秘密
「へぇ......じゃあつまり、許可さえ貰えれば誰のスキルでも使えるってわけ?」
「まぁ、基本はそうだが......しかし、使いこなせるわけではない」
「そうでしょうね。人はスキルに応じて適応するわけだし、もし今あなたが私のスキルを借りたとしても、体が燃え尽きてしまうでしょうしね」
マットと違って理解力が高いな。
さすがは序列3位。
説明が楽だ。
と、俺達は近くのベンチに座り、話をしていた。
もう夜遅くなってしまったのだが、ボコられて更に体力を失ってしまっているので、少し休みたい。
「けれど、昼の時はベルティーニよりも速かったじゃない。あれは?」
「マットがまだ自分のスキルに慣れていないだけだ。俺は、無理矢理力を引き出したようなものだから、おそらくマットよりも体力消費は激しかっただろう」
「なるほどね。けど、正直ガッカリだわ」
ガッカリ?
「2位が最強だって言うものだから、もっと強いと思って期待していたのだけれど」
「あぁ......あれは由貴が勝手に言っただけだ。実際には俺は全然強くなんかなく、むしろ弱い部類だ」
「由貴......その言い方だと、やはりあなた達は兄弟なのね」
「まぁな」
俺の最愛の妹だ。とは言わなかった。
ここでわざわざ、シスコンをカミングアウトする必要は無いだろう。
「困った妹さんね。何か理由でも?」
「最強だって言う理由か?......まぁ、話しておくか」
俺のスキルを知られたわけだし、こいつには俺の実力も知られている。
なら、話さない理由は無い。
「俺のせいなんだ。小さい頃、由貴が泣いてしまった時、咄嗟についた嘘だった。人間、強いものに守られれば安心できるだろ?だから、俺は由貴に『俺は最強だ』と言ったんだ」
詳しいことまてまは言わないが、大雑把に説明するとこんなところだ。
俺は嘘をついた。
由貴を安心させるために、兄は最強だと。
最強の兄が、お前を守ってると。
今思えば、それは願望だったのかもしれないな。
「それからというもの、由貴は泣き止んではくれたが、まさかそこまで本気にするとは思わなくてだな......何をするにも最強だと言ってくるようになったんだ」
嬉しかったのだろう。
俺も満更では無かったが、さすがに焦りはあった。俺が本当は、言うほど強くないことを知ってしまったら、由貴はどう思うのだろうか。
絶望してしまうのでは無いか、と。
「だから、強くなろうと思った。最強が嘘ではなくなるように、強くなろうとした。だが、無理だった。由貴は、偽りの最強である俺の、後ろを追っかけて来て、いつしか俺よりも強くなっていた」
お兄様が最強なら、私も2番目の最強になります、と。
足を引っ張らないように、強くなります、と。
「そして今に至るわけだ」
「ふぅん......要するに、あんたの自業自得ってわけね」
「まぁ、そうなるな......」
悲しいけど。
「そこでお願いがあるんだが......」
「なに?」
「このこと、内緒にしていてくれないか?」
「もちろんよ。他人のスキルなんて、他の人に暴露したりしないわ。私に得がないもの」
「違う違う、由貴のことだ。あいつには、スキルも実力のことも、言わないでおいてほしい。口外しないで欲しい......由貴の中では、まだ俺は最強なんだ」
「......まるで断りきれなかった片想いみたいね」
なんだよそれ。
告られたけれど、断りきれなくてまだ迷い中ってことにしちゃったよ。的なやつか?そんな優柔不断じゃねぇ。
「ま、いいけど」
「いいのか!?ありがとう、感謝する」
「その代わり......」
ニヒっと、アリシアはニヤけた。
うわぁ、それ、嫌なこと企んでる人の顔だ。
俺知ってるよ。これ、嫌なこと頼まれるやつだ。
「私と大会に出なさい」
「......はい?大会?」
「今度、『S.B.E』の大きな大会が開かれるのよ。そこに、私と一緒に出場して欲しいの」
大きな大会か。
この時期に開かれるやつと言えば......
