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第一話:最悪の久しぶり

SIDE 颯




最悪だ。今日は入学式だって言うのに、嫌な夢を見た。


俺が殺した人たちの「最期」の夢



体を起こし、布団から出る。いつもの動作なのに体がやたら重い。



それから自分の部屋を出ようとするが、机の上の物に視線がいく。





「一般乗用車と大型トラック正面衝突!!家族三人と運転手一人死亡」


「女子中学生徒、車に跳ねられ死亡!」


「中学生男児、家で首を吊る!?」





全部、忘れちゃいけない事の新聞の記事だ。図書館で昔の新聞を見させてもらい、コピーしてファイルに挟んだあと、絶対に忘れられない事だから、机のいつも見える場所に置いてある。



関係のない人には、すぐに忘れてしまうただの事故。


だけど、身近な人には、忘れたくても絶対に記憶に残ってしまう、大きな事故。



この差は知り合いか無関係、ただそれだけなのに、身近な人はこんなに苦しむんだ。




颯:「……ごめん。……みんな」



独り言を新聞のスクラップに言うと部屋を出た。


部屋を出て着替えたまではいいが、気付くと時間が8時40分、確か入学式の始まる時間が8時30分………過ぎてるな。




颯:「…………」




……よくないな、早く行ったほうが最善だ。それから、財布と鞄を持って外に出た。





でも時間が過ぎてるからって別に急いでいくつもりは無い、走ったって疲れるだけだし、何より遅刻は決まっていること、今から急いでいったって、事実は変わりやしないんだから。




自分の家と学校の距離は、大体1.5kmと結構近い、このペースで行けばで大体25分くらいで着く。





暫く歩いていると、あるものが視界に入り、立ち止まる。


春の風物、桜が……。



ただ名前が同じだけなのに、とても大事だった一人の少女を連想させる。



颯:「桜…か……」






急ごう。これ以上遅れたら、教員に目を付けられて面倒になるしな。





* * *





学校の正門に着いた……は、いいが、どこに行けばいいんだろう?入学式だしやっぱり体育館か?でも、場所が分かんないし……、とりあえず昇降口に行くことにした。






行ってみたら人がいる。誰だろう、教員か?にしては若い。それとも生徒会かなんかの先輩か?いや、もっと大人びてる。ま、どうでもいいか



?:「キミ、天宮君?」



通り過ぎようとしたのに、いきなり声を掛けられ少し驚いた。



颯:「……誰、ですか?」



?:「あ、私キミの担任の富永です。よろしくね?」


どうやら見た目が高校生でも通用するような人が俺の担任らしい。歳いくつだよ?



颯:「……どうも」



富永:「噂通りの子ね、一ついいかしら?」



(………噂通り?)



富永:「あまり溜めない方がいいわよ?もっと気楽にいきましょう!」




……第一印象最悪、俺この教員嫌いっていうか、何考えてるか分からないから苦手だ。



颯:「……善処します」



冨永:「って、話をしてる暇ないよ?入学式!始まってるよ!?」



知っています。そのために来たんですもん。足止めしたのそっちの方だけどね……。



颯:「場所は?」



冨永:「え?ああ!付いて来て」



一応、上履きに履き替え、自分の担任らしい人物について行った。



連れてこられて、案内されたのは、やはり体育館、それのホール。しかもこのホール、ペンキか何かで塗り替えたらしく、嫌な臭いが充満してる。頭が痛い、授業以外じゃ来ないだろうな。



