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第十六話:思いがけない行動とトゲ

秋川がとった行動は、俺が考えていた殴りやど突きじゃなく、勿論張り手でもなかった。



秋川がしたのは、俺に、その、抱擁というか……ようは抱きつかれた。俺がなにを言っても離れず、自分の顔を俺の胸に押し付け、肩を振るわせ泣いていた。




颯:「あ、秋川……?」



木乃華:「……っ……ぅくん」




俺が呼んでも返事はなく、ただ俺にしがみつき、よく分からない声を出して泣いているだけの秋川。



クラスの人の視線が集中する中、近くの席の一ノ瀬も驚いているように見てたから、助けを求めてみた。




颯:「一ノ瀬、はがしてくれないか?」



一ノ瀬:「えっ!私が!?……多分無理だと思うよ?そうなったコノちゃん、人から離れないから」



颯:「前にも、あったのか?」




前にもあったなら対処法を聞きたい。正直、そんなに重くはないんだが、どっちかって言うと軽いし……じゃなくて、こうしてると、その、邪魔だしね?



それに、こんなのになったら周りは面倒くさいだろうな……人から離れないって、その場の近くにいる人に引っ付くんだろ?……ってか、俺ホント秋川に何したんだろうな……。




一ノ瀬:「あの……一週間前の、入学式で」



颯:「………つまり、俺のせいか……。」



一ノ瀬:「いや、天宮くんのせいだけじゃないと思うよ?この前のこと、木乃華も悪いと思ってたようだし」




あの時のこと、秋川は全然悪くない。悪いのは全部俺だ。心配して声を掛けてくれたのに、それを俺は……。



やっぱり、秋川は一番関わらない方がいいかもしれない。関わればこんな風に泣かせてしまう。嫌なんだよ、人が苦しんだりしてる姿を見るのが……。それに、秋川が泣いてる姿を見るのが何より辛いんだよ……。





* * *





今日の授業最後の六時間目も終わり下校時間になった。周りでは残って会話を楽しむ人達、部活の着替えをしてる人、すぐに帰る人がいる。





そういえば、先程のことがどうなったか言っておこう。



六時間目が始まるぎりぎりまで、秋川は俺にくっついて離れなかった。それを見かねたのか、一ノ瀬ともう一人の女子……確か、稲生って子が秋川を離してくれて、無事に六時間目を迎えることが出来たって訳。



あと、秋川は授業続行不可ということで、一ノ瀬がどっかに連れて行った。多分保健室だと思うけど…。




それで今はというと、一ノ瀬に秋川を連れてくるから待っててと言われて、帰りの準備を済ませて、ある人と話をしていた。していたって言ってるけど、一方的に喋っているのはあっちだけど…。


ある人ってのは、先程言った稲生って子。




稲生:「天宮さん。聞きたいことがあるんですが、いいですか?」



颯:「なに?」



稲生:「どうして人と関わろうとしないんですか?」




……なんでこんな小学生みたいな奴に、こんなこと言われなくちゃいけないんだろう?稲生と話すのは……今日が初めてだよな?…………んで、俺が人と関わらない理由だっけ?……こいつに言っても、どうせ関係ないしな…。




颯:「知りたいか?」



稲生:「え?はいっ!教えていただけるなら是非!」



颯:「……子供には関係ないことだよ」



稲生:「なっ!わ、私は子供じゃないですっ!」




今日稲生と喋って分かったことがある。稲生は面白い。なんていうか、イジメると反応が面白くてイジリがいがあって、それとどことなく、「彼女」に似ていて……放っておけないような、雰囲気が稲生にあるような…。






一ノ瀬が教室から出て行ってから、十分以上が経過しても帰って来なかった。その間、教室に残っている生徒は俺と稲生だけになった。



二人を待つのに飽きた俺は、自分の椅子と机の上でうずくまり、少し寝ようと考えていたが、何故か一緒に待っていて、隣の秋川の席に座っている稲生がそれを邪魔する。




稲生:「ところで、天宮さんは木乃華さんと仲が良いようですが、交際などはしてないんですか?」



颯:「……仲がいい?……逆に聞くけど、どこが仲良くみえるんだ?」




一体何時そう思うときがあったんだ?秋川とはほんの少し会話をしたことがあるだけで、他は……家に押し掛けてきたの知らないだろうし、あとは特にないだろう。………まぁ、先程の一件は別としてね?




稲生:「どこが見えるって……多分クラスの皆さんはそう思ってますよ?」



颯:「稲生……それは答えじゃない。俺が聞いたのはどこがそう見えるかって話」



稲生:「う〜ん、なんて言えばいいんでしょうか?」




……え?そこ俺に聞くか?俺と秋川を客観的に見てどんな感じかっていう質問なら、俺に聞いても分かるはずないと思うんだか……。やっぱりヌケてるのか?それともバカなのか?



俺が頭の中で稲生のことをバカと認識しようとしていたら、稲生が口を開いた。




稲生:「天宮さんって、人と接する時に、言葉なのか雰囲気どちらかにトゲを持つんですよ」



颯:「トゲ?」



稲生:「はい。この会話を早く終わらせたい、近付くな、みたいな感じで喋らなくてもそう伝わってくるんです」




確かに近付かないで欲しいってのはあるし、勿論会話をしていれば早く終わらないかなってのは何時ものことだ。でも俺ってそんなに分かりやすいんだろうか?




稲生:「でも木乃華さんに対しては、それが一切ありませんからね」




……そう、なのか?自分でも分からなかったけど、でも考えてみれば、早く終われとか思ったことないし、近付くなって思ってても踏み込んで来るからな〜。


ってか秋川が一方的過ぎて、考える暇がないだけな気もするけど……。






「トゲを持ってる」……今さっき、稲生に言われた言葉だ。自分でも分かっている。人と関わるときに「終われ」とか「うるさい」ってのは日頃思ってることだけど、周りの人に、しかも殆ど学校にも来ていないのに、人と喋ったのも数回しかないのにも拘わらず、それをクラスの皆は分かっているらしい……。少しヌケてる稲生でさえ分かってるなら、他の人も気付くんだろう。そのことに少しは驚いたけど、嫌悪感の方が上回っていた。自分を見透かされたようで嫌だった。



………今はどうなんだろう?稲生と喋ってるけど、その「トゲ」はあるのだろうか?


気になった俺は、隣にいる見た目小学生の稲生に聞いてみた。




颯:「今は、その「トゲ」……あるのか?」



稲生:「いえ。私が喋り掛けた時はありましたけど、今はありませんよ」



颯:「そうか……」




やっぱり複雑だ。そんな風に、簡単に分かる程俺は単純なんだろうか?……でも、否定は出来ない。だってそういうのは自分じゃなくて、周りが指摘して初めて気付くものだろ?



だけど俺は気付けなかった。いや、当たり前かもしれない。そのことを指摘してくれる人が周りにはいないし、それほどの仲の知り合いもいないからな……。


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