「星間戦か」
「そ」
年に1度開かれる大会。
野球で言うなら甲子園みたいなもので、6つの学園から、1年2年3年と合計三組の代表選手達による、2対2のバトルなのだが。
「なぜ俺?」
「え!?いや......その......」
「他の友達と行けばいいんじゃねぇのか?」
「......」
......え?何だよ。
なんでそんな顔を赤らめて、恥ずかしそうにして......まさか。
「お前......友達が」
「う、うぅうるさいわね!いいでしょ?別に。と、友達くらい......いるし......」
はぁ......まぁ、いいけどさ。
なんだか可哀想になってきちまったよ。
「さっき言った通り、俺は役に立たないと思うぜ?」
「いいえ、私と組めば必ず優勝よ」
「お前が強くてもだなぁ......」
他に組める人がいない。という理由なら、意地でも強い人と組んだ方がいい。
俺なんかでは、足を引っ張ってしまうこと間違いなしだ。
「私に作戦があるの。とにかく考えておいて。ま、あんたに拒否権は無いけれどね」
あぁ、そうだったな。
秘密にして欲しければ組め......か。
別にいいけどよ。
「じゃあ決まりね」
決まってしまった。
「改めて、私はアリシア=オーディアール。この学園で最強の女よ」
いや、あなたより上に俺の妹がいた気がしますが......
「そう言えば俺はまだ名乗っていなかったな。俺は神鏡 蛍舞。よろしく」
「よろしく」
──────────
それから、俺達は各々の寮へ戻った。
アリシアは1人で行くと言ってなぞの意地を張っていた。
まぁ、プライドが高いのだろうが、夜遅くに女子が1人でいるというのは結構危ないと思うがな。
しかし、あの撃退力ならば心配はいらないだろう。
それよりも、俺の方も見廻りの時間に間に合わなくなってしまう。
急いで部屋へ戻ったのだった。
そして、今に至る。
「うわぁ......お前本当に、スキルないと雑魚だなぁ」
朝のホームルームでは、先日の技能テストの結果が帰って来た。
2時間連続でやったテストは、所謂体力測定というやつで、個人のステータスが試される。
それは前の学校でもやった事あるが、スキルを使っても良いというのは初だった。
で、さっきの酷い言葉は、俺の結果を見たマットの言葉だった。
「うわっ、酷でぇな」
「でも事実だろ?」
そうだけどよ......。
まぁ、確かにAからFまでの6段階評価で、ほぼF。それ以外はE。良くてもCという、とても残念な評価を頂いたわけだが。
「そんなに言うならお前のも見せろよ」
「いいぜ」
なっ!?こ、これは......
体力以外は全てB。
体力だけはF判定だった。
すごい、確かにすごいが......そのスキルを持ってしても、スピードがBなのか。
「へっ、どうだい」
ふんぞり返るマット。
そんな自慢するほどのものでも無いが......まぁ、すごいっちゃ凄いか。
少なくとも俺よりは断然上だ。ここは素直に褒めてやろう。
「凄いな」
「だろ?けどよ、他の人から貸してもらっちゃえばいいんじゃねぇの?」
あぁ、俺のスキルの話か。
「それはできない。貸してもらっている間は、その人はスキルを使えなくなるからな」
許可を得てから5分の間、俺がスキルを使える代わりに、貸した側は一切使うことは出来ない。
そこが、スキルを借りるという部分。コピーではなく、複製でもない。
ただ、貸してもらっているだけに過ぎない。
そして5分後には自動的に返される。
「そうなのか。なるほどね......本当に貸してもらうだけなわけだ」
「それに、毎回許可を貰っているようじゃ、怪しまれるからな」
出来ればスキルのことは内緒にしておきたいのだ。
......って、もう既に2人に話してしまっているがな。
「妹以外にも秘密に?」
「まぁな」
「妹さんには、何て説明してるんだ?スキルのこと」
「『1度見たスキルは、何でも真似することが出来る天才肌』みたいな?」
「よくそれで信じたな......」
「小さい頃の話だ。今はスキルよりも、俺そのものを強いと思い込んでいるよ......ったく、こんな結果。死んでも見せられないぜ」
それにこれ......どうやらテストの結果によって、暫定順位というものが決められるらしいな。
要するに仮の序列というもので、正式な序列は実戦で決められるらしい。
この学園では、闘うことでしか序列は変動しないらしい。
しかし、例えば100位の人が1位と闘うとする。そして、偶然にも100位が勝ったとしても、1位にはならないようだ。
序列はポイント制らしく、どういう仕組みなのかはよく分からないが、コンピュータが闘い方を見て判断し、決着の速度やギブアップの歳のダメージ量を計算してポイントが振り分けられる。
まぁ、ゲームのランクマッチみたいなものだな。
「そう言えばお前、何位だった?暫定順位」
と、マットが聞いてきた。
お前......何でもほいほいと聞きすぎだ。もう少しデリカシーを持ってくれ......いいけどさ。
「......443位」
「うひゃあ、下に7人しか居ねぇじゃねぇか」
うるせぇ。
というか、スキル使ってなくても下に7人もいるのか。
上には上がいるもんだが、下にも下がいるな。
可哀想だけど。
「前の3位とのバトルは反映されてないみたいだな」
「だな。あれはまだ暫定すら決まっていなかったから、ただのお遊びって感じだな。まぁ、バトルも別に順位が分かるものしか無いわけじゃないからな」
え?そうなのか?
