21.ニット帽
「可愛い~~!!」
「うん。二人ともよく似合ってるね」
グレさんから貰った色違いのニット帽を被る我が子を写真におさめながら、うんうんと頷く私とトモコ。
仕事終わりに浮島の幼稚園に預けていた子供達を迎えに行き、深淵の森で早速頂いたニット帽を被らせてみれば、あまりの可愛さに撮影会となったのだ。
「双子ちゃんはやっぱりお揃いでなくちゃね~。可愛さ倍増だよ~!!」
「ルーベンスさんが何かにつけてお揃いの洋服や靴をくれるけど、身に付けたものを写真に撮ってプリントアウトしたらものすごく喜んでくれたから、グレさんにもこの写真渡したら喜ぶかも」
そう。最近ルーベンスさんとその奥様達は双子に貢ぎまくってくれているのだ。
あのルーベンスさんが、写真を見る時の穏やかな笑みを浮かべる様は見もの……ゴホンッ すっかり孫を溺愛しているおじいちゃんなのである。
プリントアウトした写真は、今やルーテル家の家宝のように豪華な装飾のアルバムに変わり、ルーベンスさんの執務室に大事に飾られている。
勿論ロヴィンゴッドウェル家からの貢物も大量なので、同じように写真を送ってあげているが、それもルーベンスさんの所と同じような扱いになっていると聞く。
どちらの家も孫を溺愛しているのだ。
「みーちゃん、さすがに写真はダメだよ~。ルーベンスさんの所やロードさんの実家はまだしも、グレさんは私達の事を何も知らない貴族のお嬢様なんだし」
写真はまずいってとトモコに止められる。
確かにこの世界には写真のような精工な絵はあっても、写真はない。絵ですと誤魔化すわけにもいかないだろう。
普通に周りに写真を配っていたから忘れていた。
「そうだったね。でもお礼はしないとね……」
『ミヤビ様、ただいま戻りました』
グレさんへのお礼を考えている最中、ヴェリウスが帰ってきたので出迎える。いつの間にか太陽は沈み、外は暗闇が広がっていた。どうりでお腹が空くはずだ。
「お帰り。ヴェリウス」
「ヴェリーさんお帰りなさ~い」
『ミヤビ様、お変わりはありませんでしたか?』
トモコに頷き、私の手にすり寄りながら今日1日の様子を聞いてくるヴェリウスをひと撫でする。
「いつも通りかなぁ。お客さんも多くないからトモコの考えたデザインのパターンを作ったりしてたよ」
『ミヤビ様の服の良さを分からぬとは、人間はなんと愚かな』
ムッとした顔で呟きながらふんふんと双子の匂いを嗅いでいる。
『ミヤビ様、御子様方から知らぬ匂いがします』
鼻の頭にシワを寄せて唸るヴェリウスにトモコがすかさずフォローにまわる。
「お客さんがね、双子ちゃんにって手作りのニット帽をプレゼントしてくれたんだよ~」
『何だと? 御子様方に得体の知れぬ物を身に付けさせるなど言語道断。トモコよ、お主はミヤビ様と御子様方を守る為に御側に居るのだろう。何故そのような迂闊な真似をしたのだ』
「勿論ステータスチェックやニット帽の鑑定もしたけど、特に問題はなかったよ~?」
『馬鹿者。そうであっても家族以外からの貢物など受け取るでない』
ヴェリウスは良い顔をせず、鼻の頭のシワも消えることがない。グレさんからプレゼントを貰う事はそんなに良くなかったのだろうか?
「ヴェリウス、どうしてプレゼントを受け取ったらダメだったの?」
『ミヤビ様や御子様方に貢物をしたいという者は神の中にも大勢おります。全て断っておりますが、それをたかが人間、それもミヤビ様のそう親しくはない者に先を越されるなど、奴らの矜持が許しません。これが知られれば、最悪神々の暴走も考えられるのです』
ええェェェ!!? 何でそうなる!?
『それに、一番面倒な者はミヤビ様の御側に居るではないですか』
◇◇◇
「俺のミヤビにプレゼントだぁ!? 誰だそんな喧嘩を売ってくるような真似した奴ぁ」
一番面倒なの居たーーー!!
「ミヤビは俺のつがいだぞ! 他人ヒトのつがいに近付きやがって……ぶっ殺す」
「女の子だから!! それに私にプレゼントじゃなくて双子にプレゼントしてくれたの!!」
「んな細けぇこたぁ関係ねぇ! 俺のつがいとガキにちょっかいかけるたぁ殺られても文句は言えねぇだろ」
細かくないからな!? 一番大事な所!! ちょっかいもかけられてない!!
「もうっ ロードは今忙しいんでしょ。そんなどうでもいいことに気を取られてないで仕事に集中して!」
「どうでも良くねぇよ!! 仕事よりも大事な事だろうがよ!!」
「いやいや、今王都の上下水道工事で大変なんでしょ??」
「あ゛ぁ゛? オメェそれどこで聞いた」
突如、殺気だっていたロードの空気が変わったのだ。
張りつめた感じと言えばいいのか、シリアスな雰囲気と言えばいいのか、とにかく真顔なのである。
「え? トモコからだけど……」
「オメェそれ周りに言うんじゃねぇぞ」
「?? 何で、」
「上下水道工事は反対派も多い上、最近じゃあその案を出してきたルーテル宰相の失脚を画策している輩まで居やがる。とにかく問題の多い国家事業なんだよ」
「!?ルーベンスさんが失脚って……ッ」
「あの腹黒野郎がそう簡単に地位を追われる事ぁないから安心しろ。とにかく、オメェは気にせず家に閉じこもってろ」
私の言葉を遮って言い切ったが、気になる上最後の家に閉じこもってろって何だ。
「そのプレゼントってのは回収すっからな」
「ええ!?」
かくして、グレさんから貰ったプレゼントはロードに回収されたのだった。
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ロード視点
「こいつをミヤビに贈ったのは、グレイス・セイブ・マガレーつったか」
ミヤビから回収した小さなニット帽を机に置き、ヴェリウスへと問いかける。
『そうだ。我が精霊をミヤビ様の影につけていたからな。間違いない』
「……マガレー子爵家は上下水道整備反対派のキュフリー侯爵の派閥に属していやがる。もしかしたらその関係でミヤビに近付いたとも考えられるが……」
『ふむ。トモコはステータスには問題ないと言っていたが、ミヤビ様に近付けるのは看過できぬな』
「ミヤビにゃ家で過ごすよう伝えているが……ヴェリウス、オメェは暫くアイツのそばについてやってくれや」
ヴェリウスは俺の言葉に頷くと、氷の結晶を散らしながら転移した。ニット帽と共に……。