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ルリハとナミホ 2  作者: カワラヒワ
9/13

街が好き?

「ナミホ」

 いつもの朝、岸辺にたたずむナミホに僕は声をかけた。

 久しぶりだった。コトネと会わせた日いらいだから、十日ぶりぐらいかな。

 最近、ぼくは人間にならないで、木の上からバイクで去って行くナミホを見送っていた。


ぼくは、毎朝ナミホをあいつに取られる自分が情けなくなった。きっと、その姿はナミホやあいつから見たらみじめに見えるんだろうな。

それで、もう朝は人間の姿でナミホに会わないようしていた。

 だけど、今朝はいつまで待ってもあいつがやって来ないので、声をかけたのだった。


「おはよう。久しぶりだね」

 ぼくはちょっと恥ずかしかった。久しぶりに会ったというのもあるけれど、ナミホが大人っぽく落ち着いた女の子に見えたから。

「おはよう。そうね、久しぶりね」

 ナミホは笑って砂浜に腰を下ろした。


「今日はバイクの人は来ないの?」

 ぼくは突っ立たままで聞いた。

「そう、今日はお休み」

 ナミホは前を向いたまま言った。風にふかれたナミホの長い黒髪が涼しげにゆれている。

 ぼくはナミホの横に座った。


「あの子は一緒じゃないのね」

 ナミホは少し意地悪そうに(そう見えただけかも)きいた。

「うん、一人で向こうの島に行っているよ」

 ぼくは砂浜に手をうずめて言った。


「ルリハは行かないの?」

「うん。コトネは街が楽しいって言うけど、ぼくは街はあまり好きじゃないんだ。人混みはくたびれるし、人間の姿で長い時間歩くのも疲れるし」

「そう」

 ナミホは素っ気なく言った。


「ナミホも街が好き?」 

 ぼくは端のかけた貝殻を海に放り投げた。

「べつに好きじゃないわ」

「じゃ、あいつのことが好きだから、街に行くの?」

 ぼくはナミホの青白い横顔がどう変わるのか注意して見た。


「あの人のことは好きよ。いろんなおもしろい話しをしてくれるし、あたしのことをかわいいって言ってくれるもの」

 ナミホは本当に楽しそうに笑って言った。

 あいつのことが大好きなんだ。ぼくなんかよりも。ぼくは悲しい気分になってうつむく。


 波の音が大きくきこえる。ぼくたちはしばらく黙って海を見ていた。

 向こうの島へ行ったきりのコトネも、ぼくよりも好きな人を見つけたのかもしれない。それでこっちに帰ってこないのかも。ぼくはそんなことを考えていた。


「ルリハはあの子があっちの島で何をしているか知っているの?」

「えっ」

 どきっとした。ナミホはまるでぼくの心を読んだようにきくから。


「コトネっていったわね。あの子悪い男にだまされて、その男にお金を貢いでるって、たけしさんが言ってたわ」

「それどういうこと? 悪い男って? たけしさんってバイクの人?」 

 ぼくは早口で言った。


「そうよ、あの人たけしさんていうの。貢いでるってお金なんかをあげることらしいわ。あの子ナイトクラブで働いているって、そうも言ってた」

「ナイトクラブ・・」


 ぼくはその後の言葉がでてこなかった。まさかコトネがあっちの島でそんなことをしているなんて。

 ぼくは黙ってナミホの顔を見つめた。ナミホが何か言ってくれると思った。でもナミホはそれ以上何も言わないで、前を向いてしまった。


 

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