料理
「しかし、もうこんな時間です。学園近くにいると、先生方の見回りによって止められてしまいます。ですので、ここで一つ提案が」
「「......?」」
ということで、闘いにはならずに済んだわけだが......はぁ......。
なぜ俺の部屋に来るんだ?
しかもアリシアまで。
「これが提案なのか?」
「はい。私もアリシアさんも、ルームメイトがいるので」
「ルームメイト?」
「はい。この学園は通常、ルームメイトがいます。二人で一部屋。それがこの学園の寮です」
へぇ、そうだったのか。
なるほど、だからお前の部屋ならルームメイトが居ないわけだから、ルームメイトに迷惑がかからないってわけだ。
俺にはかかるがな。
「それで、まずはお兄様との出会いからです。話してください」
「え、えぇ!?で、出会い!?何でそんなこと話さなくちゃいけないのよ!」
「あなたがお兄様に気があるのか、知っておく必要があるので」
「は、はぁ?そんなわけないでしょ? 誰がこんな奴」
えぇ......な、なぜ俺はこんなにも攻撃されるのだろうか。
まさか、由貴。妬いているのか?
まぁ昔から、由貴の知らない女の子俺が一緒にいるだけで由貴は怒っていたからな。
相当なブラコン。そして独占欲。
いやぁ、アリシアには酷だが、他人のフリをしておけば良かったかもしれない。その方が今後のアリシアの為でもあるし、俺もこんな面倒なことに巻き込まれずに済んだ。
「なぁ、もう良いだろ?本当にアリシアとはただの友達なんだって」
「と、友達っ!!?」
......いや、なんでアリシアがそんな反応するんだよ。
驚いたような顔しやがって......もしかして嫌だったのか?
顔を赤らめてまで大袈裟な反応しなくても......。
「チッ、いい加減に──────」
「まぁまぁ、もういいじゃないか。アリシアは昨日も今日も、俺をあの不良達から助けてれたんだ。それで良いだろ?」
「ぅ......お兄様が、そこまで言うのなら......」
やっと、由貴は納得してくれたようだ。
はぁ......ここまで好かれると逆に疲れるな......まぁ嬉しいことでもあるが。
「それよりもう今日は遅い。が、せっかく俺の部屋に来てくれたわけだし」
来てくれたというより由貴が無理矢理呼んだのだが。
「飯でも食って行くか?」
「ご、ご飯!?そそ、そんな......他人の料理だなんて」
「他人?いや、友達だろ」
「ともッ!?」
ボシュウと、オーバーヒートしてしまったアリシア。
ここまで来ると、面白いまである。
「遠慮すんなって。俺が作るので悪いが......」
「お兄様がお作りに!?是非私も食べさせてください!」
「え......?あぁ、当たり前だろ」
とは言ったものの、何せ久しぶりの料理だから味は保証できないが。
まぁ、なんだ。何か相談事などをする時には食事をしながらだと良いとか、話し合いには何かと食事をしながらすると成功しやすいと聞いたことがある。
仲直り......というか、せっかく俺の友達も出来たことなんだし、妹とは仲良くして貰いたいというわけで。
食事を一緒にすれば、少しは良い感じになるのではないだろうか。
「え......アンタが作るの?」
「悪いかよ......」
普段は由貴に作ってもらっているからな。
たまには俺が作ってやるのも良いだろう。
別に、アリシアか食べたくないって言うなら作ってやらないが。
「いらないのか?」
「え?ちょっ、食べるっ!食べるって!!」
何をそんなに焦っているんだ......もう、落ち着きがないやつだなぁ......。
とか何とか思いつつ、料理を始めた。
随分と久しぶりだが、腕は鈍っていないようだ。
この学園には食堂がある。だが、少しお値段が高いのが特徴だ。何故かは知らん。
故に、生徒の半分以上の人が自分で弁当やらなんやらを作ってきている。まぁ、せっかく部屋にキッチンがある事だし、使った方が得だろう。
別に、寮から出ることは禁じられていないので、休日にショピングや、朝イチからランニング。ついでにコンビニに寄るなどのことも許されている。
「ほい、出来た」
そんなに張り切りすぎてもいけないと思ったので、今回は軽く作っただけだけど。
「うわぁ!美味しそうです!」
「え......これを、アンタが?」
