第九話:キミの苦しみ
音は一応出ているものの、反応がない。颯くんお家にいないのかな〜?
春野:「入ってみるか?」
木乃華:「せ、先輩!それはいくら何でも」
"ゴトッ"
家の中から何かの音がした。
春野:「木乃華行くぞ」
木乃華:「は、はい!」
心配になった私達は、この時だけ意見を共にし、行動した。玄関のドアノブを捻るとすんなり開いた。どうやら鍵が掛かっていなかったようだ。
扉が開と、懐かしく感じる颯くんのお家、だが様子がおかしくそんな気持ちになれない。視界に広がっているのは、空き巣にでも入られたように、玄関の靴入れを始め、廊下に物が散乱している。
一体何があったの?
春野:「酷いな、空き巣か?」
木乃華:「……っ!颯くん!?」
私は散乱している物を気にもせずに、二階にある颯くんの部屋へ急いだ。
木乃華:「颯くんっ!」
部屋の扉を開けると、さっきと同じように物が散乱している。
散乱した部屋のベッドに、颯くんは眠っていた。
颯:「……桜?」
私達がうるさかったのか、颯くんは目覚め、上半身だけ体を起こした。
だけど呼んだ名前は、颯くんの妹の名前。目が虚ろ状態だけどまだ寝ぼけているのかな?
木乃華:「私は木乃華だよ?」
颯:「木乃華?……ごめんね、今日は一緒に勉強できないや」
木乃華:「え?」
何で勉強?……もしかして颯くん、昔の夢でもみてたのかな?
颯:「桜がね、どこにもいないんだ。ずっと捜してるのに」
木乃華:「っ……」
多分、今の彼は桜ちゃんがもういないって気付いていないんだ。
私がちゃんと教えてあげなくちゃ、こんな颯くん見ていられないよ……。
木乃華:「颯くん聞いて、……桜ちゃんはもういないの、四年前に亡くなったんだよ?」
颯:「………違うよ、僕が桜を泣かせたから、怒って隠れているんだよ」
私の言葉を否定して、彼はまだ桜ちゃんがいるように話した。
私はそんな彼を見ていると、涙が出て来た。
木乃華:「颯くんっ!…桜ちゃんはっ…いないの…もう、どこにも!」
颯:「木乃華……苦しいよ」
私は知らずに颯くんを抱き締めていた。
だって知らなかったんだもん。こんなになるまで、桜ちゃんに未練があるなんて、それをずっと溜めていたなんて、私には知ることさえできなかったんだ。
春野:「取り込み中悪いんだが」
振り返ると先輩がいた。
声を掛けられるまで先輩がいることに、気が付かなかった。
春野:「どうせなら離れてくれると嬉しいんだが、目のやり場に困る」
木乃華:「え?……あっ!……きゃあ!」
颯:「痛っ!」
言われた瞬間に颯くんを突き飛ばし、颯くんは壁に頭をぶつけた。ごめんなさい。悪気はなかったんだよ?
今気付いたけど先輩から見て、私達の姿って抱き合ってる様に見えるよね?恥ずかしいよぅ〜。
木乃華:「ご、ごめん颯くん、大丈夫?」
颯:「っつ〜、………何で、いる?」
ぶつけた頭の後ろをさすりながら、私と先輩を見て……睨みつけてる?
さっきまで話してたのに、颯くんて……二重人格?
春野:「キミが心配だったんだよ」
木乃華:「そ、そうだよ!二日も無断欠席したら、心配するよ!?」
颯:「……色々あったんだよ、大体休んだってあんた等には関係ないだろ、家にまで来て」
私は返す言葉が無かったけど、春野先輩は言葉を返した。
春野:「人に心配をかけているんだ、関係あるだろ?」
颯:「……そんなの、只の押し付けです」
「押し付け」この言葉は私の胸に突き刺さった。
入学式からの私の言動、颯くんを想って言ったこと、でもそれは彼にとっては只の押し付けでしかなかった。
私は今の言葉を聞いて何も言えなかった。
春野:「まぁそうなんだが、それともう一つ「忠告」……と言った方がいいかな?」
颯:「忠告?」
先輩はさっきの微笑んでいる表情じゃなく、真面目な顔をした。
春野:「ああ。……警察の厄介になることはしないようにな」
先輩の言った警察の厄介、それって……犯罪って事だよね?なんでそんなこと先輩は言うんだろう?
颯:「どういう、意味ですか?」
春野:「そのままの意味だよ」
颯:「……それは答えになっていません」
先輩の表情から冗談じゃないことは分かっていたけど、颯くんが警察の厄介になるってどういう意味なんだろう?
春野:「根拠はないんだがね、君の瞳が……犯罪者のようだ」
颯:「……犯罪者?くっ、ははっ、ははは」
どうして?なんで先輩は颯くんにそんな酷いことを言えるの?なんで颯くんはそんなこと言われたのに、笑っていられるの?