富永:「えっと、キミは二組の出席番号二番だから……入ってステージ前から二列目の左……でいいわ」



簡単な説明だな、ってか俺二組だって今知ったんだけど……それと、なんで出席番号が二番なのに一番左なんだ?………ま、いっか。この教師だし。



颯:「分かりました…」



それから担任と別れ、体育館のドアを開け、中に入った。注目されたのは言うまでもない。





* * *





?:「どうですかな、天宮君は?」



声に驚き、冨永が後ろに振り向くと、見た目老人の人物。



富永:「校長先生!?、こんな所にいていいんですか?」



校長もまた、颯の過去を知っている。



校長:「いやいや、ワシの話なんて、誰も聞きたくないじゃろ?」



富永:「もう、そんなんでよく校長勤まるわね、お爺ちゃん?」



校長:「こらっ!ここでは校長と呼びなさいと言っておるじゃろ」



彼女にとって校長は祖父である。この高校には、教育学校を卒業した後、コネで入ったと言っていいくらいだ。



富永:「分かったわよ、それで何でしょうか?」



校長:「天宮君のことじゃよ」



富永:「……私を…いや、人を信用していませんね」



正直あまりわかっていない、大切な人を失うと言うことが、どういうことなのか。私にはそういう経験無かったから



校長:「じゃろうな、だからこそ、キミを担任にしたんじゃぞ?」



私にとってこれは挑戦だった。天宮君には悪いけど、心に傷をもっている生徒をどうやって扱うのか、一つの勉強でもあった。



富永:「わかっています。……それより校長、時間が」



校長:「おおっと、いかんいかん、それじゃあ頼むぞ、由美子」




それから校長は体育館内へと入っていった。



富永:「自分でも言ってるじゃないの、さ〜て頑張るか〜」



そう言って彼女も校長から少し遅れて体育館に入って行った。





* * *





入学式がやってる最中、体育館に入り、席についたまではいいが、校長らしき教員の話が長くてかなり退屈だ。



颯:「…………」



腕と足を組み、目を瞑って黙想をしていると、右隣の生徒が声を掛けてくる。



生徒:「あの……天宮 颯さん、ですよね?」



目を開いて体制を変えないまま、声を掛けてきた方を見て問いに答える。



颯:「………誰?」



生徒:「あ!あの私、秋川 木乃華って言うんだけど、覚えて、ないかな?」



彼女をよく見てみる。全然知らない、っていうかかなりの美人だし会っていれば、多分忘れないと思う。



颯:「……知らない」



秋川:「そっか〜、昔近所でよく遊んだんだけど、覚えてないかぁ」



彼女は残念そうに笑うが、知らないものは知らない。



颯:「昔のこと…あまり覚えてないんだ」



事実だ。大事な人がいなくなり、それ以外のことを思い出せないんだ。



秋川:「そ〜だよね、あんな事があったんだもんね〜、あ!私のこと木乃華でいいよ、昔みたいにさ」



颯:「……あんな、こと?」



木乃華:「え?あの…桜、ちゃん達……残念です」



颯:「……っ!お前にっ!何がわかるんだよっ!!」



彼女の胸ぐらを掴み、怒鳴りつけた。校長の話が止まり、周りの視線が集中する。



颯:「お前はあの日、何があったか全部知って言ってるのかよ!」



木乃華:「ごめんなさい、ごめんなさい…」



彼女は泣きながら謝罪していた。その姿に罪悪感を感じ、手を離した。



颯:「っ……すまない。それと、もう俺に関わるな」



鞄を持ち、その場から立ち去る。





教師:「どうかしたのか?おい君、どこに行く?」



男性教員が声を掛けてくる。



颯:「すいません。少し気分が悪いんで」



教師:「そうか、一応保健室が開いてるから、そんなに悪いなら、行ったほうがいいぞ?」



颯:「はい。では、失礼します」



嘘をつき、適当にあしらった後体育館を出て行った。





* * *





あの後、保健室には寄らずにそのまま帰り、今現在家にいる。



リビングのソファーに座り、さっきのことを思い出していた。



浮かぶのはやはり彼女のこと、言い過ぎた。桜達のことを知っているなら、気にするのは当たり前なのに、それを俺は、バカだな……明日もう一度ちゃんと謝ろう。



そう思っていると、ソファーの上で眠くなり、目を瞑った。






* * *






夢をみた。今日と同じ五年前の、桜達が死ぬ日の夢



桜:「こんな風に桜達も結婚するのかな?」



颯:「う〜ん、分かんないけど兄弟じゃ結婚できないよ?」



桜:「そうなの?じゃあお兄ちゃんは、コノカちゃんと結婚するの?」





(コノカ?……確か)





木乃華:「あ!あの私、秋川 木乃華って言うんだけど、覚えて、ないかな?」




(そうか、彼女が…本当だったんだ……)






それから浅い眠りから深い眠りに変わり、意識が無くなる。


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