11.ミヤビの正体バレる!?
「所で、彼らが青い顔をして見ている奇っ怪な液体は何でしょうか?」
レンメイさんがメガネを触りながら私の後ろを訝しげに見る。
ロードはあ゛? とレンメイさんの目線の先を追い、ぎょっとして顔を引きつらせた。
「あ、これは……」
「中に入っているのはケロケロの卵ですか?」
レンメイさんは気持ち悪そうに顔を歪めると、「こんな悪趣味な物を用意したのは誰ですか!」と騎士達を責めだしたのだ。
酷い。人気のタピオカドリンクなのに。
「あの、第1師団長様……」
恐る恐るリンが声を掛ける。
眦を決してタピオカドリンクと騎士達を交互に見るレンメイさんは、リンを見やると「何ですか」と冷たい声で言い放ったのだ。怖い。
「これ、持ってきたのはミヤビ……精霊様です」
「!?」
リンの言葉に私を振り向き、盛大に顔を引きつらすレンメイさんに、何とも言えず目をそらす。
「ミヤビ殿、これは何なんだい? なんというか……その、とても……ざ、斬新な物のように思うのだが」
カルロさんがフォローの為か、優しい声音で言いにくそうに苦笑いを浮かべる。ロードはフォローどころかため息を吐く始末。
つがいならばカルロさんのようにフォローに回れと言いたい。
「これは芋のデンプンを甘く味付けして丸めて茹で、ミルクティーなどに入れたもので、決してケロケロの卵ではありません!! 美味しい飲み物なんです!! フルーツティーの方はカラフルで見た目も美味しそうなタピオカ(コーティングジュース)でしょう!?」
私は必死にカルロさんや騎士達に言い訳する。
悪戯でカエルの卵を液体に浸けて持ってきた子供を見るような、そんな皆の目に耐えられなくなってきた。
「そうだよな……ミヤビが食べ物で遊ぶわけないか」
ボソリ呟いたリンは、タピオカドリンクを手に取るとゴクリと喉を鳴らし、覚悟を決めたのか恐る恐るストローに口をつけたのだ。
透明なストローをケロケロの卵……ではなく、タピオカが登っていくのを皆が驚愕の表情で見ている。
そんな中ロードは面白くなさそうな顔で私を腕の中に閉じ込めていた。
「ん……あ、美味い」
うげぇという顔をしている男達の中で、リンはキョトンとした顔をして口をモグモグと動かしている。
「でしょ!! トゥルンってして、割と噛みごたえもあって美味しいんだよ!! 芋なんだよ!!」
必死な私にカルロさんは生暖かい瞳を向け、レンメイさんは気まずそうにその様子を見ていたのだ。
結局、リンが勇気を出してタピオカドリンクを飲んでくれた事で騎士達も次々と飲み始め、その美味しさに虜になっていった。
◇◇◇
「ミヤビ殿、これはどちらのお店で手に入れたんだい?」
騎士達がタピオカドリンクに夢中になっている頃、ロードに捕まって子供達と共に拐われるように彼の執務室に連れて来られたのだが、カルロさん達も当然のようについてきたわけで、タピオカドリンクをあげないわけにはいかないだろう。一応カルロさんを訪ねて来た身としては。
というかこの人、タピオカドリンクを持つと周りの景色が東京のオシャレカフェに変わるな。
「カルロさん、もしかしてこれを女性に差し入れするつもりですか?」
差し入れに持ってきておいてなんですが、いくら美味しくても止めた方が良いですよ。
騎士達のドン引き具合見たでしょう? さすがにカルロさんでも嫌われますよ。と話をそらす為に注意したところ、「いや、陛下にと思ってね」と苦笑いされた。
王様にこそこの差し入れはダメだろうと思うのは私だけだろうか。
「そんな事よりもミヤビ殿……いや、ミヤビ様」
突然レンメイさんが私の名前を様付けし、土下座したのだ。
「今までの数々のご無礼、お許し下さい!!」
あまりの事にロードを見ると、手のひらで顔を覆い、空を仰いでいた。
カルロさんはギョッとしたような顔でレンメイさんを見ているところから、予想外の事だったのだろう。
「れ、れ、れ、レンメイさん!? 何故そのような事に!? タピオカをケロケロの卵扱いした事は怒っていませんよ!?」
「いえ、そうではなく……それもですが……私は、貴女様の正体を知ってしまったのです!!」
ええぇェェェェェェ!!!?
ロード!? と慌ててロードにすがりつけば、諦めたように首を左右に振るだけだった。
「レンメイ? ミヤビ殿の正体とは一体……」
困惑したカルロさんは、土下座しているレンメイさんに声を掛ける。
するとレンメイさんは顔を少し上げてカルロさんを見て言ったのだ。
「カルロ、貴方も知っていたのでしょう。ミヤビ様が“神王様の御息女”だと」
ぅええぇェェェェェェ!!!!!?