第十二話:誘いと挑発?
それから職員室を出て、自分の教室の方へ向かうと、職員室側にある一組の教室の前で、真希がいた。
真希:「あっ!天宮くん」
颯:「真希、どした?」
真希:「あのね……天宮くんがよかったらなんだけどね、お昼休みとか暇かな?」
よかったらって……どういう意味だよ?それってつまり、相手が良ければってことだろ?
真希、お前は俺と話したこと忘れたのかよ?
……だけどこれは俺を思って言ったこと。それは分かっているから口には出さない。
颯:「なんで?」
真希:「なんでって、一緒にお昼とかどうかな〜って」
そういうことか……まぁ確かに昼飯一緒に食うなら、相手の意見も大事そうだな。
颯:「………別にいいよ。どうせ一人だし」
真希:「っ……やっぱり天宮くん、変わってないんだね」
颯:「まぁ、な」
違うよ真希。前にお前と喋った時より酷くなってる。あの時にはまだ大事な人がいたけど、そういう人はもういない。皆俺の前からいなくなっていく。桜も琴美ちゃんも恭介も皆!………そう、全部俺のせいで……。
颯:「んじゃ、俺は自分の教室に行くわ」
真希:「うん。あ、そうだ、天宮くんって二組だよね?」
颯:「……あれ?俺、真希に言ったか?」
勿論言った覚えはない。しかも再会したのは今日、登校中に話した内容は、ただの世間話だったし…。
真希:「まぁ、入学式とか結構目立ってたからね……」
颯:「あ………」
イヤな話しだ。ってか思い出したくないよ。あの時機嫌悪かったし、あんなこと言われたから、ついカッとなって秋川泣かせたし、最悪だったな。まぁ、謝って、仲直り…?……いや、元々仲良いとか無かったから違うか、取り敢えず、俺が謝ってその件は終わったんだ。
真希:「あの時は、立原君に似てるな〜って思ったんだけど、クラスで聞いたら天宮って言う人だから、違うと思ったんだ。でも結局キミだったけどね」
颯:「そうか……」
真希:「うん。じゃあお昼になったら、二組の前で待ってるからね?」
それから俺達は別れて、俺は二組に、真希は一組に戻った。ってか真希のクラス一組だったんだ。知らなかったな。
俺は教室に入り、自分の席まで行くと、俺の席の後ろの奴に声を掛けられた。
生徒:「おい貴様、何者だ?」
颯:「…………」
俺は席に着かず立ったまま、其奴のことを見ていた………正確には睨みつけていた。
此奴と会うのは初めての筈。先週は、入学式早退、次の日は来たけど喋った相手は秋川、一ノ瀬、春野先輩、富永教員だけで午後には帰ったし、次の日の三日間は色々あって休んだ。だから此奴は初対面にも関わらず俺のことを貴様呼ばわり、正直気に食わない。
生徒:「もう一度聞く、お主何者だ?」
貴様じゃなくなったな。ってかもう一回貴様呼ばわりしたら殴ってやろうと思った。初対面で貴様って言われたら苛つくだろ普通。
颯:「…………」
生徒:「もう二度聞きます!貴方は何者ですか!?」
……面倒くせーな此奴、なんか貴様から貴方になってるし、敬語になったし、なんか必至だな。それに、もう二度ってなんだよ?此奴、もしかしなくてバカだろ?……これはあれだ、面倒だし関わらない方がいいな。
見てるのも飽きたから、鞄を机の上に置き、座ろうと椅子を引くと……。
生徒:「冗談ですごめんなさいっ!」
颯:「………?」
生徒:「そんなもので殴られたら、いくらこの僕でも死んでしまいます!」
そんなもの?……って、もしかして俺が此奴のことを、椅子で殴ろうとしたって思ったのか?貴様呼ばわりされても、人殺しまで発展しないだろ……。
ってか俺一言も喋ってないんだけど、此奴一人でベラベラうるせーな。ってか此奴………誰だよ?
今井:「まぁ取り敢えず落ち着こう。まずは俺の自己紹介、俺の名前は今井 智樹、よろしくね?」
颯:「……別に聞いてねーよ」
今井:「え?あ、ああ、そうだよね、俺の名前なんかどうでもいいよね?もう地球のゴミとかそういうレベルだよね?」
いや、そこまで言ってないだろう。地球のゴミって、もうホントにいらない物じゃん。あと此奴うるさい。此奴の席って俺の後ろ?イヤなんだけど……。
俺は未だに席に着かず、この変な生き物を見ていると、二組の生徒が次々と入って来て、その中に秋川の姿もあった。
木乃華:「あっ!颯くんおっはよぅ!今日は来たんだね?」
颯:「ん……ああ」
笑顔で近付いてくる秋川。なんなんだよ?この後ろのバカといい、秋川といい、何でこんなに干渉してくるんだよ?………やっぱり俺が突き放さなきゃ駄目なのかな?
朝のHRが始まるまで、自分の席でぼーっと窓の外を見ていると、後ろの………誰だか忘れた奴が小声で話し掛けてくる。
生徒:「ねぇねぇねぇ天宮くん。皆とどういう関係なの?」
颯:「……皆?って誰のことだ?……それより誰だお前は?」
今井:「今井ね、今井 智樹だから」
どうでもいい。ってか陰薄いし、名前もいたって普通で逆に覚えずらいんだよ……。
それより、皆との関係の皆って誰なんだ?
颯:「それで皆って誰だよ今井君?」
今井:「あっ、気軽に智樹とかでいいよ?」
イヤだ。呼び捨てで呼ぶのはおろか、下の名前で呼ぶのは絶対にイヤだ。そんな風に呼んだら、変な親近感が湧いて、仲が良くなったりしたら、俺は絶対に後悔するから…。真希だって実際後悔しているんだ。それなのに、昼の約束もしてしまい、何やってだろうな俺……。
だからクラスメイトは君付け、さん付けで呼んで、自分には関係なく実の無い話には参加しないで、一定の距離を取った方が一番いいんだ……。
颯:「別にいい、それで皆って誰?」
今井:「あ、ああ。誰ってそりゃ…」
今井は俺の耳に口を近づけ、小声で言った。
今井:「隣の秋川さんにその後ろの一ノ瀬さん、生徒会長の春野先輩、一組の斉藤さん。どういう関係なの?」
………あぁ〜、此奴は女好きなのか。しかもさっき言った四人全員美人だし、俺と関わっていた時を見ていたんだろう。
颯:「……知りたいか?」
今井:「え?……教えてくれるんなら、是非とも教えてほしいかな〜なんて」
颯:「はぁ〜……別に大した関係じゃねーよ」
俺はそう呟くと視線を窓の外に移した。
そう、大した関係じゃない。秋川は小さいときの知り合い、一ノ瀬はまともに話したことすらない、春野先輩は…色々あったけど深い関係はない、真希も中二の時の知り合い。
ただそれだけなんだ。だからこれ以上、関係を深めるつもりはない。深めちゃいけないんだよ俺は……。