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第十七話:心配と発展?

………今思えば俺って、知り合いはいない。家族もいない。大事な人もいない。やりたいこともないし、夢も持ってない。…………俺は、何の為に、生きているんだ……?




稲生:「天宮さん」



颯:「っ!」




そんな辛気臭いことを考えて窓の外を見てぼーっとしていると、秋川の席に座っていた筈の稲生が、何時の間にか俺の席の前に来ていて驚いた。




稲生:「ダメですよ?」



颯:「え?」



稲生:「天宮さん、難しいこと考えてます。それがダメなんですよ!そういうのは溜めないで、発散しちゃうんですよ」




は〜、こんな奴にまで心配されるとは……。でも、稲生は優しい子だ。それは喋っていて分かった。だけど稲生、俺が考えてることはお前には想像もつかないことなんだよ……。





確かに俺の考えていることは、俺のことを知らない稲生には絶対分からないだろう。……だけど、心配されるってのも案外悪くないものなんだな…。忘れていたよ、人にこんな風に想ってもらうのは……。


………そうか、だから秋川に対しては、その「トゲ」がなかったのか。秋川 木乃華という人間に関わって知ったんだ。人と関わるのが「嫌」じゃなく「喜」だってことを。現に彼女と喋って……和むというか、そういうのを気付かせてくれたのが秋川だから。



………だけど、それを認めてしまったら俺はどうなる?知り合いを殺し、その上に生きていている俺は?……………認めることは、みんなの幸せや将来を奪った俺に、出来る訳がないんだ。だから、幸せになるのはおろか願ってもいけない。その権利は俺にはないから……。



でも、心配されて悪い気がしないのは事実。それを気付かせてくれたのは稲生だ。




颯:「………ありがとな稲生。気にしてくれて」



稲生:「はい!……それと、梓でいいですよ?」



颯:「…………いや、それはちょっと」




やっぱり下の名前で呼ぶのは難しい。いいですよって言われても、稲生はいいかもしれないけど俺はちょっとな……。うん、断ろう。深く関わらないって決めたんだし、こんなとこで挫けたんじゃ意味がないから…。




颯:「悪い。下の名前で呼ぶのは抵抗がある」



稲生:「それです!そこがいけないんですよ、こっちがいいって言ってるんですから、それに応えないと」



颯:「…………」




無理だ。ってかなんでこんなこと、ほぼ初対面の稲生に言われなくちゃいけないんだ?心配されたのは、その、少しは嬉しかったけど、ここまで言われると嫌気が差してくるよ…。




颯:「……あの「ガラッ!」



俺が言おうとした途端に、教室のドアが開いた。………なんか、さっきもこんなことなかったか?



扉を開け、教室に入って来たのは…………ん?誰もいない。俺と稲生で開いた扉の方を見ていると、廊下に誰かいるのか話し声が聞こえてきた。




?:「いいから、来なさいって!」



?:「恥ずかしいよ〜」




廊下にいるのは二人。それも女子。たぶん声からして、秋川と一ノ瀬だろう。大体、教室に入るくらいでなにが恥ずかしいんだ?



そんなことを思っていると、廊下から一ノ瀬が出て来て、俺と目が合う。




一ノ瀬:「あ、天宮くん。もうちょっと待っててね?」



颯:「………なに、してんだ?」



一ノ瀬:「こ、木乃華が引っ張って……早く来なさい!」




一ノ瀬が力ずくで引っ張り、教室内に入りその場に座り込んだ秋川。


一体この二人はなにがしたいんだ?ってか秋川、さっきまで保健室にいたんだし、体調悪いんじゃないのか?……それにしても元気だな〜、もしかして仮病か?




木乃華:「ぁぅ………そ、颯くん」



颯:「秋川……大丈夫なのか?体調」



木乃華:「え?……あ!うん」




大丈夫なのはいいことだな、うん。……………ん?何で俺、秋川達のこと待ってたんだ?確かに一ノ瀬には待ってるよう言われたけど、俺の待つ理由は何だ?………ない、よな?……帰るか。



そう思い、秋川達が来る前に帰りの準備しておいた鞄を持ち、教室を出ようとしたが、未だに座り込んでる秋川を見て思い出した。




颯:「あ……俺の家と秋川の家、近いんだっけ?体調悪いんだろ?送っていこうか?」




体調悪くて帰る途中で倒れられても困るしね。…………それに、秋川には話したいこともあるしな。






* * *






SIDE 木乃華




こんにちは、秋川 木乃華です。只今、玲奈ちゃんに連れて来られ、四人しかいない教室にいます。最初は玲奈ちゃんに颯くんがいるって聞いて、ホントに入りたくなかったです。



だって………みんなが見てる前で、だ、抱きついちゃったんですよ!?この前も先輩の前で抱きついちゃって……颯くんにどんな顔して会えばいいの?……って思ってたけど、颯くんに言われたのは心配の言葉。どうやら私、体調が悪いように見られてたようです。…………なんか、ね?まぁよかったのはよかったけど、腑に落ちないというか………。うん。悩んでくよくよしてもしょうがないよね?颯くんだもんね?



こんな結果になったけど、いいこともありました。なんと!あの颯くんから帰りのお誘いをされました!…………いやその、嬉しいんですよ?ただ、びっくりしたって言うか、だって颯くんから誘ってきたんだよ?




木乃華:「えっと、その……お、お願いします」



颯:「じゃあ、昇降口で待ってるから」




颯くんはそれだけ言って教室を出ていった。…………どうしたんだろう?颯くん、様子がおかしいような……颯くんの方が体調悪いんじゃないのかな?




玲奈:「良かったね木乃華!」



木乃華:「う、うん。でもなんか……」


梓:「………私、帰ります」




私の言葉を遮る感じで、不機嫌そうに言った後、教室を出ていった梓ちゃん。……な、なに?梓ちゃんまでどうしたの?私、何かしたかな?




玲奈:「あちゃ〜、梓もか〜」



木乃華:「え?どういうこと?梓ちゃんどうかしたの?」



玲奈:「まぁコノちゃんはまだ知らなくていいよ。じゃあ私は梓と途中まで帰るから、頑張ってね」




意味深なことを言って玲奈ちゃんも教室から出て行った。


全然意味分からないよ。梓ちゃんはどうしたの?玲奈ちゃんはなにを知ってるの?…………あ!颯くん待たせてるんだった。考えるのは後だよ!



それからすぐに帰りの支度を済ませ、教室を出て昇降口に急いだ。


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