表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

3位

昼。

言われた通り、訓練場へと来ていた。

場所はマットに聞いていたから分かっていたが......。


「まさかここまで広いとは......」


ドーム状の施設。まるで野球でもするのかというくらい天井は高い。

そして、周りは観客席となっており、真ん中のステージで闘う人を見ることが出来る。

そこで、驚いた事がもうひとつ。

観客席の3割くらいが、人で埋まっているのだ。

中には、先輩と思わしき人達も見える。怖っ。


「おいマット、これはどういう事だ」

「仕方ないだろ?2位のバトルなんて、皆見たいに決まっているさ」


まぁ、そりゃあそうか。

というか、ちゃっかりお前も最前列に座ってんじゃねぇか。

負け試合だって分かってんのに、見に来る意味なんてあるのか......?

あぁそうか、2位の兄対3位だもんな。

気になるのも無理はない。


「来たわね」


準備室で待っていたのは朝の女、アリシア。

もう既に運動着へと着替えていた。

両腕や両足にはサポーター。これから闘うということを意識させるような服装だ。


「あぁ。まぁな」

「先にステージで待っているから、くれぐれも私をガッカリなんてさせないでよね」


ガッカリ......ねぇ。それは、どういう意味でのガッカリだろうか。

思ってたよりも弱くてガッカリなのか、強すぎてガッカリなのか。

まぁ、どちらにしても俺は既にガッカリしているよ。こんなことに巻き込まれてな。

......とかなんとか文句を言いつつも、運動着に着替えてサポーターも付けて、準備完了してしまったわけだが。

完全初心者である俺に、3位の人が喧嘩売ってくるだなんて、初心者狩りにも程がある。

ま、適当に負けて満足させるだけだから、簡単な仕事だ。

さっさと終わらせて、次の授業の準備を────


「お兄様ー!」

「ッ!?」


う、嘘......だろ?


「頑張って下さーい!」


沢山の歓声が沸く中で、妹の声だけを拾うことなど俺にとっては容易いこと。

しかし、これは一体どういう事だろうか。

なぜ、こんな所に由貴が......?

いや、簡単な事だ。この観客達は、どこから情報を仕入れたのかは知らないが、実際に見に来ている。ならば、由貴の耳に入っていてもおかしくは無い。


「はぁ......」


しかし、困ったものだ。

本当に。

とても困った。

こうなってしまえば、俺としても簡単には負けられなくなってしまう。


「作戦変更......」


絶対に勝つ。


──────────



由貴のためなら俺は頑張れる。

そう思い続けてどれぐらい経つだろうか。

今だってそうだ。

由貴が見ているから負けられない。

たったそれだけの理由で、案外頑張れてしまうのが不思議なところだ。


「さぁ、始めようかしら」

「おう。いつでも来い」


俺もステージに立ち、両手を胸の前で構える。

それに対して相手のアリシアは、姿勢を低くした。

低く低く、もっと低く。手を床に着き、四足歩行のような姿勢になってからさらに低く、胸が床に着くほど低くしてから、一瞬で消えた。

視界から、いなくなった。


「───ッ!?」


瞬間移動?ワープ?

