9.サプライズ
ルーベンスさんの奥さん達に双子達の外出のお墨付きをもらったので、この世界で出来た友人達に紹介しようと張り切ってやって来たのは、そう。王宮である。
何しろ知り合いの大半はルマンド王国の王都か王宮にいる。
外出なのに屋内の王宮かよと思った方、わかってほしい。
お腹と背中に双子を抱え、王宮の長い廊下をひたすら歩く。
夕飯の買い出しにスーパーへやって来たはずが、異世界の城にトリップ!? の構図が出来上がってしまった。
そんなことより、今日はこの子達をリンやカルロさんに初めてお披露目するのだ。
え? 約束?
そんなものするはずないだろう。これはドッキリサプライズなのだから。
突然双子を連れて行き、産まれましたイエーイ! というアレだ。
すれ違う侍女達にぎょっとされ、2度見されながらも足早にカルロさんの執務室へと向かう。
王宮に転移したのは良いがリンは騎士団にいるのだし、と近い方から訪ねる事にしたのだ。勿論迷子にならないよう、頭の中にナビ機能を展開しているので問題はない。マップ機能だとたどり着かない可能性があるからナビにしました。
カルロさんの執務室をノックし暫く待ったが中から返事はなく、やはり突然の訪問はダメだったか……と若干の後悔を滲ませながらそこを立ち去る。
まぁこういう事もあるだろう。
「気を取り直して、リンの所に行こうね」
とお腹と背中の我が子に話し掛け、何が楽しいのかキャッキャと小さな声をあげて笑っている二人に笑みがもれた。
さすがにリンは騎士団の訓練所かその周辺にいるだろうと考え向かえば、ザ・訓練中です!! というような男性の号令が騎士団の宿舎に程近いこの廊下にまで聞こえてきたのだ。
ナビによれば訓練所は宿舎のさらに奥にあるのでここからは遠いというのに。
めちゃくちゃ声デカイ人がいるんだなぁ。
リンの居る部隊かは分からないが訓練所に人が居るという事は分かった。行ってみる価値はあるだろう。
子供達をあやしながら向かえば、すれ違う騎士達が侍女達と同じようにぎょっとして私と子供達を2度見するので、ここでも早足になってしまう。
やっと到着した訓練所では、幾人もの全く知らない騎士達が訓練用の、刃を潰してある剣で打ち合いをしている所だった。
「あれ? お嬢さんもしかして……」
リンはいないかなぁと目を凝らして見ていると、突然声を掛けられたのだ。
「やっぱり!! 師団長のつがいの!!」
「え??」
誰だ? と声を掛けてきた人を見る。
頭髪が後退……ゴホゴホッ 薄……ハゲ、ゴホンッ ……制服から騎士だとは判断できるがそれだけである。しかし相手は私の事を知っているようで、お久しぶりです! とにこやかに話してきたのだ。
「あ、どうも……こんにちは」
知らない人だが、それを素直に言い出せない。
それに気付いたのか、彼はハハッと笑い「覚えていませんか? あまり良い思い出ではないので無理はないかもしれませんが」と遠慮がちに自己紹介してくれたのだ。
「自分は、あの“ヤコウ鳥の事件”で精霊様を取り調べさせていただいた者です」
ヤコウ鳥の事件って、私が逮捕されて死刑宣告された…………、
「ああ!! あの時の頭髪が後退したお兄さん!!」
「……やっぱり覚えてるのは頭髪なんですね」
◇◇◇
「━━……師団長のお子様!? え、本当に精霊様が産んだ……!? えぇぇ!?」
頭髪後退のお兄さんに事情を話し、リンの所へ案内してもらっているところなのだが、双子達の話しになり、何故かものすごく驚かれているのだ。
「?? 正真正銘私が産んだ子達ですけど」
「いや、ですが精霊様はまだ子供……いえ、お若く見えるのですが……」
今子供って言った?
そりゃこの世界の人からしてみれば、背が低いし、若返りの薬飲んだし、さらに日本人は凹凸か無い分童顔に見えるらしいから仕方ないのかもしれないが、一応さんじゅうピー才のおばさんなわけで、子供も産めますからね?
「も、申し訳ありません! 」
「いえ、背は低いですけど、成人してますんで」
「そ、そうでしたか……いやぁしかし師団長と精霊様に似た愛らしくも凛々しいお子様ですね。将来はお父様の後を継いで騎士ですかね~」
気まずそうに話題をそらすお兄さん。それにのってあげると、ホッとしたように微笑まれたので、道中は双子とロードの話で盛り上がったのだ。
◇◇◇
頭髪後退お兄さんこと、ガトーさん(という名前だったらしい)に先程の訓練所とは異なる訓練所に連れてこられたが、こちらの方が訓練に気合いが入っているようで、剣と剣の打ち合いの迫力がすごいのだ。
さっきの訓練所は練習といったていで、こちらは本気の殺りあいのような、そんな気迫が感じられる。
何故か双子の片割れ、ロビン(女の子)がキャッキャとはしゃいでいるのが気になる。
「精霊様、リンを呼んで参りますので少々お待ち下さい」
ガトーさんはそう言い残しどこかへ行ってしまった。
見学するのに丁度良いベンチに腰を下ろし、背負っていたディークを下ろしてゆっくりとベンチに寝かせる。
ディークはキョトンとした顔で私を見ているので、頬をプニプニとつまんでやる。
赤ちゃんの頬っぺたは柔らかくて気持ち良いものだ。
「ディークは訓練には興味ないのかな?」
ロビンはさっきからキャッキャと喜んでいるが、ディークははしゃぐでもなくご機嫌ななめでもなく、あぶあぶとヨダレを垂らしている。
「ミヤビ!!!」
と、そこへリンが慌てた様子で駆けてきたのだ。
「あ、リン! 久しぶり。なんでそんなに慌ててるの?」
「ッそりゃあお前が、子供連れてきたって聞いて、……!?」
ベンチに転がしているディークを見て、驚愕の表情をしたリンは、「何やってんだ!?」とあわあわし始めた。
「ん? ずっと背負ってたから、下ろして様子を見てたの」
「御子様をそんな粗末なベンチに転がすなよ!?」
「え? ダメなの??」
「当たり前だろ!! お前、神王様の御子様を訓練所の汚いベンチに転がすなんてあり得ないだろ!?」
その汚いベンチに神王様も座ってるんですケド。説教までされてるんですケド。