「いや、作ってるとこ見てただろ」
アリシアは、ありえないといったように、まじまじと見つめている。
そんなに見るなよ、なんか恥ずかしいだろ。
「ほら、見てても腹は膨れ......る時もあるが、どうせなら食ってくれ」
「いただきます!」
「そ、それじゃあ......遠慮なく」
パクッと、口にした。
「ッ!?」
「どうだ?」
正直、由貴以外に食わせたのは珍しい。というか初めてだ。
由貴はいつも「美味しいです」と言ってくれるが、それは気を使ってくれているのかもしれないと思っている。
俺の料理を食べるなりなんなり、「私も作ってみます」とか言い出すから、俺の料理を食べるくらいなら自分で作ると言っているように思えて仕方ない。
「......い」
「え?」
「美味しい!!何これ!?こんなの初めてだわ......」
「おぉ、そうかそうか。ありがとな」
どうやらお気に召してくれたようだ。
これで俺も一安心。
自分が作った料理を食べて、美味しいと言って貰えるほど嬉しいことは無い。
アリシアは、本当に美味しそうに料理を食べてくれた。
「それにしても、意外ね。アンタが料理出来るなんて」
「意外も何も、まだ出会ったばかりだろうが」
まぁまぁ別にいいじゃない。と、アリシアは言う。
「それで?お兄様とそのアリシアさんは、一体どういう経緯で知り合ったんですか?」
あぁ、まだちゃんと言っていなかったな。
誤解を解くためにも、それだけは話しておくべきか。
「実は昨日、帰りにさっきの男達と少し揉めてな。アリシアを助けたつもりが、今度は俺に矛先が向いたわけだ」
「私は1人で何とか出来たけどね」
とアリシアは言った。
事実、昨日は一人で何とかしてくれたのだから、俺は何も言えない。
正直俺は、助けたというよりむしろ助けられた方だな。
「なるほど、そんなことが......私の勘違いだったようですね。ごめんなさい」
由貴は席を立って、頭を下げてアリシアに謝った。
アリシアは、「分かればいいのよ」と少し動揺しつつも上から目線を突き通した。
素直じゃないやつだな。
まぁ、そういう所も可愛げはあるがな。
「そうだ。アンタ達、兄弟よね?何で、蛍舞だけ後から学園にに入学したのかしら?」
「あぁ、そのことか」
それには理由があった。
詳しく話すと長くなってしまうし、あまり自慢出来る事でもないので手短に話そう。
「私がお呼びしたのです」
「由貴......」
「この学園に、戦力が必要だと聞いたものですから、でしたら最強のお兄様を......と」
「ふぅん......最強、ね」
なんだよ。
何か言いたげだな。
「ま、いいわ、ご馳走様。アンタのご飯は相当美味しかったわよ。ありがとう」
「いやいやこちらこそ。2度も助けて貰っちまって」
俺達は2人で少し笑いあった。
それを見た由貴は、何やら頬をふくらませていた。
いいじゃないかこれくらい......可愛いなぁ我が妹は。
寮では、数回見回りが来るそうで、今の時間帯だと女子寮では3年の階の見回りらしい。
もう夜だし、こんな時間に男子寮から女子が出てくる所を見られでもしたら......考えるだけで恐ろしいことだ。俺の今後の学園生活が地獄と化する。
だから、アリシアはすぐに帰るが、2年の由貴は洗い物をしてから帰ると言う。
止めたが、これだけはやらせて欲しいと頑固な妹。
仕方ないので、俺はアリシアを寮まで送って行くことにした。
これも中々見つかったらまずいと思うが、昨日見たくアリシアが絡まれると危ない。
アリシアは強いが、やはり心配ではある。
「わざわざ良いのに......寮なんだからすぐそこじゃない」
「男子寮と女子寮は結構離れているぞ?コンビニよりも遠い」
「まぁそりゃあ......そうだけど」
恥ずかしがっているのか、ただのプライドなのか、もしくはその両方かもしれないが、とにかく俺は付き添った。
「......本当に、妹に実力のこと話していないみたいね」
「......あぁ」
由貴には話すことの出来ない、俺のスキル。
絶対に誰にも言わないと決意していたつもりだったのだが、早速二人にも話してしまった。
まぁ、その原因としてはアリシアが闘いを挑んで来たからであって......いや待てよ。元を辿れば、由貴のせいではないか?
