第十三話:言われて気づくこと…。
今井との話は俺が終わらせ、HRも富永の短い話で終わり、そろそろ授業が始まる頃、今井も今は黙って授業の準備をしている。
木乃華:「あの……颯くん」
颯:「……ん?」
木乃華:「一時間目の国語の教科書忘れちゃってね、見せてもらってもいいかな?」
教科書忘れるって、小、中学生じゃあるまいし……いや、一ヶ月前はまだ中学生か……じゃなくて、まぁ、最近あんまり寝てないから寝ようと思ってたし、国語なら後で読み直せばある程度分かるから別にいいか…。
そう自分の中で決めて、先程机の中にしまった国語の教科書を取り出し、秋川に渡した。
木乃華:「あ、ありがとう。机一緒にしたほうがいいかな?」
颯:「それ……今日貸しとく、だからいいよ」
木乃華:「え、でも授業は?颯くん先週休んじゃったから、分からないんじゃないの?」
……うるせーな、大体俺のことで秋川には関係ないのに、何でこんなに構うんだよ?
面倒くさいから秋川の話を無視して、勝手に会話を終わらせる。
颯:「秋川、それ授業終わったら返してくれればいいから」
木乃華:「えっ、でも!」
颯:「貸したのは俺なんだから、秋川は気にしなくていいんだよ」
たかが教科書の一冊や二冊貸すくらいで、こんな会話してたら、もう面倒くさくて貸す気にもならねぇよ。
木乃華:「わかった。でも今度お詫びするからね?」
いらねー、秋川どんだけ律儀なんだよ?教科書一冊借りただけでお詫びって、貸さない方がよかったのかな?
そう思いながらも授業が始まる前に、机の上にうずくまりすぐに意識を飛ばした。
* * *
?:「…う…?……ん?……きて」
うるさい。暗闇の中、瞼を閉じた状態で目が覚め、誰かが俺を揺すり、声を掛けてくる。このクラスで俺に声を掛けるのは、秋川くらいだろう。
木乃華:「颯くん、もうお昼だよ?起きてよ!」
………え?今秋川は、昼って言ったのか?でも俺が寝たのは、一時間目が始まる前だよな…………マジかよ?確かに昨日は寝てない。だけど普通教師が始まる前に起こさないか?……まぁ過ぎてしまったものは仕方ない、起きるとするか。
突っ伏してる状態から、普通の姿勢に戻すと、俺を揺すっていた秋川と目が合う。予想外に顔が近かった。顔を少し動かせば、唇が触れるくらいに近い。
颯:「……近いんだけど?」
木乃華:「ご、ごめんっ!」
目が合って数秒たっても秋川が退かないから、思ったことを言うと、顔を赤くして瞬時にその場から離れる秋川。……今の間は、なんだったんだ?
颯:「……あ〜、その、起こしてくれてありがとな?」
木乃華:「あ、いや、別にいいよ!」
俺に背中を見せながら言ってくる秋川。どうしたんだ?………あっ!そういえば真希と約束してたの忘れてた。
無言で立ち上がり、教室を後にしようとすると、秋川に声を掛けられる。
木乃華:「あれ?颯くんどこに行くの?」
颯:「昔の知り合いにな、ちょっと会ってくるんだ」
木乃華:「え…?あ、うん。行ってらっしゃい」
昔の知り合いに会うだけで、そんなに驚くことか?まぁ俺のことを知ってる秋川なら分かるけど…、それとも知り合いがいないとでも思ってるのか?……それはちょっと失礼だな…。
まぁ確かに知り合いと言える知り合いはいないし。昔いた皆は、俺のせいで死んじまったからな……。
* * *
SIDE 木乃華
彼が教室から出て行った後も、彼の顔を思い出していた。普段学校にいては絶対に見られない彼の素顔、入学式の次の日の朝早くに私だけに見せた素顔、何故それを今見せたのだろう?それ程に仲がいい相手なのだろうか?………いったいだれなんだろう?
玲奈:「木乃華……今の、誰?」
木乃華:「颯くん、だよ?」
学校二日目にも私に見せた素顔、皆がいるクラスで見せた颯くんの笑顔。やっぱりかっこいいな〜。
梓:「かっこよかったですね?」
玲奈:「うん。天宮くんの笑ったとこ初めて見たけど、かっこよかったね?」
えっ?ちょっと何言ってるの二人とも!?颯くんは私の……じゃないけど、他の女の子に言われるのはなんかイヤだよ。なんなんだろうこの気持ち?
梓:「木乃華さん?どうかしましたか?」
梓ちゃんが穏やかな口調で聞いてくる。
別にどうもしない。だけど、玲奈ちゃんや梓ちゃんが颯くんと仲良くしている姿を想像すると、何故だか胸の奥に痛みを感じる。
梓:「木乃華さん?」
玲奈:「ふ〜、仕方ないわね。梓、あんまり天宮くんのこと言っちゃダメよ?」
梓:「え?どうしてですか?」
確かに言って欲しくない。何故だか分からないけど、他の人に、颯くんのことを知らない人に喋られるのがイヤなんだ。
玲奈:「木乃華が嫉妬するから」
梓:「そうなんですか?木乃華さんって……天宮くんのこと」
少し笑いながら言う玲奈ちゃん。その言葉に驚いている梓ちゃん。
嫉妬?私が?じゃあこの胸の痛みは嫉妬なの?他の女の子が颯くんのことを言うと痛み出す。春野先輩の時もそうだった。先輩が颯くんをお昼の誘いに来た時なんて、泣きたくなった。
そうなんだ。この痛みは嫉妬だったんだ。……ってことは、私は颯くんのことが……。