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幼馴染だった過去

来ぬ幼馴染を待つ姿

作者: 遠藤 良一郎

 1月のある日。大学生活の1年目を終えようとしているすぐ下の弟が、自室の窓辺にいた。

 弟の部屋は廊下と区分ける扉や壁がなく、書棚がかろうじて視界を遮ろうとしている。だから中の様子が筒抜けなのだ。

 中学生の妹と高校生の弟たちは学業に励んでいる平日の昼間、この弟は講義がないからといってバイトをするでも部活に励むでもなく、自宅で一人の時間を消化していた。交友関係の狭さは家族共通で、自分も例外ではないから言えることはない。自分だっていまは自主休講日という名の休日を自宅にこもってすごしているのだし。

 ()には元からどこか脆い部分があった気がするけれど、家が近かったさっちゃんやマオくんと遊ぶようになってからは安定した精神状態だったと思う。中学生の頃にさっちゃんを交通事故で亡くしてからは、以前にも増して危うい雰囲気を漂わせるようになった。それでもマオくんと居るときには本心からの笑顔を見せることもあったし、どこか楽しそうだった。


 あれから一年経つのか。


 廊下から見えるように母の部屋の扉にかけてあるカレンダーが視界に入る。

 一昨年の6月、マオくんが高校で休み時間に倒れて救急車で運ばれた。その場に梗はもちろん居合わせていたし、茫然自失の状態だったとの同級生の証言を母伝手に聞いたこともある。

 マオくんは昔から体調を崩すことが少なくなかったから、また回復するだろうと僕は甘く読んでいたのだけれど、梗はさっちゃんを亡くした直後にも見た気がするこの世の終わりのような顔をしていた。それから半年後、いまとちょうど同じ時季からは入院生活を送ることになった。共に過ごす時間が長かったから、些細な変化に気が付いていたのかもしれない。

 同じ時期から梗は部屋にこもる時間が増えた。といっても、今までマオくんとの時間に当てていた分が転化しただけだ。


「なに見てるの?」


 勝手に部屋へ進入するのはお互い様だ。顔を伺うとその視線は窓の外──ポストに付いた表札のあたりを見下ろしていた。幼馴染みのふたりが梗を呼びにくるときにそうしていたように、頬杖をついて楽しそうな表情で。


挿絵(By みてみん)


 ここではない時を見ているようで、そのまま帰ってこないなんてことがないように肩に手をおいて覚醒を促す。


「なにを見てるの?」

「……別に」


 素っ気ない返事は今に戻ってきた証拠。視線は窓に付いたゴミを捉えていた。

 窓へ手を伸ばす仕草は不安をかき立てる。そのまま窓枠から身を乗り出すようなことを平気でするのがいまの梗の状態だ。けれどこの部屋の窓は大きく開くことができない構造になっているから、ここでそれが現実になる心配はない。

 つまんだものを足下のくず入れに落としてから、やっとこちらを向いた。


「暖かそうですね」


 半纏を着ている僕を見てそう言った梗だって室内だというのにコートを羽織っている。これから見舞いにでも出かけるのか。


「着る?」


 午前中は大学へ行っていたはずだから、帰ってからも脱がずにそのままなのかもしれない。この部屋は暖房が効きにくいし、リビング以外では暖房を滅多に使わないこともあって室内で厚着なのは我が家の常識である。


「いりません」


 これだけ応答をしてくれるのだ、いまは放っておいても大丈夫だろう。


「そっか」


 飲み物を調達しにキッチンへ向かっていたことを思い出して、梗の部屋を後にする。

 平常時から放っておくとろくに食事もとらないような性質の梗にも、なにか持っていくことにする。

 いまは珍しく(双子の弟)がいないから、暇つぶしにつきあってもらうのもいいかもしれない。

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