いや違う。

消えた瞬間に見えた床。アリシアが手足を着けていたと思われる箇所の表面が、少し剥がれてヒビが入っていた。

つまり......。


「速いッ」


慌てて後ろを振り向くも、既に遅く、目の前には拳が見えた。

大きな拳。いや、近いから大きく見える。

かわせるような時間は無い。

あぁ......終わった。


「ぶっがァ」


殴られた。

初動1発目から、いきなり顔面ストレート。

では無く、目の前に見えた拳はフェイント。

もう片方の拳で、俺の胸元にボディブロー。そんなフェイントしなくても、俺は避けられなかったけどな。

バキバキ、と骨の砕ける音が聞こえた。

痛みのせいか、少し熱さも感じた気がする。

「わぁあああ!!!」と、歓声が響き渡り、俺は負けを確信した。

そして、そのまま殴られた方向に向かって飛ばされて行き、床を転がって壁に激突。

何とか意識は保ってはいるが、頭がクラクラする。

痛みは一瞬だけで、今は感じない。ということは......後から酷くなっていくタイプなので、嫌だな。


「もう終わり?ちょっと弱すぎじゃないかしら」

「......」


現実的な話をすると、正直厳しい場面だ。

いくら頑張れるとはいえ、俺は本当に弱い。

そう、実は弱かったのだ。

この世界には、スキルというものが存在する。

『S.B.E』とは、スキルを駆使して闘う競技。

対面しているアリシアも、何かしらのスキルを持っているのだろうが、それは俺には分からない。

先程の速さも、おそらくはスキル......だが、速すぎて見えなかった。


「い......てぇ」


呼吸がしにくい。

潰れてしまった胸を抑えながら、俺はしぶしぶ立ち上がる。

俺は、我慢だけが取り柄なのだ。

そう......いつも我慢してきた。

俺のスキルが弱い分、我慢してきたんだ。


「だけど......」

「......?」


妹の前でだけは、負けられねぇ。


「タイムッ!!」

「............はぁ?」


次食らえば確実におさらばだ。

既にあばら骨は数本持っていかれており、吐血しそうになる。

サポーターは手足だけでなく、体にも着けておくべきだった......。


「これが『S.B.E』か......殺し合いだな」


おそらく、俺が実力者だと見込んでの攻撃だったのだろう。だから、ガードされてもダメージが通るように強く攻撃してきたはず。

アリシアは、「もう終わり?」と言っていたが、煽って来た訳ではなく、驚いたような口調だったので分かる。

......だが、俺は終わらない。

この試合はスタンダードルール。

時間無制限で、どちらかが気絶、もしくは再起不能になるまで、またはギブアップするまでの試合だ。

つまり、殺しさえしなければほとんど何でもあり。


「......マット」

「え、俺?」


一番近い列にいてくれて助かったよ......マット。

お前にしか、頼めないことがある。

俺は、辛さを我慢して、見た目だけでも元気なように見せる。

それが、今の俺に出来る唯一の抵抗だった。


「すまない。今だけ、お前の力を貸してくれないか......?」

「バトルには参加出来ねぇぞ」

「そうじゃねぇ......けど、とにかく力を貸してくれ」

「......」


こんな頼み方じゃだめだと、自分でも分かっている。

今日出会ったばかりの関係なのに、いきなり力を貸してくれとだけ言われても、具体的に何をすればいいのか言わないし、不審過ぎる。

けれど......。


「......ジュース」

「......?」

「帰りにジュース奢れよ」

「じゃ、じゃあ......!」

「いいぜ。何をすればいいのか分からねぇが、何でもいいぜ!」


......ありがとうマット。

その言葉だけで十分だ。


「話は終わったかしら?じゃあ、再開するわね」

「おう。次は俺のターンだ」


もう一度、俺は低くする。

しかし今度は違う。構える訳ではなく、そのまま走り出した─────素早く。


「ッ!?」


走る、走る、走る。

思いっきり床を蹴って、風を切るように走る。


「なっ、なに!?」


驚くのも無理はない。

なぜなら、俺の姿を捉えることはできないからだろう?

そう、俺は物凄いスピードで、アリシアの周りをグルグルと走り回っていた。


「なんてスピード......それがあなたのスキルなのね?」


このスピード......アリシアがゆっくりと動いて見えるほどだ。

しかし、その代わりに俺の消費される体力は半端じゃない。なるほど、ここまでとは俺も驚いた。

だが、一番驚いているのは......


「な......なんだ......と?」


マットだった。

まぁそうだよな。

なぜならこれは......お前のスキルだからな。


「く、速い......速すぎる」


時間が無いんでね。

一撃で決めさせてもらう!


「終わりだッ!」


完全に加速し、アリシアの目線が俺から確実に離れた瞬間。

アリシアの後方、と見せかけて下へ回り込み、足払いをした。

アリシアはその、後方からの一瞬の風を感じたようだが、遅い。

高速から繰り出される足払いによって、アリシアは大胆に体の側面を床へ叩きつけた。

そして間髪入れず、アリシアの上へ軽く乗っかり、拳を目の前へ突き出した。


「ッ!」

「はぁ、はぁ、はぁ......降参しろ......はぁ、はぁ、お前は、俺には......追いつけない」


息切れしながらも、アリシアへ降参を促す。

この状況でもまだ闘うと言われれば、俺は負けを認めざるをえないが、圧倒的な速度を見せつけた今なら......


