第十話:再会と昔のこと
SIDE 颯
何故あの二人がいたんだろう?その前に俺は何をしていたんだ?
何があったのか全然覚えていない。思い出せるのは、学校を早退して……その帰り道に春野先輩と、先輩の妹に会ったんだ。それからは…………駄目だ。思い出そうとすると頭が痛い。
それから先輩に言われた"警察の厄介にはなるな"この言葉の意味は、犯罪のことなんだろう。でもどういう意味かは分からない。だけど、言われても何も感じない、只、笑ってしまった。その言葉が、何故か自分でもお似合いだなって思ってしまった自分がいたんだ。
ホントは表面だけはそう見えたとしても、実際は苦しかった。胸の奥が熱くなるような、そんな感覚が襲ってきたんだ。
笑いながらその痛みに耐えていると、秋川が怒ったように先輩の言葉を否定してくれた。
秋川が先輩に言ったときに、胸の痛みはいつの間にかに引いていた。
多分嬉しかったんだ。少しだけでもこんな自分を気にしてくれたっていう事実が……。
もう一つ、先輩が帰る間際に言った"キミの妹はもういないんだ"って言葉……分かってんだよそんなこと、だってあれは俺が……殺したんだから、あんたに言われなくても分かってるんだよ…。
でも…もしかしたら、何処か別の所で、三人仲良く暮らしてるんじゃないかって思ったりするんだ。
有り得ないのに、もういないって分かってるのに、心のどこかではそう願っているんだ。
あれからもう四年は経っているのに、まだ全てを理解仕切れていない。自分の心の弱さなんだ。
もうあんな思いはしたくない。だからあの二人には関わらない方がいいのかもしれない。その方がお互いの為にもなるしな……。
* * *
春野先輩や秋川に明日学校で待ってると言われても、結局休んでしまい、土日の休日も何故か散らかっていた家中の掃除をしていた。
殆ど寝ていなかった気がする。
気付けばもう月曜の朝になっていて、学校の準備をしていた。
* * *
周りには誰もいない少し早めの登校。
理由は担任の富永に呼び出されたからだ。なんか部活や委員会に加入するかどうかで話があるらしい。
まぁ、入る気は無いんだけど…。
しばらく歩いていると道の先に女子生徒が見えた。俺も人の事言えないけど、来るの早いな……。
関係ないか、そう思って前にいた女子生徒を追い越した。が、その生徒に声を掛けられた。
生徒:「あれ?……立原君、だよね?」
その生徒が言った名前「立原」それは俺が二年前の、立原の家で厄介になっていた頃に使っていた名字。
その言葉を聞き、思わず振り返った。
生徒:「あ〜!やっぱり立原君だ〜」
颯:「………誰?」
以前秋川にも言った台詞、立原の名前で呼ぶって事は、昔の知り合いらしいが覚えていない。
生徒:「覚えてないの〜?ヒドいな〜。私は、真希。斉藤真希だよ〜」
颯:「斉藤、真希………あっ!」
覚えている。あの時の俺は琴美ちゃんぐらいにしか真面目に会話をしなかった。だけどこの斉藤 真希だけが話しかけてきたんだ。
* * *
琴美ちゃんが亡くなる少し前のこと。
その日の授業が終わってクラスの皆が帰った頃、俺は帰ることなく、いつものように机の上で外を見ていたんだ。
斉藤:「ねぇねぇ立原君。今日暇かな?」
颯:「……なんで?」
斉藤:「聞いた話ではねぇ、私と立原君の家は近いらしいじゃないか!」
俺は斉藤が嫌いだった。この意味の分からない性格や、他人の事を気にしなさそうな発言とかが、なにより聞いてて苛ついていた。周りの人間には評価が高かったかもしれないけど、嫌いだった。
颯:「だから?」
斉藤:「一緒に帰って親睦でも深めようと思ってね」
颯:「……他の奴でも誘えよ?」
俺がこう言ったら、斉藤は周りには見せたこと無いような真剣な顔をした。
斉藤:「それとね、話したいことがあるんだよ」
颯:「………分かったよ」
斉藤:「ありがと」
何故か俺は彼女の提案に乗ってしまった。多分普段の彼女を見ていて、いきなりあの顔をされたから驚いたんだ。それでその勢いで承諾してしまったのだろう。
それから二人で学校を出て、少し歩くと斉藤が口を開いた。
斉藤:「立原君ってさ、今の学校どう思う?」
颯:「……どういう意味?」
斉藤:「学校の皆ってさ、なんて言うか……人の顔色伺って生活してるよね」
彼女の言葉、それは学校の人に対しての不満なんだろうか、でも何でそれを俺に言うんだ?
斉藤:「この人には嫌われたくない、だからこの人の前ではいい性格でいよう。でもそれって嘘をついてるんだよね?」
颯:「お前の言いたいことは分かる。でも、皆が皆、素のままでの生活が出来るわけ無いんだよ」
斉藤:「でも立原君は、キミだけは素のままでいるでしょう?」
そういうことか…。斉藤が何故俺に声を掛けた理由が分かった。でも斉藤、お前は勘違いをしてるよ
颯:「俺がか?どこが素なんだよ?」
斉藤:「えっ?違うの?」
颯:「俺は………素のままで生きたことなんかない。大体、学校でしか会わないお前に何が分かるんだよ」
斉藤と喋ることはよくあった。と言っても斉藤が下らない事で俺に話し掛け、俺が相槌を打つか無視するかのどちらかだけど……。
だからこそ苛ついたんだ。まともに喋ったこともないのに、互いにどういう人間かも分からないのに、何故斉藤にこういう事を言われるか分からなかったから、余計に腹が立ったんだ。
斉藤:「……ごめん。でも私にはそう見えたの」
颯:「そう見えたとしても、それは嘘だよ」
俺がありのままでいられることが出来たのは、琴美ちゃんの前だけ。俺のことを信用し慕ってくれたから、彼女の前では嘘はつかないようにしようって決めたんだ。
だから斉藤が見てきたのは全て嘘なんだよ……。
斉藤:「嘘だとしても、キミが凄いなって思った」
颯:「凄い?」
斉藤:「周りからどういう風に思われ、言われてても、全然気にしない様な態度をとってたことだよ」
当たり前だよ。そんなもの気にしていたらきりがない、人間なんて一人じゃなにも出来ないのに、群れや集団を作り強い気になっている。
反吐かでるよ、その集団に入れば虐められない、省かれない?ウザいんだよ、なんで義務教育の中学校でそんなことしなきゃ駄目なんだ?
只でさえ学校に縛られているのに、何故年も変わらない同級生に縛られなくちゃいけないんだよ?
それが嫌で俺は、そういうものを拒絶していたんだ。
颯:「凄い、か……」
斉藤:「うん。少なくとも私には、そう見えよ?」
聞いてて思ったんたが、俺みたいな学校生活を送る人を、見てる人は何気にいるんだな…。