3.神王様、旦那の実家に双子を連れて行く
「そろそろ双子を“外”に連れて出ても良いかもな」
ロードがそう言い出したのは、双子が産まれてから3ヶ月程経った時期だった。
確かに最近は火花を散らす事も、静電気をおこすことも無くなったので良い機会かもしれないと賛成したのだが……
「━━━……“外”って、お義父さん達の所だったの?」
久々に見たロヴィンゴッドウェル家のお屋敷の前で、聞いてないよとロードの横顔を見る。
「連れて来いって煩くてよぉ」と、心なしか嬉しそうに言うロードに、お義父さん達に孫を見せてあげられる事が嬉しいのだろうと、仕方ないなぁと笑ってみせた。しかし、
「この子達、“深淵の森”の外に出るのは初めてだから……」
大丈夫だろうかという不安が大きく、ロードと私の腕の中にいる双子に目を向けていると、
「結界も張ってるし、心配しているような事ぁ起きねぇから安心しろ」
ニカッと笑って頭を撫でてくる旦那に、楽観的だなぁと思いつつも頷いたのだ。
「おおっ この子達がロードと神王……ゴホンッ ミヤビ様の御子様か!!」
何と可愛い赤子だ!! と言いながら抱き上げるお義父さんは、私達を屋敷の中へ迎えるとすぐ、それはそれは嬉しそうにロードから孫を奪い取ったのだ。
お義母さんも、双子の片割れを大事そうに抱えて、聖母のような笑みを湛えているではないか。
お義兄さん達はというと、仕事で王都の屋敷に居るらしくここには居ないらしい。
ロードもその事を知っていたそうで、今回はお義父さん達にしか連絡していないのだとか。
しかし、出迎えが土下座から始まらなくて本当によかった。
前回ロードが私の正体をバラした時はどうなるかと思っていたが、態度が変わる事がなかった事に安堵した。
そういう人達だとわかっていたからこそ、ロードはお義父さん達に正体をバラしたのかもしれない。
一人納得し、義父母の様子を観察する。
「親父!! もっと優しく抱っこしろよ!!」
「む……赤子を抱っこするなど久々過ぎて加減が……」
等とロードにお小言を言われているお義父さんは、恐る恐る腕の中の双子(男の子の方)を抱え直し、「本当、愛らしいわ」と、ロード似の女の子を抱っこしているお義母さんはさすがベテラン。様になっていて、男親と女親の明確な差を感じた。
「ミヤビ様、この子達のお名前は?」
お義母さんにそう質問され、そういえば言ってなかったかと、双子の名前を伝える。
「男の子が“ディーク”で、女の子が“ロビン”です」
お義母さんはそれを聞くと目をまん丸にして、「まぁ、ディーク……ロードの?」と首を傾げたので頷いた。
「はい。ロードのミドルネームでしたが、ロヴィンゴッドウェルの籍を抜け使用しなくなったと聞きました。せっかくお義父さんとお義母さんにいただいた名前だったので、息子にと思いまして」
「もしや“ロビン”は我が家の……?」
今度はお義父さんが、娘の名前についてたずねてきた。
「はい。ロヴィンゴッドウェルの名からいただきました」
頷けば、義父母は感極まったように涙を浮かべ、そうか、そうかと繰り返す。
「まぁ、ロヴィンゴッドウェル家がなけりゃ今の俺はここに居ねぇからな」
照れたようにボソリ呟くロードに、お義父さんはこんな嬉しい事はない!! と叫びながら、涙がこぼれないよう睨み付けるように天井を見つめていた。
◇◇◇
「旦那様、そろそろ昼食に致しましょう。ミヤビ様もロードもお腹が空いているでしょうし、双子ちゃん達もお腹が空いて泣き出してしまいますわ」
散々孫達を堪能した義母にそう言われた義父は、義母にデレデレした顔を向けて、「もうそんな時間か。お前の聖母のような姿に見惚れていたら時間が経つのも忘れてしまっていた」とキザなセリフを吐いて立ち上がると、使用人を呼んだのだ。
確かに義父は、双子を抱っこする義母の様子を穴が開くのでは!? という程凝視していた。
デレデレした顔はロードにそっくりだった為、血がつながらなくても似るものなのだなと感心したほどだ。
その後、すぐに使用人がやって来たと思ったら━━━……
「~~っっ 赤子でありながらなんというお力……っ なんという存在感!! さすが神王様の神子様!! ああ!! 私は今、長い精霊生の中で一番幸せです!!」
いや、アナタ……アーディンを探しに旅立ったんじゃなかったんですかァァ!!?
昼食という言葉に重い腰を上げた私達の前に、精霊執事のオリバーさんが当然のようにやって来て、双子を義父母の腕から恭しく引き取ると魔法で作ったのだろうか、プカプカと浮いたベビーベッドへとそっと横たわらせ片膝をつくと崇め始めたのだ。
双子はプカプカ浮きながら揺れるベッドにキャッキャッと喜んでいる。
「オリバーも御子様達に会うのを楽しみにしていてなぁ!! 」
ガハハと笑っている義父に、いや、なんでまだいるんだとツッコミを入れたロード。「後任の事もありますので、早々に引退というわけにはまいりません」と双子を幸せそうに見つめながら答えたオリバーさん。
「皆様がお食事の間、神子様方のお世話は僭越ながら私がさせていただきますので存分にお楽しみ下さい」
創世の神の第一精霊は基本お世話好きで、子育てのスペシャリスト(神を育ててきた)なので心配ないとは思う。が、この世界の食事はなぁ……。
「今朝狩ったばかりのマカローのマカロン料理だ!! 存分に食ってくれ!!」
庭に連れて行かれたと思ったら、ばかデカイ鹿の丸焼きを引きちぎり口に放り込んだ義父にどん引いたのは言うまでもない。
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※マカロン料理: マカローという大きな鹿の一種を外で丸焼きにして、引きちぎって食べる様をマカロンという。ドラゴンのマカロンの由来でもある。