「......分かったわ、降参よ......」

「......へっ」


や、やった......ぜ。

意識が途切れる最中。

歓声の中から由貴の声が聞こえた。


──────────


「お兄様ッ!!」

「うぉっ!?びっくりしたぁ......」


目が覚めて、目の前に現れたのは由貴の顔。

凄く近かったのだが、驚いたのはその可愛さだった。

ここは......見回した限り、どうやら保健室のようだ。ベッドの上で、身体中に包帯を巻かれている。

そうか、俺は体力を使い切り、ここへ運ばれたんだな。


「起きたのですね!よかったぁ......」

「すまない。心配かけたな......久々の戦闘だったもので、ちょっと体力が......実技の後だったし」


と、情けなく言い訳をする。

しかし由貴は、「仕方ないですよ」と理解してくれた。優しい妹だ。


「今、何時だ?」

「今はもう下校の時間です。二時間も寝ていたのですよ?」


げっ、マジかよ......。

初日から授業をサボるとか、いい度胸してんな、俺。


「しかし、勝ちは勝ち。入学当日に序列3位を倒してしまうだなんて......さすがはお兄様です!」

「お......おう」


全く、誰のせいだか......。


「邪魔するぜ」


保健室の扉を開けて入ってきたのは、見覚えのある生徒だった。


「マット......」

「大丈夫か?いや大丈夫じゃ無さそうだな!」


はっは!と、また笑うマット。

もはや昔からの友のようだ。わざわざ心配して来てくれたのか?優しいヤツめ。


「いやぁ、まさか勝っちまうだなんて驚いたぜ。お前強いんだな!」

「そうです。お兄様はお強いのです」

「んなっ!お前は序列2位の......!」


騒がしいな......由貴がいると、何かと面倒になりそうだ。


「何だか、喉が乾いたな」

「それなら、私が何かお飲み物を買ってきますね」

「あぁ、頼む」


と、由貴を部屋から出させた。

すまないな、由貴。お前には話せないことがあるんだ。


「......妹さんには、話せないことなのか?」

「察しがいいな。ま、わざわざここに来たのは見舞いのためじゃないんだろ?俺が試合中に使った、スキルについて」

「そうだ」


やはりな。

まぁ、分かりきっていた事ではあった。

だから、苦肉の策だったが、俺の最強を守るためにはこうするしかない......。


「あれは何だ?単に俺と同じ、または似ているスキルって事なのか?」

「いいや、違う。あれは正真正銘お前のスキルだ」


加速(アクセレーション)』。

身も心も加速させる能力。

それは、俺のスキルでは無く、マットのスキルだった。


「貸してもらったんだ。お前から」

「貸した?俺が......?そんな覚えはないが」

「......俺のスキルは『能力借用(スキルボロー)』。五分間だけ対象からスキルを借りることが出来る能力」

「......なに?」


そう、それが俺のスキル。

能力借用(スキルボロー)』。


「俺自身は、実はスキルを持っていない。だが、他人から借りることは出来る。条件は、許可を貰うこと。お前はあの時、いいぜと言った。だから貸してもらった」

「んな......!?そんなことが、出来るのかよ!」


出来る。

だから実際に、マットのスキルを使ったじゃないか。


「最強過ぎるだろ!そんなの。だったら色んな人からスキル貰っちゃえばいいじゃねぇか」

「それはできない。あくまで貸してもらっているだけだ。本人より上手く使いこなすことは出来ない」


スキルというのは、その個人個人によって形を変える。

逆に、スキル持ち本人は、そのスキルに適した体となっている。

例えば、炎のスキル持ちは、自分の炎で燃えたりはしない。

雷のスキル持ちなら、自分で感電はしない。

つまり、スキル持ちには自分のスキルに対して耐性があるわけだ。


「さっきので言うなら、俺はお前よりも体力を消費していた事だろう」


そこが俺のスキルのデメリット。

借りた人より、力を引き出すことができない。

そして、制限時間がある。


「けどよ。俺よりも速度が出ていなかったか?実際、俺のスキルで3位に勝っちまったわけだしよ」

「まぁ勝てたのにはいくつかズルい理由があるのだが、お前より速度が出せたというのは気の所為だろう。もしくは、あれが基本速度なのに、お前がビビっているとか何かで出すことが出来ていないだけ......とか」