「練習とかでバトルしたら、勝とうが負けようが順位は変わらない。じゃなきゃ、練習出来ないだろ?」
「まぁ、たしかに......」
「それと、当たり前だが下の奴に勝っても絶対に順位は変わらないぞ。負けたら落ちるが。勝ってもそのままだ。ま、ほとんどが上なお前にとってはあまり関係ねぇ事だろうが」
「......そうだな」
こいつ......早速今からこいつをぶっ飛ばして、順位をもぎ取ってやろうか。
そう思っていると、授業開始5分前のチャイムが鳴り響いた。
「おっと、もう授業が始まるのか。まぁ、授業も結構大事なこと学べるわけだし、やっといて損はねぇな」
「なんだその、『授業やりたくないけどやらなくちゃいけない自分への言い訳』みたいな台詞は......」
まぁ、俺も正直やりたくないんだけどな。
前の学校でもやってた所をこの学園では今習っていて、正直退屈だ。
特に世界史はつまらない。
そんなことを心の中で愚痴りながら、世界史の授業を受けていった。
──────────
昼休憩。
俺は屋上で、由貴と2人きりで昼食を摂っていた。
本来は来ては行けない場所らしいのだが、先生に呼び出しを食らったついでに、ちょっと職員室から鍵を拝借したのだ。
いや、呼び出しの内容に腹が立ったから鍵を盗んでやったとかではない。
決して、ステータステストの結果が悪かったからとやかく言われたとかではない。
「お味の方はいかがですか?お兄様」
「うん。すごい美味しいぜ!さすがは俺の妹だ」
「うふふ、嬉しいです」
本当に美味しい。
由貴がわざわざ早起きして、俺のために作ってくれた弁当だと思うと、泣きそうになってくる。
俺は兄として、今最高の気分を味わっている......!
「授業の方はどうでした?前の学校とは、やっぱり違いますか?」
「いや、ほとんど同じだよ。あぁでも、世界史は少し違ったなぁ......知らない所ばかり教科書に載ってる。由貴はもう習ったのか分からないが、あれ......あの、かた......かたなんちゃらってやつ」
「はい?」
「伝わんねぇか......」
何だか、世界が終わりかけたとか何とか......よく分かんねぇけど。
「あぁ、破滅の時代のことを言っているんですか」
「そうそう!なんかそんなようなやつ」
「あの時代は黒歴史と言われており、教科書にすらもざっくりとしか載っておりません」
「だよな。さっき気になって、ちょっとネットで調べてみたけどよ。噂程度の情報しか無かったぜ。まるで、その時代だけ抹消されているような、空白の時代だな」
「空白の時代......ですか」
確かに、他の時代も分からないことだらけだし、空白まみれ、穴だらけだが、どうもこの時代だけは空白が多すぎる。
まるで意図的に消されたような......忘れ去られるようにしているような。
「ま、そんなことどうでもいいけどよ。それよりお前の方はどうなんだ?楽しくやれてるか?」
「はい!お兄様がいらっしゃってから、毎日がハッピーです」
「そうかそうか、それは良かった。が、俺がいなくてもハッピーになれるようにしてくれ」
「え!?お兄様が......いなくても?」
はぁ......なんでそんな絶望したような顔をするんだ。
俺も人のことは言えないが、随分とブラコンな妹だな。
可愛いから良いけど。
「まぁいいや。今日はいつ帰れるんだ?」
「はい。今のところは何も無く、一緒に帰れるかと」
「了解。お前の荷物、まだ沢山部屋にあるからよ。さっさと持って行ってくれ」
ったく、俺を呼ぶついでに自分の荷物まで持ってこさせやがって......自分で取りに来いっての。
「も、申し訳ありません......」
うぉっ、本気で謝らせてしまった。
そんなつもりは無かったんだが。
「す、すまん。そんなに怒っている訳では無いんだ」
すると由貴は顔を上げ、俺の方を見てぱあっと明るい表情をした。
か、可愛い。
「ありがとうございます!お兄様はやっぱりお優しいのですね!」
「ま、まぁな......ははは」
正直、疲れないと言ったら嘘になる。
由貴はとても美人で可愛いし、それは俺だけではなく世間からも言われていることだ。
それに強い。
しかし、少し天然なところと、ブラコン過ぎる所が玉にきず。俺に対して素直過ぎており、少々疲れるのが由貴の悪い所。
まぁ、それ意外は最高だと俺は思っているがな。
「ふぅ、美味しかったよ。ご馳走様」
「お粗末さまです。またお時間のある時でよろしいのでお兄様のお料理が、また、食べてみたいなぁ......なんて」
俺の表情を伺いながら言う由貴。
可愛いぃ!じゃなくて......俺の料理?
