6.国家運営会議
「最近、旦那様が特にお忙しくされておりますの……」
心配気に、憂いを帯びた表情で呟くのはドワーフのチコリさんだ。ドワーフの中では大きめの153センチという身長は、小人族ドワーフの男性には敬遠されたらしく、可愛い系美人にもかかわらずルーベンスさんと出会うまでは誰にも相手にされなかったのだとか。
「ルーベンスさんはいつも忙しそうですけどね~」
今日も今日とて双子を美人ママ達に任せ、お茶とお菓子をいただくのだが、決して育児放棄しているわけではない。
「そうなのですが、最近は寝る間も惜しんでお仕事をされているようで……お身体を壊さないか心配ですわ」
「あ~。なら、ルーベンスさんが帰ってきたらこの薬を飲ませてあげてください」
ポケットに手を突っ込み、異空間から神王印の薬を取り出し渡せば、チコリさんは驚いたように目をまん丸にするので可愛らしい。
「これは体力や気力を回復してくれるポーション……ゲフンッ 薬です。味も癖がないので飲みやすいと思いますよ」
作りすぎた薬の在庫を消費させる為、こういう絶好の機会に渡すようにしているのだ!
「まぁ! そのように貴重なお薬をいただいてもよろしいのでしょうか?」
遠慮するチコリさんに、貴重じゃないんでむしろ貰って下さいとお願いする。なんなら、美容の薬も有りますぜ~旦那。と営業をかければ、周りで話を聞いていた美人ママ達も集まってきて大騒ぎとなった。
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ロリーオ国王視点
「こ、これは……ッ」
「荒唐無稽にも程があるぞ!!」
「机上の空論だ!!」
今日の会議は荒れに荒れるだろうと予想は出来ていたけれど、ここまでとは思わなかったな……。
一ヶ月に一度ある、国の重鎮を集めての国家運営会議。
その会議中に出た“議題”が、この荒れた現場を作り出したんだ。
僕は心の中でビクビクしながら、集中砲火をあびている中心人物を見る。
「このような事を実現出来るとお思いか? ルーテル卿」
彼、ルーベンス・タッカード・ルーテルは瞳を閉じ、皆の怒声を黙って聞いていたけれど、その一言に閉じていた瞳を開き、沈黙を破った。
「実現出来るからこそ、議題に上げたのだがね」
その見下すような言い様に会議室の温度が一気に下がる。
僕の右側に座るカルロをチラリと見れば腕を組み、ルーベンスを黙って見ているだけ。さらにその奥のロードを見れば、眉間にシワを寄せてルーベンスを睨み付けているものだから、すぐに目をそらしたよ。
「国家予算に匹敵する費用を、どのように捻出するつもりかお聞きしたい」
「それならば配布した資料に記載されている。目を通してから質問してくれたまえ」
部屋の温度は下がってるのに火花が散ってるぅぅぅ!!!!
「そもそも、このような馬鹿げた話が議題に上がることこそおかしいとは思いませんかな。陛下」
ヒィィィッ!!!! こっちに飛び火したァァァ!!!?
「い、いや、よく練られた計画だし、実現できれば民の為にもなる、し……」
こ、恐い。すっっごく睨まれてる!! おかしな事言ってないよね!? それに僕王様だよね!? あれ? 違うのかな??
「素晴らしい!!!!」
えぇ!?
突然の称賛に……というより、突然の大声に心臓が口から出てくるかと思った。
一体誰が!? と皆が注目している方へ目を向けると、
「なんという画期的な施工と技術だ!! これは世界が変わりますぞ!!」
あぁ~……ガブリエル・ハイソン・ジャスパー公爵だ。あの人優秀だし人徳もあるのに、ちょっと方向性が残念なんだよね。
魔力も全然無いのに魔法の研究してるし、最近じゃあ“魔石”とかいう石の研究も始めちゃって、経理担当に予算削られてたけど大丈夫なのかなぁ?
「ジャスパー公爵、少し静かにしていただいてもよろしいですかな」
「今大切な話をしておりますので……」
ジャスパー公爵は穏やかで魔法に関してしか興味を示さないから、公爵だというのに他の貴族から軽んじられてるんだ。でもね、この人が先々代の時代に教会から“ルマンドの悪魔”って呼ばれていた事は父上から聞いた事がある。
貴族は殆どが代替わりしているからその事を知らない人が大半だけどね。
だからなめてかかるとほら、
「ほっほっほっ大切な話? 私も今大切な話をしているのだよ。ドミニク伯爵」
「な!?」
「君たちは、何を見てこのプロジェクトの反対をしているのかのぅ?」
「な、何とはっ勿論予算や人手、かかる時間などを考慮して……」
「それらは全てクリアしてあるようじゃが?」
「クリアですと!? 国家予算に匹敵する費用と人手はどこから算出するというのです!?」
「じゃから、それがこの資料に書いてあると言われておろうが。お主の目は何を見て、耳は何を聞いておるんじゃい」
穏やかな口調で徐々に追い込んでいく様に、ルマンドの悪魔と呼ばれた片鱗がほんの少しだけ垣間見えた気がした。
この様子から、ルーベンスはジャスパー公爵と手を組んだと見て間違いないようだ。
まったく。僕だってルーベンスの計画には賛成なんだから、そうならそうと教えてくれてても良いのにさ。