「......なるほど。つまり、俺もあれくらいの速度は出せるってわけか......3位にも勝てるってことなのか!!」


ま、まぁそうかもな。

実際には、俺は初見殺しをしたようなものだが。

相手に弱いところを見せて油断させ、不意をつく。無理矢理勝ったようなものだった。


「すまないな......勝手にお前のスキルを使っちまって」

「別に良いってことよ。おかけでスキルの出せる速度も分かったわけだしよ」

「......ありがとう。だが、くれぐれも妹には内緒にしてくれ。頼む」

「いいけどよ。何でだ?」

「......色々あるんだ」


悪いが、話すと長くなってしまう。

妹の......由貴の前でだけは、俺は最強でなければならない。

絶対に、負けることは許されないんだ。


「......そうか。ま、困った時はお互い様だ。またいつでも頼ってくれよ!」

「......ありがとう」

「けど、ジュースは買ってくれよな」

「あぁ。もちろんだ」


優しいやつだな。

マット。お前が、俺のこの学園での最初の友達で助かったよ。

しばらくして、由貴が帰ってきた。

ジュースを買ってきてくれたようだが......どうやら俺の好きのが無く、遠くの自販機にまでわざわざ買いに行ってくれていたようだ。

ちなみに、俺の好きなのはコーンポタージュ。

運動後でもコーンポタージュなのだ。

そして俺は、痛む体を無理やり動かして、寮へ帰った。

帰りに、2人にジュースを買ってやり、由貴は自分の寮へ。俺を送って行くと言って聞かなかったのだが、1人で歩きたいと言って上手く帰した。

マットは、先生に見つかって連れて行かれてしまった。

どうやら忘れ物の常習犯らしく、課題を提出していなかったらしい。


「......はぁ」


疲れた......と、ため息が漏れる。

急に静かになった帰り道を、1人で歩いていると、もう日が落ちて来ているのにも関わらず、物陰から声がした。


「おい、ちょっと付き合えや」

「お前、3位のオーディアールだろ?転校生相手に負けたらしいじゃねぇか」


オーディアール?

2位......アリシア!?


「ははっ!どれ、俺達が稽古付けてやるよ」


嫌な雰囲気を感じて見に行くと、男3人とアリシアの姿。

アリシアは、男に無理やり腕を掴まれていた。


「くっ、離せ!」

「あぁん?いくら3位だからって、俺ら3人相手に適うとでも?」

「抵抗してないでこっち来いやぁ!」


知り合い......とはまではいかないが顔見知りだし、そもそも困っている人を見過ごす訳にはいかないな。

そう思い、俺は走って行って、男の腕を掴んだ。


「やめろ!嫌がってるだろ」

「あぁん?」

「何だぁ?てめぇは」

「ぶち殺すぞ」


うわっ、ヤクザだ。

悪者って感じだなぁ。まぁ、実際悪いことしてるみたいだけど。


「あなた......」

「おう。たまたま通りかかったら見つけてな。その女の子に用があるから君達、席を外してくれないか?」

「けけ、調子乗ってんじゃねぇぞ!」


男の1人が、俺に殴りかかってきた。

俺は、掴んでいる腕を離し、華麗にかわした......かった。

しかし、体は既に疲労困憊。それに付け加えて、俺は素は弱いときた。

そうなると必然と......


「ん?なんだコイツ、弱くね?」

「口だけはでけぇ野郎だな!」

「雑魚が!」


袋叩き。

それはもう、虐められているというようなレベルで、ボコボコだった。

殴られ蹴られ、スキルも使わずして圧倒されてしまった。

俺の体力はスッカラカン。それなのに、なんでこんなことをしているのだろう。


「ちょっとあんた達」

「あん?」


突如起こった風。

それと同時に、3人の男達は一斉に腹を抑えだした。


「うぐっ......お」

「ごふっ」

「ぐはっ」


そして続けざまに、男たちの抑えている部分の服から、火が出始め、少しづつ燃えだした。


「あ、あっつ!!」

「熱い熱い!!」

「焼けるぅうう!!」


必死に火を消そうとしながら、男達は逃げるように去って行った。

この速さ......まぁ、消去法でなくとも分かる。

アリシアだろう。


「何しに来たのかしら?」

「本当......何しに来たんだろうな、俺」


これじゃあまるで、わざとボコられてアリシアに助けられるために来たようなものじゃないか。

......正直ダサい。


「私をバカにしに来たの?おちょくってんなら、さっさと失せなさい」

「......すまない」

「─────と、言いたいところだったけれど。あなた、本当は弱いのね」

「......え?」


何だって?


「私を誰だと思っているの?序列3位のアリシア=オーディアールよ。今のやられ方、演技じゃないことくらいわかるわ」

「だ、だからって......」

「それに、私を倒した時もそう。あれ、あなたのスキルじゃないでしょ?」


............え?

なぜ?なぜバレているんだ?

確かにタイムと言って、マットの所へ言って話たけれども、例えあの時の会話が聞こえていたとしても、気づけなかったはずだ。

なぜ......?


「なぜ、それを......?」

「不思議そうな顔をしているわね。あなた、本当に私が3位である理由が分からなくて?」

「ど、どういうことだ?」

「私はね。この学園の生徒達のスキルを、全て把握しているのよ」


......は?

ちょっと待て、こいつ、さっきから意味のわからないことばかり言ってやがる。

全て把握?そんなこと出来るわけ......いや、できるのか?

