第五話:お互いに…。
重い……何かって言うと、先程職員室に行って担任の富永から貰った10冊くらいの教科書と学校指定のジャージ、本って結構重いんだよね。
職員室に割と近い自分の教室に入ると、教室には一人だけいた。昨日にも会った秋川 木乃華がいる。席について天井を見ていたが、俺が入って来ると一瞬目が合うが、彼女は目を背ける。当たり前か……。
俺も気にせずに、教壇の上にある座席表を見て確認し、自分の席に移動する。席は窓際一番前、秋川の隣だった。荷物を机の上に置き、俺も席に着いた。
しばらく経っても誰も来ない。俺もいい加減にぼーっとしてるのが飽きたので、昨日の事を口にした。
颯:「あのさ、秋川…」
俺の声に秋川がビクッと体が反応したのは分かったが、顔は俯いている状態だった。
颯:「そのままでいいから、聞いてくれ」
木乃華:「………」
颯:「その……昨日は、ごめん」
木乃華:「えっ?」
俺が言い終わると同時に、何言ってるの?みたいな感じで見てくる。昨日のこと覚えてる、よな?
颯:「だから…その…俺の事とかさ、……家族の事、心配って言うか、気にしてたのにさ、……なんて言うかわかんないけど、ホントにごめん」
木乃華:「……どうして?キミは悪くないんだよ?親にも聞くなって言われてたのに……、私はキミの気持ちを考えずに、言ったのに……私が悪いんだよ?なんでキミが、謝るの?」
秋川は言ってる途中で泣き出した。
木乃華:「いつもキミは……そうやって、悪くないのに謝って、全部自分のせいにして……なんでそんなに優しいの?颯くん」
昔みたいに木乃華が泣いている。俺も昔のように泣いてる木乃華の頭を撫でた。昔……?
颯:「それでも木乃華は、気にしてたんだろ?だったらそれだけで充分だから」
木乃華:「颯、くん……っ…ずるいよ…」
颯:「ごめんな…木乃華…」
俺は木乃華の頭を撫でながら、自分でも知らずに謝っていた。そしていつの間にか、木乃華も泣きやみ、少しずつ笑顔になっていき、木乃華の頭から手を離した。
木乃華:「やぁ…」
颯:「……大丈夫か?」
木乃華:「え?いや、その……何でもないよ」
木乃華は少しだけ悲しそうな表情をした。どうしたんだ?
颯:「……でもよかった。木乃華が昔みたいに笑ってくれた」
そう言うと木乃華は少しだけ頬を紅くして、俯いた。
俺がさっきから言ってる「昔」何なんだ?昔のことはあまり覚えてない、でも「秋川 木乃華」という人物に干渉すると自然に口から出てくる。
木乃華:「嬉しかったよ。颯くんが話し掛けてきてくれて」
颯:「昨日ずっと考えてたんだ。酷いことしたなって」
木乃華:「そんなことない。私の方こそ、ごめんなさい……」
木乃華の謝罪に驚いた。だって木乃華は心配して言ってくれたのに謝る必要はないだろ。
二人で喋っていたらクラスの人達が次々と入ってきた。
俺もそれと同時に体制を前に、視線を窓の外に移した。
しばらくすると担任の富永が入ってきた。
富永:「は〜いみんな席に着いて、ほらそこ喋ってないで早く着く」
それから富永は午前中は授業があること、午後には……部活の説明とかがあるって事で今日の日程の話をした。
富永:「え〜っと、次は……」
次のことを話そうとしてると、俺と視線が合い、イヤな笑みを浮かべた。
富永:「そうね〜次は……、昨日いなかった人に、自己紹介してもらおうかしら?天宮くん?」
面倒ながらも俺は一応席から立ち上がり、自己紹介をした。簡単にね
颯:「名前は……教壇に書いてあります。以上」
それだけを言い、席に座り視線を外に移した。
富永:「……え〜っと、彼は天宮 颯君です。みんな仲良くしましょう?じゃあ、授業の準備でもしましょうか」
富永はそれだけを言い残して教室から出て行き、それからすぐに授業が始まった。
* * *
午前中の授業が全て終り、昼休憩になった。
確か午後は、……なんか面倒くさい事があったのは覚えてるんだが、忘れた。
周りでは昼飯をグループになって食べる人達、独りで食べる人、他のクラスで食べる人、様々だ。俺はというと、帰る準備中です。
木乃華:「颯くん?なに、してるの?」
隣の席の秋川が話しかけてきた。どうやら秋川はグループ同士で食べる人だ。当たり前か、後ろの席の……いち、いちせ?……女子と食べている。
颯:「帰る、準備?」
木乃華:「え?でも、まだ授業あるよ?」
颯:「ちょっと、用事があってな」
勿論嘘、用事なんかあるが訳ない。しいて言えば、食材が確か切れかかっていたからその買い足しぐらいかな。
木乃華:「そうなんだ……あ!紹介するね、この子は一ノ瀬 玲奈ちゃん」
一ノ瀬:「えっ!あっ!い、一ノ瀬 玲奈です!」
一ノ瀬と呼ばれた少女は秋川の紹介で、慌てて立ち上がり自己紹介をした。
颯:「……天宮です」
俺も少しだけ頭を下げ、名字だけ名乗った。返さないの悪いしね。
木乃華:「玲奈ちゃん、颯くんは人見知りするから」
一ノ瀬:「そうなの?でもちょっとわかるかも」
一ノ瀬はそう言って俺の顔を覗いてくるから、俺もすかさず顔を逸らした。
颯:「別に……そろそろ帰る」
木乃華:「うん…また明日ね」
一ノ瀬:「もうちょっと喋りたかったのに……ばいばい」
二人から別れの言葉を貰い、教室から出た。