10.タピオカドリンク
「ほらっ 御子様方が雑菌にまみれないうちに室内へ移動するぞ!」
神王様は雑菌にまみれても良いんデスカ? 子供達と扱い違いすぎませんカ?
「抱っこ紐外しちゃったし、また背負うのも大変だからリンがディークを抱っこしてよ」
「え!? オ、オレが御子様を!?」
いいのか? と恐る恐る私を見てくるリンに頷き抱っこの仕方を教えると、自分の手を見て慌てて制服で拭う。
キョロキョロしながら周りをうかがった後に、優しく優しくディークを抱き上げたのだ。
「ぅわ……っ 小さくて軽いッ」
「でしょ。ロードも同じ事言ってたよ」
「師団長も……」
最初の頃は、力を少しでも入れるとすぐ潰れそうで怖いって恐々と抱っこしていた事を思い出す。
「オレ、殺されるんじゃ……」
「何で?」
「何でって、オレみたいなただの獣人がこんな高貴で尊い御方に触れて、普通怒られるだろ」
「高貴で尊いって、その子私の子供だよ?」
「お前の子供だから高貴で尊いんだろ!!」
いや、私への態度!!
「そんな事より、室内に移動するんでしょ」
「そうだった!! 早く御子様方を移動させないとッ」
こうしてリンと共に騎士団の宿舎に移動したのだ。
「━━……神王様の、御子様」
この会話を聞かれていたとも知らずに。
◇◇◇
「うおぉぉ!!!! この小さな赤ん坊達があの屈強な師団長のお子様……ッ」
「こんな可愛い子供が本当にあの筋肉魔獣……ゲホゲホッ 師団長のお子様かよ!?」
「人間離れしたあの師団長のお子様とはとても思えない愛らしさだぜ……」
「オレ、師団長の子供は産まれた瞬間から筋肉もりもりの二足歩行だと思ってた」
騎士団の宿舎に入った途端、たまたま休みで宿舎に残っていた騎士達に囲まれたのだ。
ロードほどではないが、やはり騎士。筋肉で出来た身体は大きく圧倒される。
そんな騎士達に囲まれて若干腰が引けてしまったが、リンが牽制してくれたおかげで、一定の距離を保ってくれている事にホッとする。
「師団長って産まれた瞬間から腹筋してたんだろ?」
「はぁ? 俺は産まれた瞬間から走り出したって聞いたぞ」
「違う違う。あの人は産まれた瞬間からムキムキだったんだって」
等と恐ろしい話まで飛び出しているが、それ人間チガウ。モンスター。
「女の子が師団長似で男の子が精霊様似だよなぁ」
「将来女の子の方が騎士になったりしてな!」
「ばーか。精霊様の子供なんだから、精霊様だろうが」
「精霊の騎士とか格好良くね?」
「やべぇ。カッケー!」
男子小学生か!!
どうやら騎士団とは小学生男子の集まりのようなのだ。リンはさっきから、「御子様を連れてくる場所を間違えた」と悔やんでいる。
「あ、そうだ。差し入れ持ってきたので皆様でどうぞ」
リンに会うため、騎士団に訪れることは念頭にあったわけだし、一応旦那が師団長なので、差し入れはした方が良いだろうと用意しておいたのだ。
本日の差し入れはタピオカドリンクである。
定番のミルクティーから抹茶ラテ、フルーツティーなどのタピオカドリンクの差し入れは、騎士団にはどうかなぁと思ったが、地球でも小学生男子からサラリーマンのおっさんまで飲んでいたこともあり、持ってきた次第だ。
差し入れ!? やったーーー!!!!
と喜んでいた彼らは、しかし、タピオカドリンクを見た瞬間固まってしまった。
「おいミヤビ、これ……ケロケロ(※カエルの事です)の卵が入ってんのかよ」
リンの一言に、場の空気を理解したのは言うまでもない。
と、その時。
「ミィーーーーーヤァァーーーーービィィィーーーーー!!!!」
頭が小学生男子の集団にドン引きされている中、響いたゴリラの声……もといロードの声にビクッと身体が震える。
ヤバイ。来やがった。
ドドドドド……
まるでヌーの大群爆走のごとく足音を響かせながらやってくるゴリラ。もとい旦那は、大変けわしい表情をしているではないか。
そしてその後ろをゆったりとした駆け足でやってくるのは、ルマンドいちのモテ男、カルロさん。さらに奥に続くのはレンメイさんであった。
「ミヤビ!! オメェはガキ共を勝手に連れて来やがって! 何で毎回毎回俺になんの相談もなしに行動を起こすんだ!!」
ぶつかるように私を抱き締めると同時に説教が炸裂する。
行動と言葉がイコールではないが、これはいつもの事である。
「いやぁ、外出しても大丈夫って太鼓判を押してもらえたし、そろそろ友人達に双子をお披露目したいなぁって。ごめんね?」
「だったら俺に一言相談してからにしてくれ。部下からオメェとガキ共が来てるって聞いて驚いただろうがッ」
部下から?
もしかして、ガトーさんが報告したのだろうか。
ブツブツと呟いているロードの後ろでは、苦笑いを浮かべたカルロさんと呆れ顔のレンメイさんがこちらを見ており、目が合った。
なんとも気まずい再会であるが、ロードが一向に離してくれないのだ。
「ロード、カルロさん達が困ってるよ」
「あ゛? 勝手に付いてきたんだから放っておけ。それよりガキ共とお前を回収して王宮に戻んぞ」
回収って……。
「ハハッ酷いねぇ。折角友人の愛の結晶である子供達の顔を見に来たというのに」
「そうですよ。話しに聞いているだけで一向に会わせる気がないなど、非常識にも程があります」
カルロさんは相変わらず穏やかに微笑みながら、レンメイさんは神経質そうにメガネの角度を調整しながらロードに訴える。
「るせぇ。愛の結晶は大切に仕舞っておきてぇ性分なんだよ」
恥ずかしい事を真顔で話すな外国人ども。
まるで海外のホームドラマのようなノリの会話に、旦那の部下達にケロケロ(カエル)の卵の飲み物を差し入れしているヤバイ精霊だと思われている最中だという事をすっかり忘れていたのだ。