覚えようとすれば、そんなことくらい......。


「私は努力でここまで上り詰めて来た。知識と技術と経験で。その知識の内の一つ、全生徒のスキルの把握。理解できないようなことでは、ないわよね?」

「た、確かに。勝つためにだったらスキルを覚えておく方がいいのだろう」


それは、初心者の俺でも分かる。

相手を知っておくことは、闘いにおいて何よりも役立つ情報だ。

知らない奴と闘うほど、怖いものは無い。

何より、相手のことを事前に知っておくことによって、予め対策を立てておける。

しかし、全校生徒だなんて......。


「本当に覚えようとするやつがいるんだな......」

「当たり前よ。これが3位の努力ってわけ」

「で、それと俺のスキルと、どういう関係があるんだ?まさか、俺が入学してすぐにスキルを知ったわけじゃないだろ?」


そもそも、スキルというのは普段は内緒にしているものだ。

少なくとも、自らバラすようなものでは無い。マットは例外だ。

そしてそれは、学園側も公認しており、一応は個人情報としてデータでの登録はされているようだが、それは学生には公表されていないらしい。

つまり、実際に見なければスキルはわからない。


「マット=ベルティーニ。彼のスキルは、『加速(アクセラレーション)』。ご丁寧に、本人が教えてくれたわ」

「あぁ、なるほど......」


知っていたのはそっちだったのか。

確かに、スキルというのは似たようなものがあっても、個人によって違う能力を持つ。

知っているのなら、マットのスキルだとすぐに気づくことだろう。


「しかし、もしかしたら時間をゆっくりにする能力だったかもしれないぜ?」

「もちろん確信は無かったわ。だけど、タイムと言ってからベルティーニと話していたわけだし、怪しんではいたのよ」

「怪しんでって......あ!カマかけたのか!」


あはは、と笑うアリシア。

くそ......やられた。


「しかし驚いたわ。どんなスキルなのかと警戒していたら、まさか知っているものだったなんてね。しかも、ベルティーニのものよりも数段スピードが上だったし」

「だが、知っているなら体力の問題も知ってたんじゃないのか?俺も息切れしていたわけだし。なんで降参したんだ?」

「......」


すると、アリシアは急に頬を赤く染めて、そっぽを向いた。

あれ......?俺何か、変なこと言ったか?


「......でしょ」

「え?」

「見たでしょ!?」

「え!?な、何を?」

「......私のスキル」


スキル......?

まぁ、見せては貰ったけれど、高速で移動していたから分からなかった。

結局、さっきの男たちに火がついたのも、力が強い理由も分からない。

けど......


「試合の時、私の腕......見たでしょ」

「あー......」


......見ました。

マットのスキルは、心も体も速くする能力。

つまり、動体視力や思考能力も素早くなる。

だから、見ちゃったんだ。

アリシアの腕に、鱗のようなものが付いているのを。


「その......聞いてもいいか?スキル」

「......私のスキルは、『獣化(サラマンダー)』」


あぁ、なるほどな。

自身の体そのものを獣のように変化させる系統のスキル、獣化。原型から変えてしまうため、人間離れした身体能力などが手に入るというものだ。

で、アリシアはサラマンダー。

サラマンダーとは、簡単に言えば炎のトカゲみたいなもので、伝説上の生物だ。

あのスピードや鱗、そして炎は、サラマンダーの能力だったのか。


「でも別に良いじゃねぇか。別にそれぐらい」

「駄目なのっ!......私にとって獣化は、その......は、裸を見られるのと同じくらい......恥ずかしの」


......ま、まぁ、そういう人もいるらしいからな。

自分のスキルが嫌いだとか、使いたくないとか、そういう人は結構いる。そりゃあ十人十色なんだから、おかしい話ではない。

しかし......。


「裸って......」

「今までは、私よりも速く動ける人なんていなかったから、『部位変化』なら見えなくて済んでたのに......あなたが私の速度を超すから......」

「けど、そんな理由で負けたのか?あのままだったらなら勝てたのに」

「......バカ」


え......。


「勝つか、目の前の男に裸を晒すか。どっちか選べって言われたら決まってるでしょ!!」

「あー......すまん」


気づかなかった。

確かにそうだ。俺は獣化した事ないから気持ちが分からないが、そう言われると分かりやすいな。

裸か勝利か。

いくら勝利に貪欲な人でも、さすがに見ず知らずの人に素肌を晒してまで勝ちたいとは思えない。

ま、それは獣化を裸だと思っているような奴にしか起こりえない葛藤だろうけどな。


「それで、あなたのスキルは?」

「え?」

「私は教えた。なら、あなたも教えて」

「......」


まぁ、そうだよな。

これじゃ対等とは言えないよな。


「分かった。教えよう」


俺のスキルのことを。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