由貴が俺のことを、変に自慢しなければアリシアは俺に挑んでくることもなかった訳で、由貴が試合会場にいなければ、俺は潔く負けていたところだ。......って、由貴に黙ってなくちゃいけなくなったのは俺のせいか......結局、巡り巡って俺のせい。自業自得という訳だな。
「そんなに頑なに隠す必要あるかしら?もう話しちゃった方が楽だと思うけれど」
「そうだな......そうかもしれないが、どうも勇気が出なくてな。由貴に嫌われるのが怖いだけなんだ」
「ふぅん......」
これは本当だ。
由貴に嫌われたくないし、由貴を悲しませたくない。
もうここまで来てしまったのなら、今さら勘違いや冗談などでは済ませないだろう。
「......じゃあ、蛍舞は妹のためにこの学園に通っているってわけよね」
「まぁ、そうなるな」
「私も」
「え?」
「私も、家族のために学園に通っているわ」
そうなのか。
「ただ、私は家族から離れるため......だけどね」
「なに?」
「......」
アリシアは、何故か俯いたまま黙っていた。
家族から離れるため......その理由は分からないが、アリシアに何かあることたけは分かった。
それについて聞こうかとした時、アリシアはパッと顔をあげて話し出した。
「いいよね、アンタの妹はさ。美人で、強くて、かっこよくて、可愛くて」
その顔は、さっきの言葉を言った時よりは明るかった。
嫌味ではなく、単なる羨ましいこととして話しているようだ。
「それは否定しないが、お前だって十分、美人で強くてかっこよくて可愛いぞ?」
「は、はぁ?な、何言ってんの!?」
また照れながら否定してきた。
コロコロ表情が変わるものだから、どうしてもからかってしまいたくなる。
まぁ、言っていることは本気だがな。
俺は本当にそう思っている。
「わ、私のスキルなんて......見た目はブサイクだし、弱いし」
「そうか?俺はカッコイイと思うぞ」
「え......?」
「それに、弱くなんてない。全然強いじゃないか。見た目だって、そんな隠すことはない。もっと堂々と使うべきだ!それはお前にしかない、スキルなのだから」
「私にしかない......スキル」
「お前はあの姿を、醜いと思っているようだが、俺は全然そうは思わない。むしろかっこいいと思うぜ?」
変身。
それは、男なら誰しもが一度は憧れるものだ。
少なくとも俺はそうだった。
それに、見た目がサランダーのようなカッコイイ姿ならもっと良い。
確かに女の子には嫌かもしれないが、俺としては羨ましいくらいだ。
だって、俺のスキルは自分のものでは無いから。
他人から借りることしか出来ないよりは、全然カッコイイスキルだ。
「えへへ......そんなこと言われたの、産まれて初めてかも」
「お前が皆に見せていなかっただけだろ?」
「ふふ、それもそうかも」
はははっ!と、2人して笑った。
夜の道は、よく声が響く。
アリシアといると、ついつい思ったことを何でも言ってしまうような気がする。
なんだか落ち着くというか、気を許してしまうというか。
そんなこんなで話をしているうちに女子寮へ着いてしまったようだ。
「今日は本当にありがとう。ご飯も美味しかったし、アンタ達兄弟のことを聞けて良かったわ」
「こちらこそ、また学園でもよろしくな」
「ええ。あ、それと、私負けないから」
「......?」
「アンタの妹にも、もちろんアンタにも。絶対に負けないから」
アリシアは、元気よく拳を突き出して宣言した。
「俺もだ。お互い、頑張ろうな」
「アンタに言われなくたって」
アリシアは良い笑顔を見せて、寮へ帰って行った。
さてと、また俺の部屋に戻って、もう1人のお姫様を向かいに行かないとな。
俺は踵を返して、再び部屋へと向かった。