先輩は今日お昼を誘いに来たのになんで?私、貴方達の関係が全然わかんないよ……。
でも先輩に言いたいことはある。今の言葉は絶対に撤回してもらわなくちゃ。
私は意を決して、先輩の方を向いて言った。
木乃華:「颯くんは、犯罪者じゃない!」
颯:「……秋川?」
颯くんに呼ばれた事は気付いたが、今は口が止まらなかった。
木乃華:「貴方達がどういう関係かは知りませんが、何でそんなこと言うんですか!?知り合いなら颯くんの事知ってるんでしょう?颯くんが可哀想です!!」
喋りすぎて息が上がった。顔が熱い、多分頬が赤くなってると思う。
私の言葉を聞いて、先輩は考えるような仕草をした後、口を開けた。
春野:「……天宮くんの事、それは天宮くんの妹さんが亡くなったことか?」
颯:「………」
颯くんは、春野先輩のことを睨みつけていたが、黙って私達の話を聞いていた。
木乃華:「はい……」
春野:「……それが理由だよ」
木乃華:「……それはどういう意味ですか?」
春野:「説明してもいいが……すまない。時間だ」
先輩は腕についている時計を一目見るとそう言った。
あれだけ酷いこと言ったのに、内容を言わずに帰るの?この人ずるいよ……。
木乃華:「逃げるんですか?」
春野:「まぁそう解釈してもいい、自分勝手だが私にも都合があるんだよ」
颯:「……じゃあ出てってもらえますか?あまり、この家に人を上げたくないんで、秋川、お前もな」
颯くんがやっと口を開いたと思ったら、第一声がこの言葉。
一昨日、ちょっと良い関係になったかな?って思ったら、今は名字で呼ばれるし帰れって言われるし、ショックだよ……。
木乃華:「う、うん……」
春野:「天宮くん、色々と失礼した。でもな、私はキミが心配なんだ。それは分かっていてほしい……それと、キミの妹はもういないんだよ。それじゃあ失礼するよ」
木乃華:「……じゃあ颯くん。明日待ってるからね?ばいばい」
当然返事は帰ってこなかったが、そのまま部屋を出ていき、散らかっている颯くんの家を後にした。
家から出た後、帰るの方向が一緒だったので、先輩と帰っている。
木乃華:「……さっきの続き、聞いてもいいですか?」
春野:「いきなりだな、まぁいいだろう。他にも色々聞きたいんだろ?何でも良いぞ?」
なんて言うんだろう?女性なのに言い方は変わってるんだけど、安心するというか、多分これが先輩の魅力なんだろう。みんなが生徒会長を支持してることが分かる。
木乃華:「えっと……、何であんなこといったんですか?」
一番の疑問。知り合いなのになんで酷いことを言ったのか?このことを先輩に聞いてみた。
春野:「それか……彼にも言ったが心配なんだよ」
木乃華:「でも心配だったら……あんなこと」
春野:「ああ心配だからこそだ」
心配だからってあんな風に言う必要あるのかな?私には先輩の考えが分からない。
春野:「少し難しいが、お金の為だったら何でもする人間がいるように、自分や家族、それと友人の為に行動する人間もいる」
木乃華:「……はい」
春野:「でも彼は、自分の、過去の為に生きている。……大好きだった妹が亡くなり、それを誰がどう見ても天宮くんは悪くないのに、自分のせいだと思い、妹さんの死を背負ったんじゃないか?」
先輩が言ってること、ほとんど分からなかったけど、どういう意味かは分かった。
春野:「そういう何かに囚われている人間は、犯罪を平気で犯すんだよ」
木乃華:「……なんでそう、言えるんですか?」
春野:「……私も色々な人を見てきたからな」
それだけ言うと、先輩は口を閉じた。
さっきの先輩の口調、昔のことのように言っていた気がする……。
春野:「他に聞きたいことはあるか?」
木乃華:「え?じゃあ……その、颯くんとはどんな関係なんですか?」
いきなり口を開いて驚いたが、気になった彼等の関係を聞いてみた。
春野:「ん〜、そうだな、木乃華の思ってる関係じゃないのは確かだが」
木乃華:「え?……い、いや!そういうことじゃなくてですね!」
春野:「別に良いさ、だが告白はした。振られてしまったけどね」
先輩は少し笑いながら言った。
颯くん、告白されてたの?まぁカッコいいもんな〜、でも安心したかな…。
木乃華:「あ、すいません。言いたくないこと言わせちゃって」
春野:「気にするな。それより、もうキミの家だぞ?」
木乃華:「え?あっ!?」
立ち止まって周りを見ると、馴染みの家とご近所さんのお家、いつの間に着いたんだろう?
それにしても先輩……
木乃華:「何で知ってるんですか?」
春野:「これでも生徒会だからな、じゃあまた明日」
木乃華:「はい………」
関係の無い言葉?を残して、自分の家の方向だろうか、その道を歩いていった。
それより生徒会ってなにやってるの?……怖いよ。
そう思いながらも、自分の家に入って行った。
* * *
あれから、お風呂に入り、晩御飯を食べ、テレビなどの娯楽を楽しんでいると夜の11時位になっていた。
私は割と早く寝るほうだから、自分の部屋のベットに潜り込み、目を瞑って寝る準備をした。
色々なことが頭に思い浮かんでくる。
春野先輩は生徒会長
先輩の好きな人は颯くん
先輩は颯くんに告白して振られた
颯くんの気持ちは?
先輩が言うには颯くんは桜ちゃんのことを引きずっている
その颯くんを私は救えるだろうか?
そして……私の気持ちは?
そんなことをを考えているといつのまに寝ていた。