第十一話:想いと繋がり
斉藤:「それにしても意外だな〜」
颯:「……なにが?」
斉藤:「だって立原君。学校で話し掛けても全然反応無いしさ、今回誘ってもどうせ来ないだろうなって思ってたけど、来てくれたし、ちゃんと喋ってくれたから」
颯:「……まぁ、普段のアンタを見てて、あんな顔されたらな」
斉藤:「それって……何気に私を見てるってこと?」
斎藤はそう言うと同時に、学校でよく見る顔になった。
普通そういう解釈するか?さっきまで学校の話してたんなら、どういう意味か分かるだろ?
颯:「はぁ〜」
斉藤:「冗談だよ。……それと、さっきの話なんだけどね、嫌になったんだよ」
さっきとは打って変わり、斉藤は真面目な顔をした。表情がよく変わる奴だな〜。
颯:「……そういう生活を続けるのが?」
斉藤:「う、うん。………でも、キミがいた」
颯:「……俺?」
斉藤:「うん。中学に入ってキミだけだよ。自由というか何にも縛られてない人は」
当たり前だ。同級生とか教師に縛られるのは絶対に嫌だ。
教師は、授業態度やテストをちゃんとやってればあまり言ってこない。
生徒の方は、喋り掛けてきても無視すれば向こうから離れていくし、それが気に食わなくて嫌がらせなどをしてきたら、俺だって容赦はしない。
斉藤:「それなのに、話し掛けても無視だし」
颯:「……悪い」
斉藤:「いや謝らなくていいけどさ、それでね良いこと思い付いたの」
斉藤の思い付く事って……イヤな事しか思い浮かばないんだけど。
颯:「……何を思い付いたんだよ?」
俺は嫌々ながらも、斉藤に聞いてみた。
だって普段の学校で見せる「あの顔」になってるんだよ?やっぱり、イヤな事しか想像できないんだけど……。
斉藤:「あのね、立原君が、よかったらなんだけどね……その……側に、いたいの」
颯:「…………お前なら大丈夫。一緒にいても苦じゃないし」
この時の俺は、今の言葉の意味が分からなかった。だから友達になってって言うだけで、何故あんなに言葉を詰まらせたか、よく分からなかったんだ。
だから俺は普通に了承した。斉藤なら、もしかしたら……こんな俺を救ってくれるかもしれない、変えてくれるかもしれない、そんな小さな希望を斉藤にしてしまったんだ。
斉藤:「えっ!いいの!?」
颯:「別にそのくらいのことで驚くかよ?」
斉藤:「だって、立原君、彼女いるんじゃないの?」
颯:「……は?」
勿論いない。それどころか、近寄る人もいないのにそういった関係になるわけがない。ってか、それとこれとどう関係あるんだ?
颯:「いるわけないだろ。さっきまで何の話ししてたんだよ」
斉藤:「じゃあいつも一緒にいる女の子は?」
颯:「………誰だよ?」
少し考えたが、全然思い付かなかった。いつも俺は一人だったし、近づく人間がいても、無視をして追い返していたから…。
斉藤:「じゃあ、あのかわいい子は誰なの?」
颯:「いや、知らないから」
斉藤:「あの子の前では、いっつも笑ってるのに……」
そう言って、斉藤は悲しそうな顔をした。
その人の前では、笑っててていつも一緒?それってもしかして………。
颯:「それって……もしかして、琴美ちゃんのこと?」
俺の予想が正しければ、斉藤が言ってるのは琴美ちゃんだ。と言うより、琴美ちゃんしか思い浮かばない、一緒にいたのも、笑顔でいられたのも、彼女の前だけだった。
斉藤:「琴美さんって言うんだ……」
颯:「ああ。本名は立原琴美って言うんだよ」
斉藤:「へぇ〜、立原琴美さん…………って!立原っ!?」
颯:「いとこなんだよ」
そう、いとこなんだ。俺と彼女の繋がりは、それだけなんだ。もし、「いとこ」という繋がりが無かったら………俺は多分ずっと、桜の死から立ち直れずに、もっとつまらない生活を送っていたはずなんだ。
でも彼女がそれを救ってくれて、桜の死の重りを少しだけ軽くしてくれたのも琴美ちゃんなんだ。
彼女は俺にとって、憧れであり希望だ。だから彼女が困っていたり傷付いていれば、どんな時だって手を貸す。それ程彼女の存在は大切だった。
斉藤:「いとこなんだ……」
颯:「ああ。そうなんだよ……」
* * *
それからはよく覚えてない。斉藤が色々言ってた気がするが、俺の頭には入ってこなかった。琴美ちゃんとの繋がりが、それだけだったっていう事実にただ呆然としてたから……。
そして、斉藤と会話してから大体一週間後に琴美ちゃんが亡くなった。
だから今日再会するまで、斉藤のことはずっと忘れていた。
颯:「久し振りだな、斉藤」
斉藤:「うん!………でも立原君、私のこと、真希って呼んでくれないの?」
颯:「え?俺お前のこと下の名前で呼んだことあったか?」
斉藤:「ひ、ひどい立原君、あの時は普通に呼んでくれたのに!」
全然記憶にない…。でも斉藤がこう言ってるんだし、言ったんだろうな、俺……。
颯:「……分かったよ、真希。それと今は天宮 颯だ」
真希:「うん!よろしくね、天宮くん」
それからは、さい……真希の話を聞きながら、一緒に学校まで歩いていった。
* * *
学校に着いて、俺はまた職員室に用があるから、昇降口で真希と別れた。
職員室に行き、またも富永に会うと、入る気もないのに部活の入部届を貰い、その後少し話を聞かれた。
聞かれたのは勿論、三日間無断欠席の理由。取り敢えず風邪を引いたって言ったら、あまり追求して来なかった。