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18.一の精霊オリバー


小さいとはいえ、ウチよりもよほど広いリビングへ通されてソファに座るよう促される。


「このように粗末な場所へ赴いていただき恐悦至極にございます。本来であれば神王様をお迎えできるような場ではない事が残念でなりませんが、どうかごゆるりとおくつろぎください」


ソファに座らせてもらうと、オリバーさんは片膝をつきそう文言をたれて頭を下げた。

ガット達はそれぞれが目を見開き、ラーヴァの方はさらに口まであんぐりと開けたまま固まっている。

そんな彼等に気付いたのか、鋭い視線を向けると「神王様の御前で間の抜けた顔を披露するとはどういうつもりだ」と非難の声を上げたのだ。


「ぁ……し、神王、サマ……?」


ラーヴァがパクパクと鯉のように口を開閉させ、言葉を絞り出す。それに益々眦をつりあげるオリバーさんにヒヤヒヤする。

片やガットは未だに固まったままで、目を開けたまま死んでいるのではないかと思う位に動かない。


「お前達、頭が高いぞ」


時代劇!?


オリバーさんの言葉にぎょっとして精霊達を見れば、今まで固まっていたガットと、混乱していたラーヴァが慌てて膝をついたのだ。


「し、神王様とは存じ上げず、数々のご無礼申し開きようもございません!!」

「何卒お許しください!!」


こっちも時代劇!?


「いや、顔を上げて普通に座って下さいっ そういうのはいらないです!」


私はそんな時代劇なノリをしに来たわけではなく、お話をしに来たのだ。



◇◇◇



「━━……それで、神王様御大自らが彼等を連れて来られた理由をお聞かせいただけますのでしょうか?」


コポコポとカップに注いだ紅茶を私の前に出しながら聞いてくるオリバーさん。

彼のそばには青い顔で佇む二人の精霊の姿があり、私の口は引きつって戻らない。


つい先程、土下座で謝罪していた彼等を私の了承を得て部屋の外に連れ出したオリバーさんは、数分後、その顔に笑みを貼り付け戻ってきた。青白い顔をした二人と共に。

その笑みが何とも恐ろしく、直視できないものなのだ。


「あー……まぁ、その、ですね……」


しどろもどろに話し始めると、オリバーさんは真剣な表情でこちらを見た。


「アーディンの精霊達の事で話がありまして」


切り出すとオリバーさんの後ろに居る二人が目を丸くする。オリバーさんの表情は変わらないが、戸惑っている雰囲気が伝わってきた。


「……それは、私も含め。という事ですね」

「さすがオリバーさん。話が早いですね」


にっこり微笑めば、戸惑う3人に話を続ける。


「オリバーさんは、アーディンを探す旅に出ると言われてましたよね」

「はい。お許しいただけるのなら、あの方を探しだし、次こそはずっとおそばにと考えております」


オリバーさんのその言葉を聞いた後ろの二人は驚いたように彼を見る。


「ッ……ふざっけんな!! あんたは、アーディン様を裏切って逃げたじゃねぇか!!!! それを……、今更何言ってやがる!!!!」

「ラーヴァッ」


今にもオリバーさんに殴りかかりそうなラーヴァ。それを押さえ込み宥めているガットの図にため息が出る。

この問題は地道に解決していくしかなさそうだ。


「オリバーさん。貴方はアーディンを探す前にやらなければならない事がある。わかりますね?」

「……はい。アーディン様のおそばにと言いながら、私は未だに彼等から逃げていたのですね」


そっと目を伏せるオリバーさんを真っ直ぐ見つめる。


「分かっているでしょうが、貴方はもう“アーディンの精霊”ではなく、“今代の人族の神の精霊”です。いくらアーディンから出奔したとはいえ、今生きてここに在る事がその証拠。まずは筋を通さなければいけないのでは?」


それが人族の神の、最初の精霊である貴方の役割でしょう。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



オリバー視点




まさか神王様御大自らが私の家にお越し下さるとは思いもしなかった。

しかも、ガットやラーヴァまで引き連れて来られるとは。


初めは何故彼等を連れて来たのかわからなかった。


彼等には会わせる顔が無いと思っていたし、会う気などなかった。

私には、彼等と話をする資格さえないのだから。


しかし、それすらも私の逃げであった。


神王様はそれを気付かせてくれたのだ。



「━━……オリバー様、あの時私は……アーディン様がおかしくなっていくのを、止めようともしなかった。逆に止めようしていた貴方様を責め、そして追い詰めてしまった……っ」


唇を噛み、拳を握り込む後輩(弟)の頭を撫でる。


「あの時は仕方がなかったのだ。あの方の異変に気付く者などいなかった。私ですら、僅かな違和感しか感じてはいなかったのだから……」

「オリバー様……っ」

「リアルBL!!」


ガットは涙を流し、申し訳ありませんでしたと謝るが、謝罪しなければならないのは寧ろ私の方だろう。

まだ未熟だった彼等を置いて一人逃げたのだから。


「ガット!! 何で裏切った奴に謝る必要があるんだよ!!」

「ラーヴァ、オリバー様は裏切ったんじゃない。あの時……オリバー様が行方をくらます前から、何度も俺達にアーディン様の異変を知らせてくれただろう。なのに、俺達はオリバー様を責めたて追い出したんだ」

「けどよ……っ」


ラーヴァはアーディン様が異界に干渉しだしてから生まれた精霊だ。異変に気付けないのも無理はない。

ガット以外はラーヴァと同じだろう。

何せ精霊は、アーディン様が異界に干渉し始めてから生み出された者がほとんどなのだから。


「ラーヴァよ。私が主様を止められなかったばかりに、辛い思いをさせてしまった。すまない」

「ッ……オリバー、様……」

「ハーレムだと!?」

「私は己の事しか考えていなかったようだ。お前達の事を放置し、人間となったアーディン様のおそばへ行く事で罪を償う気でいたが、それは間違っていたのだな……」


私は人族の神の“一の精霊”オリバーなのだ。

今こそその役割を果たさねば、精霊として生まれてきた意味はない━━━……










「今代人族の神、トモコ様。“一の精霊”オリバー、只今帰還致しました。何なりと御用命下さい」


「ぉおぅええぇぇェェェェ!!!!?」

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