「何でまた急に?」
「せっかくお兄様がいるのです。私だって、甘えたい時くらいあります」
そ、そうか......じゃあまぁ良いだろう。
......料理か。
作ったこと無くはないんだが......あまり美味しいものでは無い。
由貴は喜んではくれたがな。
「それじゃあ今日の夜にでも」
「やった!」
と、ここでチャイムがなった。
昼休憩終了の合図だ。
......ってヤバっ!鍵返さないと!
「それじゃあまたな」
「はい!」
急いで俺は教室へと向かった。
鍵は......また、そのうち返せばいいだろう。
──────────
帰り。
今日の授業は全て終わり、もう寮へと戻る時間だ。
約束通り、由貴と俺の部屋に(規則違反だが)帰っていた。
が、道中思い出し、急遽職員室へ戻ることとなってしまい、少し時間を割いてしまった。
鍵......すっかり忘れていた。
真正面から返すわけにもいかないので、先生が少なくなった所でこっそり返してきたわけだが、まぁ、バレていなければ良いなと祈るばかりだ。
「さ、帰りましょう」
「帰らせねぇよ」
......?
なんか、俺より低い声が聞こえた。
まるで昨日会った不良たちのような......
「って昨日あった人達!?」
「よう。昨日はよくもやってくれたな」
いやぁ......まぁ、やられたのは俺の方で、あなた達をやったのはアリシアなんですけどね。
と、そんなことに気付く様子もなく、いや本当は気付いているのだろうが、適わないと分かっていて、俺のことを代わりにボコりに来たということだろう。
......まずいな。今は由貴がいる状況で、非常にボコられたくない。
それに昨日よりは明らかに人が数人多くなっているし、明らかにボス的なクソでかい人が1人いる。
「やっちゃってくださいよ!ロナルドさん!」
ロナルド?
そう呼ばれた大柄の男は、俺達の方へのっそのっそと近づいてきた。
「よぉ」
「あ、ど、どうも」
「俺ァ、8位のロナルド=ジョイスだ。てめぇらか?俺の可愛い後輩達を虐めてくれた奴らは?」
ひぃい!先輩こっわ。
てか、でっか。2mは余裕で超えている身長だ。
そして横幅もでかい。
相当強そうだ。
「い、いえ......俺は確かに昨日いましたけど......えっと......」
ど、どうしよう......由貴を助けたいし、俺がボコられる所は見せたくないから、何とかして由貴だけは帰したい。
しかし、だからと言って昨日本当にいたアリシアを売るようなことは、俺には出来ない。
一体どうすれば......
「いや違いますぜロナルドさん。女の方は序列2位のオーディアールでして......」
「うるせぇ!目の前にいるやつからぶっ飛ばせばいい話だろ!」
そんな無茶苦茶な......
「さすがですロナルドさん!」
「やっちゃってください!」
「てめぇらは手ェだすな。俺が1人でぶっ倒してやる」
そう言うとロナルドと呼ばれる男は、そこら辺にいった大きな岩をすくい上げるように両手で覆った。
そして、あろう事かその岩を持ち上げたのだ。
とても持ち上げられるような大きさでは無いその岩は、俺の体よりも断然大きい。
そんな岩を、まるでウェイトリフティングのように自分の頭上へ高々と掲げた。
「『重量挙げ(ウェイトレスネス)』!!」
......終わった。
その馬鹿力がこいつのスキルなのだろう。
しかし、そんなことが分かったところで勝てっこない。
もはや相手に交渉の余地はなく、今にもその岩を落とそうとして来ていた。
「あなた方は、お兄様の敵ですね」
ッ!?ゆ、由貴!?
