖剣と、二つの玉を。


「ちょちょちょちょ! なんてもんたててんのよ!」


 目の前には見るものを魅了する、立派な逸物がせせりだっていた。石でできたそれは、大地というパンツには俺は収まらないとでも言いたげなように、力強く天に向かって伸びていた。そしてそれは、挟み込むようにして存在する、石でできた黄金の玉、によって挟まれその剣の偉大さを黄金をもって証明していた。


 それを証明するかのように、ミオナは指で目を覆いつつも隙間からチラチラ見ていたし、シスに関しては顔を真っ赤にして俺の背中に顔をうずめていた。


「見ろ! これが俺の最強魔法だ! この立派な逸物さえあればどんな敵もちょちょいのちょいだぜ!」


「わかった! わかったから! あんたたちが冒険者になるの認めるから、さっさとこれを崩しなさい!」


「いいぜ。でもいいのか? ミオナはこいつをチラチラ見てたし、本当は興味あるんじゃないのか? なんなら、今からでも見せていいんだぜ?」


 俺はズボンに手をかけた。


 バチン!


「サイテー!」


 ミオナは俺を思いっきりビンタして、顔を赤くして帰っていった。


「いってえ! くっそーあの暴力女め!」


 そうぼやいた俺を、シスは凍えるような、という表現では足りないほど冷ややかな目で見た。


「最低セクハラ男。人間のクズ」


 シスはそういって、ミオナについていってしまった。俺は一人ぽつんと残されてしまった。


「調子に乗って魔法を使うんじゃなかった・・・」


 俺の魔法生活は、ささやかな失敗から始まった!

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