何を......
「お兄様に、危害を加えようとしているのですね」
「おい由貴......お前何を言って......」
「そんなの、私は許しません」
由貴は、片足を少し上げると、地面を思いっきり踏みつけた。
すると、その踏みつけた場所から地面が青白く変化し、一瞬でそれは辺り一面へ浸透した。
そして、その地面に立っていた不良達は、瞬く間に全身が凍った。
「ッ!!」
それは、悲鳴をあげることも出来ないほど、一瞬のことだった。
大柄の男ももちろん、他の奴らに比べれば少しだけ遅かったが、下半身から上半身まで凍って行き、ついには岩を持っていた腕まで、岩ごと凍らせてしまった。
「なん......だ......これは」
「お怪我はありませんか?お兄様」
幸い、というか......意図的にだろうが、俺の周りだけは凍っておらず、俺と由貴だけが氷に包まれることは無かった。
これが由貴のスキル、『吹雪』......。
氷を自由に生成することが出来るスキルだ。
俺は、言葉が出なかった。
これが2位の力なのだと、痛感した。
「すごいな......由貴は」
「いえ、そんなことは......」
バキィンと、突然氷が砕ける音がした。
音がした方を振り向くも、首を動かすだけで精一杯だった。
それほどに素早く、さすがは8位と言ったところか。
上半身の氷が割れ、持っていた岩を、再度投げようとしてきた。
まずい!と思ったのも束の間。
まだ倒しきれていなかったのに、決着が着いたと思っていたのが悪かった。
油断だ。
「ッ!!」
かわせない!
そう思ったその時、凄まじい音とともに、赤い光が見えた。
真っ赤に燃える炎。
それは、俺が避けられないと諦めるよりも速かった。
「どぅりやぁあああ!!」
まるで時が止まったかのように見えた。
大柄の男が持つ岩を、蹴り壊した炎。
その姿は、とても美しいものだった。
「なッ!?」
粉々に砕け散った岩を貫通し、向かうがわの地面へと着地したその炎は、そのまま地面を蹴ってもう一度男の方へと跳んだ。
そして、今度はその氷から飛び出している腹に向かって、炎の蹴りを食らわせた。
顔にではなかったのは、彼女なりの配慮だろう。
「おりゃぁあああああ!!」
まるで爆発したかのような音を出して、炎の蹴りは大きなみぞおちへと命中した。
見事に男は気絶。
助かった......。
炎を纏った女。
ひと目でわかった。
「アリシア!助けてくれたのか。ありがとう」
「べべ、別に!?ぐ、偶然そこを通りかかったらムカつく顔が見えたからね。ちょっと腹を蹴りに寄っただけよ」
なんだその理由......。
「お兄様。この人はお知り合いですか?」
「ん?あぁ、えっと......アリシアだ」
「アリシア......さん?」
「......」
由貴は、まるで初めて会うかのような顔をする。
お前ら、序列2位と3位だろ?会ったこと無いのか?
「初めまして。神鏡 由貴です。失礼ですが、あなたはお兄様とどのようなご関係ですか?」
「え!?い、いや!えっと......そう!ライバルよ!ライバル!」
ライバルだったのか......。
「お兄様のライバルを名乗るなど、百年早いです。あなたが序列何位なのかは存じませんが、私にも勝てないようではお兄様のライバルは務まりません」
何位なのか存じません、だと?
2位の由貴が、そのすぐ下である3位を知らないってのか?
「お前何言って......」
「お兄様は黙っていて下さい!」
えぇ......お兄様ちょっと悲しい。
愛しの妹に、そこまで強く言われるとは......。
「存じ上げない......だって......?いいわ、なら私が思い知らせてあげるッ!!」
と、アリシアも舐めたようなことを言われ、気に障ってしまったようだ。
由貴の、まるで自分より下には興味が無いかのような発言。
怒れるのも無理はない。
「ええ、私も。私の知らないところでお兄様と知り合った女性なら、追い払うのが私の使命ですので」
っておいおいまさか、ここでドンパチやろうってのか?
せっかく危ないところを助けて貰ったってのに、なぜそんなことをするんだ。
「ちょ、ちょっと、由貴。冷静になろうぜ?アリシアは別に闘いに来たわけじゃ......」
「止めないで蛍舞。2位と闘えるチャンスなんだから」
えぇ......2人ともやる気なんですか。
全く、近頃の女子高生は血気盛んだな。